LIFE ~にじいろのうた~

左藤 友大

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第七話 神馬の日常(藤目 神馬 編)

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季節はすっかり夏になり7月が始まったばかりなのに外に出ると焼けるぐらい暑い。
宮古島は冬でも暖かい所だと聞いたが夏になるとさすがにすごい暑い。6月と比べて全く変わらない暑さで日差しがおれの頭上に差し込んでいるので頭が熱くなった。強い日差しと暑さを我慢しながらおれは家を離れた。
白い半袖ワイシャツと制服ズボンを着てスニーカーを履いている足を動かし彼の家へ向かった。
彼はおれの近所に住んでいる子で3年間、宮古島に住んでいる。彼は祖父母と三人で暮らしおれより年下なのだ。おれが通う中学から近い小学校に通っている。朝はいつも彼と一緒にバスに乗って学校へ行っているのだ。
でも、彼は普通の小学生とは違うもう一つの顔がある。
彼の家に着くとおれはインターホンを押した。すると、インターホンから女性の声が聞こえた。彼のおばあさんだ。インターホンを押してから数秒待つとガチャリと家のドアが開いた。
現れたのは、ランドセルを背負った輪郭が整っている肌白くて薄い顔をしている男の子が出てきた。よく見たら良い顔をしている。
彼の名は羽藤 虹。小学5年生でおれの友達だ。
「おはよう。虹くん」
挨拶をすると虹くんはとても明るい笑顔でおはよう、と挨拶を交わした。
虹くんとバス停まで歩いている時は、大体EHR(アース)の話をしている。EHR(アース)というのは、大人気ネットワークアプリ「Edens Recreation Heaven」の略称である。
虹くんはもちろんおれもEHR(アース)をやっている。おれはここのところ、虹くんのカバーソングを聴いている。彼の歌は繊細で力強く、子供とは思えない素晴らしい歌声を持っているのだ。
「昨日のカバーソング、聴いたよ。めっちゃよかった!」
そう伝えると虹くんはとても嬉しそうに笑った。
「ありがとう」
実は、虹くんはEHR(アース)で最も注目されている人気シンガー「NIJI」なのだ。EHR(アース)を初めてからたった一日でワールド・ソング・チャート カバーソング部門1位とERH・ワールド・ミュージック・チャート ルーキー部門1位、ミュージック・チャートランキング1位という異例を起こし彼が初めてEHR(アース)のミュージック・コンテンツに投稿したGReeeNのカバーソング(アカペラver.)が累計467万3908再生回数と叩き出しフォロワーは3300万人突破した。おれより遥かな上に立ちたった一日で有名になった虹くんに嫉妬しそうになったが、友達としてすごく嬉しかった。そして、虹くんが作曲と編曲を作ってほしいと思ったらいつでもおれに声をかけるよう伝えてある。

