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今日もいつもの日常
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毎朝同じ時刻に目が覚める。
6時45分。
これが彼のいつもの起床時間だ。
朝目が覚めるととりあえずTVを付ける。TVを付けながら玄関横にある流し台へ向かう。
起床後真っ先にすることは歯を磨くこと。
これは幼少期から変わらない。
物心ついた時からの習慣である。
TVを付けるのには特に意味がない。
いつものようにTVでは同じようなニュースが流れてくる。
『昨日また高齢者が運転する乗用車で事故がありました。乗用車は歩道に乗り上げ、通学途中の児童5人が軽傷を負いました。運転していたのは・・・』
TVで流れるニュースに耳を傾けながら、奥歯にも決して磨き忘れのないよう10分程度時間をかけゆっくりと磨く。
小学生の時歯医者さんによく褒められたものだった。
『福士くんは、歯を磨くのがうまいね。しっかりと磨き忘れのないように磨けている。みんなも福士君を見習うように!』
褒められたことがうれしくて、その日は家に帰ってからも何度も何度も歯を磨き、母親にも褒められるかと思いきや、逆に注意されしょんぼりしたこともあった。
福士の母親は専業主婦ではなかった。
毎日、福士が学校から帰ってくる時には家にはいなかった。
近所のスーパーでパートをしていたため、玄関の郵便受けの下の隠している箱から鍵を取り出し家に入った。
当初、自宅の鍵は首から下げて学校へ通っていたのだが、登下校の際に何度か失くしてしまい郵便受けの下に鍵を隠し、持たさないようにしたのだ。
鍵を取り出すときには慎重に周りを見渡して取り出すようにしていた。
鍵の在処が泥棒に見つると大変だからねと教えられていたからだ。
親の言いつけを守るいい子だった。
今でも親に逆らったことがあまり記憶にない。
反抗期という言葉がいまだに理解できない。
というより、親に逆らってまで押し通したい自分の主張がなかった。
クラスメイトの中には学校の帰りに商店街のお肉屋さんでコロッケを買って食べたり、公園で遊んでから帰宅する子どもたちもいた。
でも、福士は違った。
家に帰っても母親がいるわけでも、何かをしたいわけでもなく、ただ母親から
『学校が終わったら寄り道をせずに、まっすぐに家に帰るんだよ。』
と言われていたから守っていただけだった。
家に帰っても誰がいるわけでもなく、宿題をするわけでもなくただまっすぐ帰宅するという使命のもと行動しているだけだった。
学校から帰るととりあえずTVを付けた。
興味があるTV番組があったわけではない。
誰とも話す相手がいなかったからさみしくてTVを付けていた。
それが習慣になった。
これは43歳になった今でも変わらない。
帰宅したらTVを付ける。
朝起きたらTVを付ける。
毎朝歯を磨くのと同じ習慣だ。
今日もそんな、何の変哲もない朝だった。
歯磨きが終わると、去年バーゲンで買った少し毛玉ができた上下1,980円で買った無地のグレーのスウェットをベッドの横に丁寧にたたみシャワーのお湯をひねる。
あったかいお湯が出だすタイミングと、スウェットをたたみ浴室横に置いてある洗濯機にパンツとTシャツを投げ入れるタイミングはいつも同じだ。
浴室のドアを開きとりあえず頭からシャワーのお湯を浴びる。
頭を何回かゆすぐとその後はシャンプー。
銘柄は記憶にない。
メーカーも気にしない。
家の近くのスーパーで特売で売っている商品だ。
なくなれば、詰め替え用を探す。
見当たらなければ違うメーカーの一番安い商品を選ぶ。
シャンプーとヘアーコンディショナーのメーカーが違うのはそのせいだ。
統一感はない。
むしろそこに統一感は求めない。
若い時から服装や髪形に興味はない。
女の子にもてたいという願望を持ったことがないからだ。
もちろん女性に興味がないわけではない。
人並みに異性には興味がある。
決して同性に興味があるわけではない。
(自分は女性には縁がない生き物だ。)
そう感じていたからだ。
友人の中には女性からモテる友人もいた。
その友人たちを見ていると日常から意識が違う。
女性を惹きつける魅力が彼らにはあった。
髪形、服装だけでなく立ち振る舞い方の全てが自分とは違った。
髪の毛はボサボサ、服は自分に似合うか、体型に合っているかではなく機能性と値段だけで選んでいた。
少しでもポケットが多いもの。
冬なら防寒性の高いものを選んだ。
ファッションというものが分からない。
今までファッション雑誌というものを読んだことがない。
そもそも福士が通っていた近所の散髪屋さんにはそういった雑誌が置いていなかった。
かといって、カット中の会話を楽しむわけではない。
