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公園の前でタクシーを降りて園内に入っていくと、奥にある一番広い駐車場に白いテントが立っているのが見えた。
「あの中でサーカスをやってるみたいだな」
「たのしみ!」
「あぁ、先生もサーカスを見るのは初めてだから楽しみだ」
期待に胸を膨らませている互いの顔を見合わせて笑いながら、緑溢れる公園の中をテントを目指して進む。
今日は平日ではあるが、口を開いたライオンのイラストが描かれた正門には自由席のチケットを求める人達の行列が出来ていて、なかなかの盛況ぶりのようだ。
老夫婦や幼子を連れた母親、大学生らしき若者が中心だが、平日休みなのだろう働き盛りの大人の姿もある。
開演まで三十分を切り、既に開場が始まっていたので、チケットを見せてゲートをくぐる。
テントの周りにはジュースにポップコーン、焼きそばにフランクフルト等の軽食の屋台が出ていて、旨そうな匂いを漂わせている。
サーカスは二部制で、間に十五分の休憩を挟んで二時間ほどやるらしい。
前半が終わるとちょうど昼時になるので、休憩を使って軽く昼食をとろうと考えている人が多いのか、屋台は人だかりができて賑わっている。
「ナオくん、何か買って見ながら食べるか?」
「うん。これ食べたい」
キャラメルでコーティングされて甘い匂いを漂わせているポップコーンを、涎を垂らしそうな顔で指差す直人の為に、それを購入する。
他にもお握りと焼きそば、飲み物を買ってテントの中に入っていく。
薄暗いテントの中をチケットに記された席番号を探して進むと、ちょうどステージの正面の前から三番目という好位置だった。
デカい紙コップに盛り盛りに詰まっているポップコーンを二人で摘まみながら、開演を待つ。
こんな待ち時間も直人と二人なら、時間の無駄などではない楽しい時間だと思えてくる。
サーカスが始まると、会場内を満たす非日常的な雰囲気に心が躍り、直人以上に興奮して夢中になってしまった。
あっという間に二時間のショーは終わり、テントを出て公園を散歩する。
「ライオンさん、格好よかったね」
「そうだな。最後に戻っていった奴は、芸達者で面白かったな」
ライオンのショーで、一匹だけ指示に従わずに無視をするという高度な演技をしていた雄ライオンを思い浮かべて吹き出してしまうと、直人も一緒に笑いだした。
「ゾウさんは大きかったね」
「あんなにデカいのに、二本足で歩くなんて本当に芸達者だよな」
思わず声を上げてしまったゾウの二足歩行を思い浮かべていると、直人が腕を掴んで引っ張ってきた。
「どうした?」
「先生、あそこにおしろがあるよ」
興奮気味に言う直人の視線の先を見遣ると、確かに西洋のお伽噺に出てくるような城があった。
だがあれは、かつて俺が行きずりの男達と一時の快楽に溺れていた建物と同じ、情事をする人のために建てられた城だ。
「先生、見に行こうよ」
「ナオくん、あれは……」
サーカスの非日常的な雰囲気を引きずっているのか、本当にお伽噺の城だと思っている直人にどう説明すべきか考えていると、掴んだ腕をグイグイ引っ張ってきて、そこに向かって歩き始めてしまった。
公園の木々の枝が頭上を覆い、森の小道を歩いているような気分にさせてくる歩道を進んで大人専用の城の前に辿り着く。
城の白い外壁を見上げて瞳を輝かせた直人は、無邪気な笑みを浮かべている。
「あら、直人じゃないの。久しぶりね」
その雰囲気から入城して大人な一時を楽しむのだと分かる男女連れがこちらに近付いてきて、豊満な胸を見せ付けるようなワンピースを着た三十前後の派手な女が直人に声を掛けてきた。
「最近会ってくれないから寂しかったのよ」
女と腕を組んでいる四十くらいの身形のいいスーツの男が眉を顰めているのに、女は気にせずに直人に秋波を送り、猫撫で声で喋りかけてくる。
女が誰だか分かっていない直人は、きょとんと化粧で塗り固められた女の顔を眺めている。
女の眼差しと言動から、直人と関係を持ったことがあるのだと分かり、腸が煮え繰り返る。
「子供のお守りなんてさせられてるの? 折角会えたんだもの、そんな子なんて放っておいていいことしましょうよ」
一緒にいいことをするつもりだった男を放って直人に腕を絡めてきた女が、直人の厚い胸板に頬を擦り寄せてきた。
俺の中で、プチリと堪忍袋の緒が切れる音が聞こえた。
「直人は俺のものです。もう直人は俺しか抱かないんです」
女が絡み付いていない方の腕を引っ張って直人を引き寄せ、抱きついて唇に噛みつく。
突然の口付けに驚いた様子の直人だったが、すぐに俺に応えてくれた。
わざと音を立てて舌を絡ませて濃厚なキスを見せ付け、糸を引きながら唇を離して女を見遣ると、顔を青くして小刻みに震えていた。