バスには通勤する人や学校へ行く子供の姿が見えた。虹くんは座席に座りおれは吊り革に捕まりながら揺れていた。片手にはスマホを持ち佐藤からLINEのメッセージが着ていた。
昼食時間と昼休み、FIRE BALLの記念すべき最初の曲をお披露目し話し合うことになっているのだ。FIRE BALLというのは、おれと佐藤、伴、牧が結成したバンドグループだ。佐藤はボーカル、牧はキーボード、伴はドラム、そしておれはギターを担当している。佐藤はおれと同じクラスだが牧と伴はそれぞれ違うクラスにいる。バンドを組もうと提案したのは他でもない佐藤だ。先月、今後の活動について話し合っている時に曲作りはおれに任せてくれと三人に伝え、すぐ家に帰って夜更かししながらも楽曲を作ったのだ。でも、おれが作った楽曲はあくまでサンプルだ。メンバーの意見を聞かなければならない。佐藤は作詞担当で今、絶賛制作中みたいだ。もちろん、テーマは決まっている。とても盛り上がるような楽しい楽曲だ。おれ達は、今年の10月に行われる中学の文化祭でお披露目することを目標にし試行錯誤、頑張っているのだ。
時々、寝坊するという始末で先生に注意されることがちょっとだけあったが、そんなに気にしてはいない。おれのスクールバッグには最新型のiPad proが入っている。そのiPad proの中に作った楽曲のデータが入っている。
目的のバス停に着き途中までは一緒だった虹くんと別れおれは中学校の校門を通った。周りには多くの中学生達がいて挨拶を交わしながら和気あいあい会話をしている。校舎に向かっていると突然、後ろから肩を組まれた。
「よっ。藤目」
肩を組んできたのは、FIRE BALLのボーカル佐藤だ。佐藤はスクールバッグを担ぎ無造作にシャツを出しショートパーマというオシャレな髪型をしている。おれが挨拶を交わすと
「曲の方どうだ?」
「一応、できた。あくまでサンプルだからみんなの意見を聞いた方がいいなと思って」
そう教えると佐藤はおおっ、と期待の声を出した。
「そりゃ楽しみだな」
「佐藤は?作詞の方は進んでるのか?」
「まあな。できたら教えるさ」
すると、佐藤がNIJIの話に切り替えた。
「昨日のNIJIの歌、聴いたか?」
おれは頷いた。
「昨日出たカバーソング、マジ良かったよな~。改めて思うとNIJIってすげぇよ。この短期間で有名人になったからな。Twitterでも話題が止まないよ」
おれはNIJIが虹くんだっていうことを知っている。でも、これはおれと虹くんの二人だけの秘密にしているのだ。
初めて会った時は、虹くんは兄貴と両親を失ったせいで歌と音楽が嫌いになりおれが歌手になれると自信もって伝えたが、本人は歌手になれないと否定し拒んでいた。でも、そんなある日、一通のメッセージが届いたのだ。届いたのは、録音された歌だ。曲名は嵐の「カイト」でおれは彼が送ってくれた録音を再生して歌を聴いた。彼が最初のフレーズを歌い出したその時、ぼくは度肝を抜かれた。普段聞いていた虹くんの声とは少し違う繊細で力強く、子供とは信じられないほどの素晴らしい歌声がぼくの耳に響いたのだ。虹くんの歌を聴いた時から絶対に彼をEHR(アース)に誘うべきだと踏んだ。EHR(アース)で虹くんの歌声を公開すれば日本中、いや世界中に彼の歌が広まり大きな話題を呼びEHR(アース)一の歌手になれる。そう思った時は、心が高まった。だとすれば、虹くんをプロデュースし彼におれが作った楽曲を提供すれば少しおれも有名になれるはずだと考えたのだ。虹くんことNIJIが全国、いや世界中のテレビ番組に紹介されてから3日後、おれがNIJIをプロデュースしてやると話した時、虹くんは鳩に豆鉄砲を喰らったかのような顔をしていたが無事、本人から了承を得た。今はアカペラでカバーソングを歌ってもらっているが、虹くんが楽曲作りの依頼が来たら喜んで行うつもりだ。おれは歌や歌詞を作るのは苦手だが楽曲作りと編曲作り、そして機械弄りは得意中の得意だ。
「NIJIの素顔ってどんな顔なんだろうな。会ってみたいな」
佐藤はNIJIのファンの一人。突然、NIJIが現れて最初の歌を聴いた時から彼の歌の虜になったのだ。クラス中もNIJIの話題で持ちきりになったりもした。噂だと誰かが勝手にLINEグループでのNIJIのファングループを作った子がいると聞いたことがある。
ファングループか・・・・
いいかも知れないけど、虹くんはどう思うのか。勝手に彼の公式ファンクラブを作るのも悪いから後で相談した方がいいなと思った。
中学に通う生徒の数は静岡とは違って少し少ない方だ。全校生徒は95人もいる。静岡の中学に通った時は、700人以上いた記憶がある。あまりの生徒の人数が少なくて少しビックリしたが、慣れればそうでもなかった。

授業中はみんな静かに先生の話を聞きながら教科書を読んでいた。
おれは教科書を読みながら先生の話を聞き黒板を見ていた。黒板には先生がチョークで描かれた数式と図が見える。数学は得意とはいえないが、国語よりはマシだった。しかし、五時間目にはおれが最も恐れている国語があるのだ。
四時間目になった頃、おれ達2年C組は音楽室にいた。音楽の授業でクラスの前に出て歌を披露するという地獄が始まっていた。おれは、歌だけはオンチだから次の順番が来るのを恐れていた。課題曲は「風をみつけて」だ。ピアノが奏でる優しい旋律が音楽室内に響くと共にクラスのみんなの前で一人の男子が歌っている。その子が歌い終わり先生からアドバイスを受け席に戻ると次の生徒へと出番が来る。そうやって、順番ずつ先生に呼ばれ緊張する子もいれば自信がある子もいて次々と前に出て歌った。そして、遂におれの出番が来た。みんなはおれが歌に関してはオンチだということは既に知っている。クラスのみんなの前に立つとクラスメイト一人一人がこちらを見ている。緊張はしないが絶対、笑い者になるなと思った時に先生がピアノの伴奏を弾き始めた。おれは伴奏をしっかりと聞きながら歌い始めた。ちゃんと伴奏を聞いているつもりがスタートしてからすぐに音程(インターバル)が取りづらくなり歌い方があやふやになってメロディと全く合わなくなっていた。クラスのみんなはクスクスと笑っているがおれは気にせず最後まで歌い上げた。歌い終わると先生からちょっとだけ音程確認を受けアドバイスを貰いおれは席に戻り次の生徒へとバトンを渡した。一方、佐藤は本当に歌がうまいので何事もなく「風をみつけて」を歌い上げた。佐藤は先生からOKを貰った。

