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第九話 Original Song
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お風呂の湯船はそんなに広くはない。
せいぜい大人が体育座りをすれば入れるぐらいの大きさだ。ぼくはまだ小学生だからのびのびと足を伸ばせる。
湯気に包まれ洗った頭が濡れたまま熱いお湯が入った湯船に浸かる。
ぼくは浸っている湯船に寄りかかりながら風呂場の天井を眺めゆっくりと体を温める。夏だから湯船使わずシャワーだけで済ませたいが、たまには湯船に浸かってゆっくりしたい。
久しぶりに温泉でも行きたいなと思いつつ湯船の湯をすくい顔を洗った。学校帰りの寄り道で行ったAROHAで神馬くんがウクレレで平井大の「Life is Beautiful」を演奏した記憶がまだ残っている。ウクレレと鼻歌だけで聴いていて心地よかった。
その心地良さを思い出したのか自然に神馬くんが演奏した「Life is Beautiful」を鼻歌で軽く歌う。
鼻歌が風呂場に響くが全く気にしない。ただ鼻歌だけで自分がNIJIだなんて気づかれはしないだろう。それにしても、本当に良い曲だ。鼻歌を歌うだけで気が休まるような優しさと爽やかさがあって改めて良い曲を聴けたなと思った。後で原曲聴いてみよう。
鼻歌を終えると湯船から上がり風呂場のドアを開けた。
パジャマに着替え終えたぼくが向かった先は、リビングだ。リビングのテーブルには夕飯の料理が並んでいた。
テレビも点いていてテーブルにはおじいちゃんとおばあちゃんが座っていた。ぼくが風呂から上がって来るのを待っていてくれたのだろう。
「こーちゃん。ご飯できたから食べましょ」
おばあちゃんの一言でぼくは椅子に座った。座った途端、ぼくは目の前にあるお皿を見て気づいた。
今日の夕飯はゴーヤチャンプルーだったのだ。
ぼくは卵と豚肉、そして木綿豆腐と一緒に入っているゴーヤを見て顔色が変わった。
「ゴーヤ・・・」
まるで絶望感に打ちひしがれたかのような顔をして肩を落とした。
「ゴーヤはいいわよ。ビタミンCやカリウムがあって健康にいいのよ」
肩を落とすぼくは嫌々そうな顔をしながら言った。
「そりゃ、そうだけど・・・・。ぼく、ゴーヤ嫌い」
なぜ、ゴーヤが嫌いなのか。その理由は至ってシンプルだ。
苦い!!それだけだ。
初めてゴーヤを食べた時は、苦虫を嚙み潰したようなヤバイという程の苦さがあって結局食べられなかったのだ。まるで、小さい子が嫌いな苦い薬を飲まされる時みたいに。
あの苦さは今でも覚えていてゴーヤを見ただけで苦々しい味が蘇ってくる。
しかし、おばあちゃんはぼくが嫌いな食べ物があっても容赦なく注意する。
「好き嫌いはだめよ。嫌いな物を少しずつ食べればそのうち慣れるから」
ぼくは手を合わせ渋々と箸を取った。
テレビには派手な羽根飾りを付けて踊る人達が映っていた。映り出されたのは、バラエティ番組のVTRで流れたブラジルのサンバだ。
大きな羽の装飾を付けてキラキラと輝く派手な衣装を着て腰を振りながら踊るとブラジルの町中がすごい歓声と熱狂に包まれていた。みんなはとても楽しそうに陽気で明るい顔を見せながらダンサー達を見て軽く腰を振ったり一緒に踊ったりしている。サンバはブラジルのお祭りの一種だ。戦時中は、サンバなんて全く無かったが、平和になった今、再びこうしてサンバをして大盛り上がりしている。よく見ると街の住人達やダンサー達はすごい満面な笑顔を見せている。すると、サンバから町の様子の映像へと切り替わった。
「そういえば、あなた。前垣さんの容体はどうなの?」