直人は俺のものだ、ともう一度威嚇するように睨み付け、その手を引いて大人専用の城に入っていった。
「あの中でサーカスをやってるみたいだな」
「たのしみ!」
「あぁ、先生もサーカスを見るのは初めてだから楽しみだ」
期待に胸を膨らませている互いの顔を見合わせて笑いながら、緑溢れる公園の中をテントを目指して進む。
今日は平日ではあるが、口を開いたライオンのイラストが描かれた正門には自由席のチケットを求める人達の行列が出来ていて、なかなかの盛況ぶりのようだ。
老夫婦や幼子を連れた母親、大学生らしき若者が中心だが、平日休みなのだろう働き盛りの大人の姿もある。
開演まで三十分を切り、既に開場が始まっていたので、チケットを見せてゲートをくぐる。
テントの周りにはジュースにポップコーン、焼きそばにフランクフルト等の軽食の屋台が出ていて、旨そうな匂いを漂わせている。
サーカスは二部制で、間に十五分の休憩を挟んで二時間ほどやるらしい。
前半が終わるとちょうど昼時になるので、休憩を使って軽く昼食をとろうと考えている人が多いのか、屋台は人だかりができて賑わっている。
「ナオくん、何か買って見ながら食べるか?」
「うん。これ食べたい」
キャラメルでコーティングされて甘い匂いを漂わせているポップコーンを、涎を垂らしそうな顔で指差す直人の為に、それを購入する。
他にもお握りと焼きそば、飲み物を買ってテントの中に入っていく。
薄暗いテントの中をチケットに記された席番号を探して進むと、ちょうどステージの正面の前から三番目という好位置だった。
デカい紙コップに盛り盛りに詰まっているポップコーンを二人で摘まみながら、開演を待つ。
こんな待ち時間も直人と二人なら、時間の無駄などではない楽しい時間だと思えてくる。
サーカスが始まると、会場内を満たす非日常的な雰囲気に心が躍り、直人以上に興奮して夢中になってしまった。
あっという間に二時間のショーは終わり、テントを出て公園を散歩する。
「ライオンさん、格好よかったね」
「そうだな。最後に戻っていった奴は、芸達者で面白かったな」
ライオンのショーで、一匹だけ指示に従わずに無視をするという高度な演技をしていた雄ライオンを思い浮かべて吹き出してしまうと、直人も一緒に笑いだした。
「ゾウさんは大きかったね」
「あんなにデカいのに、二本足で歩くなんて本当に芸達者だよな」
思わず声を上げてしまったゾウの二足歩行を思い浮かべていると、直人が腕を掴んで引っ張ってきた。
「どうした?」
「先生、あそこにおしろがあるよ」
興奮気味に言う直人の視線の先を見遣ると、確かに西洋のお伽噺に出てくるような城があった。
だがあれは、かつて俺が行きずりの男達と一時の快楽に溺れていた建物と同じ、情事をする人のために建てられた城だ。
「先生、見に行こうよ」
「ナオくん、あれは……」
サーカスの非日常的な雰囲気を引きずっているのか、本当にお伽噺の城だと思っている直人にどう説明すべきか考えていると、掴んだ腕をグイグイ引っ張ってきて、そこに向かって歩き始めてしまった。
公園の木々の枝が頭上を覆い、森の小道を歩いているような気分にさせてくる歩道を進んで大人専用の城の前に辿り着く。
城の白い外壁を見上げて瞳を輝かせた直人は、無邪気な笑みを浮かべている。
「あら、直人じゃないの。久しぶりね」
その雰囲気から入城して大人な一時を楽しむのだと分かる男女連れがこちらに近付いてきて、豊満な胸を見せ付けるようなワンピースを着た三十前後の派手な女が直人に声を掛けてきた。
「最近会ってくれないから寂しかったのよ」
女と腕を組んでいる四十くらいの身形のいいスーツの男が眉を顰めているのに、女は気にせずに直人に秋波を送り、猫撫で声で喋りかけてくる。
女が誰だか分かっていない直人は、きょとんと化粧で塗り固められた女の顔を眺めている。
女の眼差しと言動から、直人と関係を持ったことがあるのだと分かり、腸が煮え繰り返る。
「子供のお守りなんてさせられてるの? 折角会えたんだもの、そんな子なんて放っておいていいことしましょうよ」
一緒にいいことをするつもりだった男を放って直人に腕を絡めてきた女が、直人の厚い胸板に頬を擦り寄せてきた。
俺の中で、プチリと堪忍袋の緒が切れる音が聞こえた。
「直人は俺のものです。もう直人は俺しか抱かないんです」
女が絡み付いていない方の腕を引っ張って直人を引き寄せ、抱きついて唇に噛みつく。
突然の口付けに驚いた様子の直人だったが、すぐに俺に応えてくれた。
わざと音を立てて舌を絡ませて濃厚なキスを見せ付け、糸を引きながら唇を離して女を見遣ると、顔を青くして小刻みに震えていた。
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