昼休みの時間、昼食を終えたおれと佐藤、そして伴は2-Bにいる牧と合流し他の子が座っていた椅子を借りておれ達は一か所になって牧がいる席に集まった。そして、サンプルとして作ったFIRE BALL一作目の楽曲を佐藤達に聴かせた。タブレットから音楽が流れ画面にはそれぞれの楽器を設定した音程解析図が映っている。エレキギターと電子キーボード、ドラムの音程を使っている。解析図の音程は種類ごとに色で分けられていてエレキギターは赤、電子キーボードは緑、ドラムは青だ。
楽曲のスピードは少し速いが疾走感ある洋楽風ロックにしてみた。しかし、あくまでサンプルなのでAメロだけしか作らなかった。彼らの決定次第でこのサンプルを公式としBメロとCメロ、最後の取りとなる大サビを作るつもりだ。
Aメロ部分が終わると佐藤はすごい嬉しそうにおれの方を見た。
「公認!」
「ホントにこれでいいのか?」
おれはこのサンプルの曲を公式にしてもいいのか確認すると佐藤は文句一言も言わず納得している顔で頷いた。
「ああ。最初の曲に相応しい曲だ。おれが思っていた曲はちょっと違ったがこれにしよう。伴、牧、お前達はどうだ?」
伴と牧は納得した顔で頷きグーサインをした。
「異議なし」
「気に入った」
佐藤は
「決まりだ。だとすれば、まだ途中だったけど詞を作り直さなきゃな。後でおれのLINEに送ってくれないか?」
「わかった」
このサンプルが正式にFIRE BALL記念すべき一曲が決まった。後は、このサンプルの楽曲にBメロとCメロ、そして大サビを作れば完成だ。
「Cメロもあるから3番歌詞、忘れないでよ」
Cメロも追加することを知らせると佐藤はOK、と返事した。
「佐藤、どうする?もう一曲だけ藤目に作らせるか?」
牧が訊ねた。確かに、一曲だけじゃちょっと物足りない気がした。
「藤目。できるか?」
どうやら、佐藤はもう一曲、作ってほしいみたいだ。
でも、おれはラッキーと思えた。
「全然OK。どんな楽曲にしてほしいとかリクエストあるか?」
佐藤は考えた。一曲目は疾走感があるロック。そして二曲目はどんな楽曲にするのか。
飯を食いながら佐藤はしばらく考えたがどんな楽曲にするか決めたみたいだ。
「ラブソングに合う楽曲にしてほしいな」
ラブソングか。音楽アプリなどのライブでいくつか作ったことがある。
「明るめなやつがいいな。ヨールカイの「恋空」とかヨルシカの「ただ君に晴れ」みたいな」
おれは忘れないようiPad proのメモアプリに佐藤が出した注文を入力した。ヨールカイとヨルシカは聞いた事があるので後でどんなテンポで音程と音階にするか確認してみることにした。
「分かった。やってみるよ。伴、牧。一曲目の楽譜ができたらすぐ渡すからもう少し待っててくれ」
伴と牧は頷いた。
「わかった」
「よろしく頼む」
すると、おれのスマホにバイブ音が鳴った。机の上に置いたスマホを手にして電源を入れるとLINEメッセージの着信が届いていた。
内容を見てみると今日、一緒に帰れるか訊ねてきたのだ。でも、それだけじゃない。何やらおれに相談があるみたいだった。