おばあちゃんが訊ねた。訊ねたのはおじいちゃんだ。おじいちゃんは素麵を啜り食べながら言った。
「ああ。元気だが後一週間ぐらい入院するようだ」
「心筋梗塞で倒れたのよね?無事でよかったわ」
「一日目の夏祭りが始まるまでには退院するそうだ。あの爺さん。カラオケ大会で優勝するまでそう簡単に死んでたまるかと言っていたぞ」
すると、おばあちゃんは笑った。前垣さんとはおじいちゃんが参加している地元組合メンバーの一人だ。強情張りな一面はあるがとても優しいおじいさんだ。昨日、前垣さんが倒れたと話を聞いた時は、ぼくより祖父母が一番驚いていたのを憶えている。
夏祭りというのは、宮古島恒例の祭りで毎年7月になると行われる。様々なイベントがあってカラオケ大会もその一つだ。ここは、カラオケ店が無いから年の一度の夏祭りで大人達がカラオケで好きな歌を歌って競うのだ。ちなみに、子供はのど自慢大会という歌に自信がある子が集まるイベントもある。ぼくはこの夏祭りに来て以来、一度もイベントに参加したことがない。別にイベントに参加しなくても楽しむ方法は別にあるから特に問題といった要素はない。
ぼくはゴーヤを無視して卵と豚肉、木綿豆腐だけ箸で突きながら食べる。どうしても、あの苦いゴーヤが好きになれない。
「こーちゃんもイベント参加すればいいのに」
おばあちゃんはゴーヤを避けながらチャンプルーを食べるぼくを見て言った。
ぼくは何も言わず黙々と素麺を啜る。
夕飯が終わり歯磨きを終えたぼくは部屋に戻った。
部屋へ戻る度に、何か通知とか着てないか確かる為、机の上に置いたスマホを手に取る。
EHR(アース)やTwitterの通知がたくさん届いている。ぼくはホーム画面を開きEHR(アース)のアプリを開く。届いた通知は前に歌った絢香の「にじいろ」のカバーを聴いたリスナー達からのコメントだ。いろんな様々なコメントがぎっしりと書かれていて再生回数も伸びている。たくさん届いているコメントには世界中の人達がNIJIを褒め称える声を上げている。EHR(アース)を初めて一ヵ月でこんなに多くの人達に聞いてもらえるのは本当に嬉しい。
通知履歴をスワイプしながら眺めていると一人のリスナーが書いたコメントに目を止めた。
それは、NIJIのオリジナルソングを出してほしいというリスナーファンからのお願いだった。
「おもしろそうじゃん!作ろう」
神馬くんは笑った。NIJIのオリジナルソング作りに乗る気満々だった。
バスの中、揺られながら席に座っているぼくらは静かに話した。
「でも、ぼく作詞と作曲なんて作ったことがないからなぁ」
「作曲はおれが作るよ。FIRE BALLの曲作りの方はもう少しすればひと段落するし」
「仕事早いね」
「作っているとどんどんメロディが降りてくるんだ」
神馬くんは、ほっほっと何かを掴む仕草を見せた。多分、頭の上から降りてきたメロディを掴んでいるんだろう。
ぼくは隣で仕草を見せる神馬くんの姿をただ見ていた。
「で、どんな歌にするの?」
率直な質問にぼくは答えた。
「まだ、決めてない。どんな曲にするのかはまだ・・・」
何も決まってない事を知った神馬くんは分かってくれたかのように頷いた。
「そっか。まぁ、そんなに急ぐようなことじゃないし。ゆっくり考えな」
ぼくは「そうする」と言い頷いた。
昼休み─
ぼくは開いたノートを睨んでいた。腕組をしながらひたすらノートと睨み合ってから15分も経った。
何も思い浮かばない。どんな曲にするかどんな歌詞を書くか全く思い出せない。まずは何を始めればいいのかも分からない。
初めて詞を作るからどこから手をつけたらいいのやら。普通に書いてもいいのかなと疑問に思いながらも刻々と時間が過ぎ去っていく。
