先生、教えて。

オトバタケ

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 空がしらみ始めた頃、気絶するように眠りに落ちた彼の体を清め、軽くシャワーを浴びてベッドに戻り、あどけない寝顔を眺める。
 カーテンを開けっぱなしだった窓から眩しい朝日が射し込んできて、ベッドに並ぶ二人をスポットライトを当てるように照らす。
 穏やかな寝息を立てている彼をもう少し寝かせてやりたかったが、そろそろ頃合いだと思い、軽く肩を揺すって覚醒を促す。

「んっ? ナオ……くん?」

 嬌声を上げすぎて掠れた声で俺の名を呟いた彼が、不思議そうに俺を見上げる。

「見せたいものがあるんだ。起きてくれるか?」
「っ……腰いてぇ……動けねぇよ」

 俺の頼みに頷いて起き上がろうとした彼が、眉間に皺を寄せてベッドに沈む。

「手加減出来ずにすまなかった。俺が運んでいこう」
「ちょっ……やめっ……我慢すりゃ歩けるって」

 シーツで彼を包んで横抱きにして抱えあげると、降りようと藻掻き始めた。

「っ……」

 暴れて腰に響いたのか、顔を歪める彼。

「大人しくしないと辛いのは君だぞ」
「誰のせいで辛くなってんだと思ってんだよ」
「君が欲しくて欲しくて堪らなくて、止まれなかった俺のせいだ」
「ばぁか。欲しくて堪んなくて止まれなかったのは俺も同じだ」

 真っ赤に染まった顔を背け、ぶっきらぼうに呟く彼が愛しくて強く抱き締めたい衝動に駆られたが、腰に響いてはいけないと奥歯を噛んで我慢する。

 彼を抱えて部屋を出て、振動を与えないようゆっくり階段を降りていき庭に出る。
 朝日を浴びて輝く芝の上を進み、物干し台の脇に置かれた朝顔の鉢の前まで行く。

「あっ……」

 それを見た彼が息を呑む。

「間に合ったようだな」

 二人の視線の先では、今まさに二人の子供が花開こうとしているところだった。
 どうだ、と見せつけるように、白い花弁を広げる我が子。

「綺麗だ……」
「綺麗に花咲く姿を君に見せると約束しただろ」
「ナオくん……ありがとな」

 太陽を浴びてキラキラと輝く白い朝顔に見とれていた彼が、俺の胸に顔を埋めて擦り付けてきた。
 暫くそうして沸き上がってくる想いが落ち着いた様子の彼が、再び二人の子供に目をやる。

「青いのが咲くと思ってたけど、白だったんだな」

 二人で買った朝顔の育成キッドには、青い朝顔の写真が印刷されていた。
 俺も蕾が膨らむまでは、青い朝顔が咲くものだとばかり思っていた。

「朝顔は色によって花言葉が違うそうだ。青系は儚い恋、固い結束という意味があるらしい」
「儚い……恋」

 苦しそうに彼が呟く。
 もう苦しむ必要はないのだと漆黒の髪を撫でると、安心したように目を細める彼。

「白い朝顔の花言葉は何なんだ?」
「溢れる喜び、固い絆だそうだ。俺たちの子供に相応しい花言葉だな」

 質問に答えて微笑み掛けると、泣きそうな笑顔を浮かべて頷く彼。
 君の両親はこんなに愛し合っていて幸せなんだと教えるため、我が子の前で口付けを交わす。

 寝室に戻り、ベッドに横たえた彼の脇に見守るように腰掛け、黒髪を梳きながら子守唄をうたうように、俺の生い立ち、彼に出逢ってからの気持ち、彼がいなくなってからの想いを伝える。
 静かにそれを聞いていた彼は目尻から一筋の涙を零し、にこやかに微笑んで眠りに落ちていった。
 暫く幸せそうなその寝顔を眺めて、俺も彼が傍らにいる幸せを噛み締めてから、ベッドの下に脱ぎ捨てられている衣服や汚れたシーツを洗いに一階に降りていく。

 二人の子供の前で、二人の洗濯物が仲良くダンスを踊る様に微笑みつつ、我が子に水を与えて立派に花開いたことを称えるように白い花弁に触れる。
 擽ったそうに揺れる花弁に付いた水滴が、二人が再び出逢えたことを祝福するように輝く。
 寝室に戻って彼の隣に横になると、求め続けていた温もりが傍にあることに安堵したのか、いつの間にか眠りに落ちていた。
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