放課後、おれは虹くんと一緒にバス停へ向かって歩いていた。
おれは昼休みに届いたメッセージに書かれてあった相談したいことは何なのか虹くんに訊ねた。
虹くんは自分のEHR(アース)専用アカウントを開き届いたDMを見せてくれた。
「ソニーミュージックとかエイベックスの本社からうちのアーティストにならないかっていう誘いが着たんだ」
おれは驚き興奮した。
「すごいじゃん!」
しかし、虹くんは嬉しくないみたいだ。
「でも、ぼく。別に有名人になりたくて歌っているわけじゃないんだ。ただ、みんなに聴いてほしくて歌っているだけ。オファーを受ける気もしないし、どう断ればいいのか分からなくて」
虹くんはせっかくのチャンスを切り捨てようとしていたのだ。音楽業界で有名な会社からオファーが来るなんてそう簡単ではない。
もったいない気もしたが、もしかするとなりすましという可能性も高いし虹くんはオファーを受ける気は全くないので仕方がなかった。EHR(アース)ではエイベックスなどの有名な音楽会社、芸能事務所などから新人開発でスカウトをすることが多いのだ。ネットの世界は広い。だから、アーティストを目指している者、俳優や声優、タレント、芸人、アナウンサーを目指している者を見つけ気になったらDMで連絡すル手筈になっているのだ。まぁ、誰もが自分のアカウントに素顔を公開し自分のプロフィールを詳しく書いている人が多い。でも、中にはうまい話には裏があるという言葉もある。有名な事務所や会社の名前を利用してなりすましているアカウントもこのネット世界に実在する。だから、十分気をつけなければいけない。でも、まあそういう愚かな輩がいたらEHR(アース)の利用者を見守り怪しいアカウントの利用者がいないか目を光らせながら監視している「BUSTERS(バスターズ)」というEHR(アース)のネット世界を守る特別警察(スペシャル・ポリス)がいる。彼らがいる限り詐欺や違反勧誘などの犯罪はきっと起こらないだろう。
おれは断る言い訳が思いつかなく困っている虹くんにアドバイスをした。
「簡単なことだ。そのままお断りすればいいんだよ。そんなに難しく考える必要はない」
「なんか、直球すぎない?」
「だってホントさ。「お誘い頂けてとても嬉しいのですが、お断りさせていただきます」って返事を送れば相手はすんなり諦めてくれるよ」
「そんなもんかな?」
「そんなもんさ。難しく考えなくても素直な気持ちで断れば分かってくれるさ」
そう教えると虹くんは納得したのか、そうだよね、と軽く頷き始めた。

夜─
風呂に入り夜飯が済んだ後、自分の部屋でAメロだけしか作らなかったサンプル楽曲の編集を取り行い今は、佐藤から注文された明るめなラブソングの楽曲を作り始めたところだ。
まず初めに作曲アプリにあるオンスクリーンキーボードのピアノを弾いてどんなリズムにするか頭で思い浮かんだ曲のテンポやキーを調整し試行錯誤しながらメロディを作っていく。ピアノのリズムとキーをどのくらいにするか決まったら録音し次はドラム、ギターのリズムとキーを調整し作らなかければならない。学校の授業よりこっちの方が楽しくて全く飽きない。音程解析図の調整が終わったら次は楽譜作りだ。完成した楽曲を聴いて確認しながら楽譜を書くのがおれのやり方だ。サンプルだった楽曲の楽譜作りは後回しにして今は、ラブソングの楽曲作りを優先にコツコツと時間を費やしながら明るいラブソングに合いうそうなメロディを探るかのように鼻歌を歌いながらオンスクリーンキーボードを弾く。
ラブソングの楽曲作りを始めてから何時間たったのだろう?楽曲作りに夢中で時間を忘れてしまっていた。
少しずつ明るいラブソングらしい音楽になってきた。これなら、きっといいラブソングができて佐藤も納得してくれるはず。
最初の楽曲を作った時も同様、今回のラブソング作りも調子が良い。
もうすぐ、Aメロが完成しそうになった時、突然ドアが開く音が聞こえた。
「まだ起きていたの?さっさと寝なさい」
パジャマ姿のお母さんが部屋に入って来たのだ。もしかすると、部屋の外まで音が聞こえていたのかもしれない。スマホの時計を見てみるともう深夜1時過ぎになっていた。あまりにも夢中で楽曲作りをしていたので全く気がつかなかった。
あともう少しでAメロが完成しそうなところでお母さんから早く寝なさいと言われうるさいなぁと心の中で愚痴をこぼしながらもさすがに逆らえないのでお母さんの言うことを聞くことにした。もう寝ると伝えるとお母さんは部屋を出て行った。ラブソングの楽曲作りの続きは明日にして立ち上げていたパソコンの電源を落とし電気を消してベッドに入った。
仰向けになって寝ながらスマホを弄った。立ち上げているのは、Twitterのタイムラインだ。そのタイムラインの中にフォローしているアカウントにNIJIのことで呟いていた。彼のツイート画面にNIJIが今まで歌ってきたカバーソングのダイジェスト動画がアップされていた。きっと彼もEHR(アース)をやっていてダイジェストを作ったんだろう。いいねとリツイートの数はやや多い。
やっぱり、おれより先に虹くんが有名人になったのは正直、悔しい。でも、友達としてか嬉しい気持ちもあった。
これからは楽曲作りをしながら虹くんをサポートする。彼の歌をプロデュースしオリジナル楽曲を作ればすれば大ヒット間違いなし。プロデュースをするのは初めてだが音楽を愛する者同士、お互い協力すれば難しくないと思った。
TwitterにこれからはおれがNIJIをプロデュースをする。とツイートに記入し投稿した。こうすれば、おれのTwitterでのフォロワーが多くなるはず。NIJIをプロデュースするということは大きな責任もある。彼をEHR(アース)に誘ったのと彼をプロデュースしてやると言い出したのはおれだ。だから、言い出しっぺのおれが責任もってNIJIを、羽藤虹をサポートしなければならない。
ドキドキはするけど、虹くんならやってくれるとおれは信じていた。