何も詞が思い浮かばずとうとう6時間目の授業が終わり掃除の時間になってしまった。
今月中だけ音楽室の掃除当番になったぼくは自在ほうきで教室中に落ちているホコリやゴミを払い一か所に集めた。黒板の掃除や机拭きなどをしている子達もちゃんとしっかりと掃除に取り組んでいる。
ホコリやゴミを払いながらもぼくはどんな詞を書くか考えていた。ありきたりで書いたらNIJIらしくない曲だとリスナー達に叩かれる。こんなにも深く考えるのは。ぼくのとって人生初めての出来事だ。詞を作る前に神馬くんに訊ねればよかったと思った。
音楽室の掃除が終えると丁度、井口先生が来た。
号令し終えみんなは自分の教室へと帰る。しかし、ぼくは違った。
ぼくはこう思ったのだ。井口先生なら詞の作り方を知っているかもしれないと。
「井口先生」
ぼくは倉庫へ入ろうとする井口先生を呼び止めた。
井口先生は「ん?」と振り向いてくれた。銀縁眼鏡の奥にある優しい目がぼくの方を向く。
「先生は詞・・・作詞をやった事はありますか?」
そう質問すると井口先生は笑った。
「どうして?」
その答えにぼくは後ろ首を擦り少し目線をずらした。
「いや。先生も詞を作った事あるのかな~と思って」
実は詞を作りたいんです。なんて答えたら色々訊かれそうなのでそこだけは避けた。
井口先生は左手をピアノの上に乗せ人差し指で顎を触る。
「そうねぇ。高校生の頃、詞を作った事はあるわね」
「そうなんですか?」
「もちろん。曲も作った事はあるわ。先生はね高校時代、友達が作ったバンドに入っていたの」
「ポジションは?」
「鍵盤よ。あの頃は、楽しかったわ。みんなと一緒に練習したり文化祭では体育館でライブもやったわ。とても盛り上がってそこそこ人気があったの。高校を卒業した時はもう解散しちゃったけど」
井口先生は懐かしそうに話す。
そんな彼女にぼくは訊ねた。
「詞を作る時って大変でしたか?」
井口先生は迷う事なくすぐ答えた。
「大変だったわよ。みんなが共感し感動させるメッセージ性がある歌詞はないか試行錯誤しながらも悩んだわ」
「作詞ってただ普通に書くだけじゃダメなんですか?」
「そうね。作詞は、文字通り歌詞を作ること。自分が言いたいことを伝えるいわばメッセージなの。作詞にはちゃんと設定があって、「登場人物」や「時間」、「場所(シチュエーション)」、「ストーリー」、そして「世界観」が大切なの。恋愛や失恋、生きる楽しさや暖かさなど様々な世界観があるわ。そして、作詞に欠かせない要素は「客観的視線」なの。自分の〝想い〟を一方的に詰め込むんじゃなく〝誰かの目線〟で詞を作るとリスナーの共感が得られやすいといわれているわ。世界観を味わうような共感するほどの歌詞を作った方が聴いている人は楽しくなったり感動したりするかもしれない。羽藤くんは歌はいつから始まったか知ってる?」
ぼくは首を振った。
「中国神話のお話だけど大昔、中国に葛天氏(かってんし)という歌を発明した帝王がいたの。葛天氏の氏族の歌は千人で合唱して万人を和し、山を振動させて川を沸き立たせたという伝説があるの。人の声色を重ねる事で自然界を制御したらしい。神秘的じゃない?」
そんな神話があるとはぼくは全く知らなかった。
井口先生の楽しそうな顔を見ていると彼女は本当に音楽が好きなんだと分かる。
「歌は人の感情を引き出すだけではなく、〝力の源〟でもあるの。だから、聴いている人達を感動させたり時には楽しませたりするのが大きな支えにもなるの。詞を作る時は、まず「テーマ」と「視点」と「歌詞の設定」を決めるとこから始めなきゃね」
テーマと視点と歌詞の設定。そして、設定には登場人物やストーリーなどを考えなければならない。難しいかもしれないが、やってみる価値がありそうだとぼくは思った。まずは、どんな歌にするか考えなければ。