(前髪が目に入って視界が悪くなるからそろそろ行かなくちゃ。)
そう思って仕方なく行っていただけだ。
駅前の美容室に入ろうかと悩んだ時もあった。
その美容室で友人たちはカットしていたからだ。
福士にも勧めてきたことがあった。
そのタイミングで勇気を振り絞ってドアをあければよかったのだが、店の入り口に映った自分の容姿をとても恥ずかしく感じてしまった。
店内に座っている他のお客さん、店から出てくるお客さん、全てに引け目を感じてしまった。
(自分が来るところじゃない。)
そう思った福士はそこから立ち去った。
それからは、もう美容室に行こうと考えることはなくなった。
あの中学生の時に少しの勇気を出して美容室に飛び込んでいれば、今の人生少しは変わっていたかもしれない。
少なくとももうちょっとセンスのある髪形にはなっていたかもしれない。
服装に関してはよくセンスがないと言われる。
もちろんそんなことを言ってくれるのは古くからの友人だけだ。
でも言うだけでアドバイスはしてくれない。
たぶん興味がないからだろう。
他人に対して一生懸命アドバイスをしてくれるのは、その人に対して興味があったり好意があるからだ。
友人たちにとっては自分に彼女ができなくても関係がない。
むしろ彼女がいない分、いつでも誘うことができる。
友人にとっては彼女もいなく結婚もしていなく一人暮らしをしている福士は気軽に誘える数少ない相手だ。
飲みに行きたいとき、暇なとき、いつでも福士に連絡を取れば時間つぶしができる。
彼らにとってはその程度だ。
友人と呼べるのかさえ分からない。
本気で夢を語ったり、恋愛話などしたこともない。
そういえば一度だけ卒業旅行で一緒に旅をしたことがある。
高校を卒業したときに、いち早く車の免許を取った友人の運転で九州まで出かけた。
4人1室の部屋を取り、軽自動車のレンタカーを借り出かけたのだ。
たぶんそれも人数合わせだったのかもしれない。
3人よりも4人の方が旅館代が安いんだと聞いたことがある。
レンタカー代も高速代もガソリン代も、頭数が多い方が一人頭の出費は少なくて済む。
<友人と彼女。>
これが福士の青春時代に欠如していたものだった。
でもそのことに不自由は感じたことはなかったし、不憫だと思ったこともなかった。
あまり自分を他人と比べたことがない。
他人をうらやましく思ったり、自分が他人より秀でているはずだとか考えたこともなかった。
ただただ平和に日常を繰り返すことが自分に課せられた使命だと思っていた。
6時45分。
これが彼のいつもの起床時間だ。
朝目が覚めるととりあえずTVを付ける。TVを付けながら玄関横にある流し台へ向かう。
起床後真っ先にすることは歯を磨くこと。
これは幼少期から変わらない。
物心ついた時からの習慣である。
TVを付けるのには特に意味がない。
いつものようにTVでは同じようなニュースが流れてくる。
『昨日また高齢者が運転する乗用車で事故がありました。乗用車は歩道に乗り上げ、通学途中の児童5人が軽傷を負いました。運転していたのは・・・』
TVで流れるニュースに耳を傾けながら、奥歯にも決して磨き忘れのないよう10分程度時間をかけゆっくりと磨く。
小学生の時歯医者さんによく褒められたものだった。
『福士くんは、歯を磨くのがうまいね。しっかりと磨き忘れのないように磨けている。みんなも福士君を見習うように!』
褒められたことがうれしくて、その日は家に帰ってからも何度も何度も歯を磨き、母親にも褒められるかと思いきや、逆に注意されしょんぼりしたこともあった。
福士の母親は専業主婦ではなかった。
毎日、福士が学校から帰ってくる時には家にはいなかった。
近所のスーパーでパートをしていたため、玄関の郵便受けの下の隠している箱から鍵を取り出し家に入った。
当初、自宅の鍵は首から下げて学校へ通っていたのだが、登下校の際に何度か失くしてしまい郵便受けの下に鍵を隠し、持たさないようにしたのだ。
鍵を取り出すときには慎重に周りを見渡して取り出すようにしていた。
鍵の在処が泥棒に見つると大変だからねと教えられていたからだ。
親の言いつけを守るいい子だった。
今でも親に逆らったことがあまり記憶にない。
反抗期という言葉がいまだに理解できない。
というより、親に逆らってまで押し通したい自分の主張がなかった。
クラスメイトの中には学校の帰りに商店街のお肉屋さんでコロッケを買って食べたり、公園で遊んでから帰宅する子どもたちもいた。
でも、福士は違った。
家に帰っても母親がいるわけでも、何かをしたいわけでもなく、ただ母親から
『学校が終わったら寄り道をせずに、まっすぐに家に帰るんだよ。』
と言われていたから守っていただけだった。
家に帰っても誰がいるわけでもなく、宿題をするわけでもなくただまっすぐ帰宅するという使命のもと行動しているだけだった。