次の朝、おれは朝飯を食った後、部屋に戻り学校へ行く支度をしていた。行く準備を整えるとおれは部屋を出る前にTwitterを開いた。おれが夜中に投稿したツイートのいいねとリツイートの数が100を超えていた。さすがは、NIJI。もう世界の人気者だ。フォロワーも1.2倍ぐらい増えた。虹くんには申し訳ないけど、おれだってプロのミュージシャンを目指すアマチュアだ。ほんの少しだけ利用させてもらおうよと心の中で詫びながら増えたフォロワーといいね、リツイートの数を見てにやけた。

中学校でおれがいる教室に入ると自分より先に来ていたクラスメイト達がおれの方を寄って来て
「藤目くん!NIJIのプロデュースをするって本当?!」
もう学校中に知れ渡っているらしい。クラスメイト達は
「NIJIの正体知ってるの?」
「本人には許可を貰ったの?」
「NIJIをプロデュースするなんてすごいね!」
いろいろな言葉が飛び交ってくる中、おれは丁寧に教えた。NIJIとはちょっとDMで話したことがある。とか、おれもNIJIの正体は知らない。などなど、言葉を交わしながら教えた。10分ぐらい経った時は、徐々にほとぼりが冷めた。嘘をつくのに少々大変だったが、いろいろ質問を投げかけてくるとは思わなかった。さすが、NIJIいや、虹くん。
昼食の時間になった時、今度は佐藤達がおれがNIJIをプロデュースすることで盛り上がっていた。
NIJIの正体とか何やら、いろいろ質問攻めしてきたので嘘の答えを教えるのに一苦労した。やはり、Twitterで呟いたのが失敗だったかなと思ったが、話をする内に彼らはおれの答えに納得してくれたのでホッとした。もちろん、FIRE BALLの仲間もNIJIの正体が虹くんだと教えない。
「FIRE BALLの方は大丈夫なのか?」
伴はこれから始まるFIRE BALLの活動はちゃんとできるのかちょっと心配していた。NIJIのプロデュースをするといろいろと忙しくなるんじゃないかと心配しているらしい。楽曲作りとFIRE BALLでの活動、そしてNIJIのプロデュースを上乗せすると大変かもしれない。でも、自分で決めたことだからやめるつもりはない。だって、自分の〝好きな事〟をやっているのだから。
「ダイジョブダイジョブ~。FIRE BALLの活動はちゃんとやるよ。楽曲もちゃんと作るし、NIJIのプロデュースはおれが好きで始めた事だから心配しないでくれ」
佐藤は気遣うように
「そうか。あまり無理すんなよ?困った時は、おれ達に言えよ。力貸すからさ」
彼からの気遣いを受け止めたおれは頷いた。
そして、無茶しないよう気をつけて取り組もうと心に留めた─
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