「それはそうと、羽藤くん。早く教室に戻らくちゃ。もうすぐ、帰りの会が始まるよ」
ぼくはハッと気づいた。
そうだ。今、掃除の時間が終わってもうすぐ帰りの会が始まるのをすっかり忘れていた。ぼくはペコリとお辞儀し急いで音楽室を出た。井口先生は、廊下は走っちゃダメよと言い残したが、ぼくは急いで教室へ向かっていたので井口先生の言葉を聞いたか聞いていないか記憶が曖昧で分からなかったので、気にする余裕はなかった。
帰り道、ぼくは他の子達に囲まれながら歩いた。
青く澄み切った夏空と白い雲を見上げながらどんなテーマにするか考えた。
どうすれば、みんなが好きになる歌詞を作れるのか脳と知恵を使ってアイデアをまとめようとした。夏だから夏をテーマにしようとか、みんなが楽しくなるようなアップテンポがある歌にしようとかいろいろ思考を巡らせたが、どこれもこれもいまいちでこれだと思うテーマと歌詞が思いつかない。神馬くんは、FIRE BALLの件で学校に残っていていない。やはり、自分の曲を作るんだから自分で考えなきゃと思うとなかなかしっくりくる歌詞のワードが出てこない。
熱い夏の日差しを浴びながらも汗水が流れてもそんなに気にしなくどんな歌詞にするか考えた。
バスの中、揺られながらぼくは最寄りのバス停に着くまで待った。座席に座って車窓から見える外の景色を眺めながら脳内の中で良さそうな歌詞のワードはないか探った。考えても何も思いつかないんじゃしょうがないと思い歌詞のワード探しを中断して自分が経験した過去の記憶を掘り起こした。亡き兄と母の顔が浮かんだ。優しい顔を見せる母。小さかったぼくを膝の上に載せて楽しそうに電子鍵盤を弾き歌う兄の姿。特に兄ちゃんと過ごした時間が長く戦時中とはいえ楽しかった思い出もある。懐かしい思い出を振り返っている内にいつの間にか最寄りのバス停に着いた。最寄りに着くまで少しでも歌詞を決めようと思ったのに全くまとめられなかった。
バスを降りて家まで歩くとまた考え込んだ。良い歌詞が思い浮かばなくただ、歌詞に使えそうなワードはないか過去の記憶を掘り返しながら考える。
そして、ぼくは小さな声で口ずさむ。それは、今頭の中で浮かんだサビだけの歌詞とメロディ。
激しく聞こえるセミの鳴き声。肌が焼けるほど暑い日差し。
静かな道に人が住まう家の数々。白い雲と青い夏空。
灼熱の太陽に汗水を流す額。東京に住んでいた時の懐かしき記憶。
そして、ずっとぼくの側にいてくれた兄の存在。
苦しくて怖かった時代だけど大好きな兄と今も印象に残っている母の笑顔。
東京の実家で好きな歌を歌えた幸せ。お父さんとお母さんが亡くなり兄ちゃんと二人きりになったけど寂しくもなかった安心感といつもぼくを気にかけてくれた兄の優しさ。
こうして再び歌を歌える喜びと楽しさ、辛い事があっても生きようとする強さ。そして、ぼくは今、幸せだと思っている。
何かエールを送るような明るい曲になりそうになったぼくは口ずさむのをやめて、すぐスマホを取り出しボイスメモで録音した。今、口ずさんでいた途端、天上から歌詞のフレーズがぼくの頭上に舞い降りてきたような気がした。でも、これで満足してはいけない。ボイスメモを取り後でノートに書き綴って確認しながら書き直さなくちゃいけないしBメロとCメロの歌詞を書かなくちゃ。
詞を作り始めてから二日経った。ぼくは一人喫茶店でノートを開きながら手に顎を乗せて考えていた。ノート上の周りにはチラホラ消しゴムのカスが散らかっている。ノートに書いた歌詞にもあちこち消しゴムで消した後が残っている。
今日は、土曜日で学校は休みなので喫茶店に来ていたのだ。昨日までは家で書いたがなかなか歌詞がまとまらず気分転換に喫茶店で書こうと思ったのだ。