学校から帰るととりあえずTVを付けた。
興味があるTV番組があったわけではない。
誰とも話す相手がいなかったからさみしくてTVを付けていた。
それが習慣になった。
これは43歳になった今でも変わらない。
帰宅したらTVを付ける。
朝起きたらTVを付ける。
毎朝歯を磨くのと同じ習慣だ。
今日もそんな、何の変哲もない朝だった。
歯磨きが終わると、去年バーゲンで買った少し毛玉ができた上下1,980円で買った無地のグレーのスウェットをベッドの横に丁寧にたたみシャワーのお湯をひねる。
あったかいお湯が出だすタイミングと、スウェットをたたみ浴室横に置いてある洗濯機にパンツとTシャツを投げ入れるタイミングはいつも同じだ。
浴室のドアを開きとりあえず頭からシャワーのお湯を浴びる。
頭を何回かゆすぐとその後はシャンプー。
銘柄は記憶にない。
メーカーも気にしない。
家の近くのスーパーで特売で売っている商品だ。
なくなれば、詰め替え用を探す。
見当たらなければ違うメーカーの一番安い商品を選ぶ。
シャンプーとヘアーコンディショナーのメーカーが違うのはそのせいだ。
統一感はない。
むしろそこに統一感は求めない。
若い時から服装や髪形に興味はない。
女の子にもてたいという願望を持ったことがないからだ。
もちろん女性に興味がないわけではない。
人並みに異性には興味がある。
決して同性に興味があるわけではない。
(自分は女性には縁がない生き物だ。)
そう感じていたからだ。
友人の中には女性からモテる友人もいた。
その友人たちを見ていると日常から意識が違う。
女性を惹きつける魅力が彼らにはあった。
髪形、服装だけでなく立ち振る舞い方の全てが自分とは違った。
髪の毛はボサボサ、服は自分に似合うか、体型に合っているかではなく機能性と値段だけで選んでいた。
少しでもポケットが多いもの。
冬なら防寒性の高いものを選んだ。
ファッションというものが分からない。
今までファッション雑誌というものを読んだことがない。
そもそも福士が通っていた近所の散髪屋さんにはそういった雑誌が置いていなかった。
かといって、カット中の会話を楽しむわけではない。
(前髪が目に入って視界が悪くなるからそろそろ行かなくちゃ。)
そう思って仕方なく行っていただけだ。
駅前の美容室に入ろうかと悩んだ時もあった。
その美容室で友人たちはカットしていたからだ。
福士にも勧めてきたことがあった。
そのタイミングで勇気を振り絞ってドアをあければよかったのだが、店の入り口に映った自分の容姿をとても恥ずかしく感じてしまった。
店内に座っている他のお客さん、店から出てくるお客さん、全てに引け目を感じてしまった。
(自分が来るところじゃない。)
そう思った福士はそこから立ち去った。
それからは、もう美容室に行こうと考えることはなくなった。
あの中学生の時に少しの勇気を出して美容室に飛び込んでいれば、今の人生少しは変わっていたかもしれない。
少なくとももうちょっとセンスのある髪形にはなっていたかもしれない。
服装に関してはよくセンスがないと言われる。
もちろんそんなことを言ってくれるのは古くからの友人だけだ。
でも言うだけでアドバイスはしてくれない。
たぶん興味がないからだろう。
他人に対して一生懸命アドバイスをしてくれるのは、その人に対して興味があったり好意があるからだ。
友人たちにとっては自分に彼女ができなくても関係がない。
むしろ彼女がいない分、いつでも誘うことができる。
友人にとっては彼女もいなく結婚もしていなく一人暮らしをしている福士は気軽に誘える数少ない相手だ。
飲みに行きたいとき、暇なとき、いつでも福士に連絡を取れば時間つぶしができる。
彼らにとってはその程度だ。
友人と呼べるのかさえ分からない。
本気で夢を語ったり、恋愛話などしたこともない。
そういえば一度だけ卒業旅行で一緒に旅をしたことがある。
高校を卒業したときに、いち早く車の免許を取った友人の運転で九州まで出かけた。
4人1室の部屋を取り、軽自動車のレンタカーを借り出かけたのだ。
たぶんそれも人数合わせだったのかもしれない。
3人よりも4人の方が旅館代が安いんだと聞いたことがある。
レンタカー代も高速代もガソリン代も、頭数が多い方が一人頭の出費は少なくて済む。
<友人と彼女。>
これが福士の青春時代に欠如していたものだった。
でもそのことに不自由は感じたことはなかったし、不憫だと思ったこともなかった。
あまり自分を他人と比べたことがない。
他人をうらやましく思ったり、自分が他人より秀でているはずだとか考えたこともなかった。
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