1番と2番の歌詞はあらかた完成している。でも、3番の歌詞がなかなか思いつかない。
僕が来ている喫茶店は小さく中はそんなに広くはないが、小シャレでちょっと雰囲気がいい店だ。テーブルは10席ぐらいだけでぼく以外の人も来てお茶している。店内は静かだが少しだけ話し声は聞こえる。その話声の中に三人組の女性グループがNIJI(ぼく)の話をしていたのが耳に届いた。この店に本人がいるのを知らずに。でも、なんとなく嬉しかった。
手でシャープペンシルをクルクルと回しながらアイデアを考えつつ注文した冷たいシークワーサーのジュースをちょっとだけ飲んだ。過去の記憶を辿りながらもぼくはずっとノートと睨みあっていた。この喫茶店に来てノートを広げてから何分経ったのだろうか。そんなに長くは感じないが、歌詞作りに集中しすぎて時間を気にする必要はなくなっていた。
これはどうだと思ったらシャープペンシルを動かし微妙だったり違うなと思ったら消しゴムで消したりの繰り返しがずっと続いた。
歌詞を作るだけでこんなに大変なものなのかと思いつつもぼくは一人黙って書き続けた。
EHR(アース)にいるぼくのフォロワー達はオリジナルソングを作っている事すら全く知らない。いわゆる、サプライズと言ってもいいがそんな大袈裟なものでもない。ただ単にリスナーからオリジナルソングを聴いてみたいという願いとたまにはオリジナルソングを歌うのも悪くないなと考え自ら始めたこと。でも、実際に書いてみると歌詞を書くのに悩む必要があるなんて思ってもみなかったのでプロも悩みながら歌詞書いているのかなと思う事もあった。それに、プレッシャーもあった。フォロワーの数が自分の予想を遥かに超えたうえ、テレビのニュースに取り上げられ著名人とEHR(アース)の人達からも期待の声を上げているのでもし、この歌がダメだったら世界中の笑い者にされるんじゃないかと考えるとますます怖くなる。それに歌はただの飾りではなく、人の心を繋ぐエネルギーだとぼくは思う。〝楽しさ〟と〝感動〟を与えるのが歌い手として必要不可欠な要素だとぼくは考えている。人間は感情の動物。感情があるからこそ人間らしさがある。
音楽も〝感情〟で出来ているのだろう。
ぼくはぼくが納得するような詞を作るまで。世間が認めなくても認めるまで書き続ければいい。
もうぼくは過去に縋るような小さい男じゃない。いつまでも家族の死を悲しんでいたウジ虫野郎じゃない。そして、未来に向かって一生懸命に生きると誓いどんなことがあっても負けないと夢の中で兄ちゃんと約束したんだ。それに、自分で詞を作るのはいいチャンスかもしれないと思ったからだ。もう挑戦している以上、背を向けられるわけにはいかない。
最後まで書いてやろうじゃないと思いつつシャープペンシルを持っている手を走らせた。思い浮かんだ歌詞のワードをノートに書き綴った。
─夕方。
神馬くんは自分の部屋でFIRE BALLのカップリング曲の編曲作りを行っていた。
再生ボタンをクリックすると作った楽曲の演奏が流れ始めた。修正する部分はあるか何度も作り直した楽曲のメロディに耳をすませながら確認する。
なかなかいい具合にできていた。ラブソングに合う明るくてユーモラスな曲に仕上がっている。
神馬くんが小首を動かしてリズムを取っているとEHR(アース)のDMの着信音が鳴った。カップリング曲のイントロを流しながら神馬くんはスマホを手に取りEHR(アース)を開いた。
届いたのは「NIJI」つまりぼくから届いたDMだった。DMには歌詞ができたとの報告、作曲提供のお願いと一緒にボイスメモが添付されていた。
〈本日、日本時間PM17:00からEHRミュージック・コンテンツにてNIJIによるオリジナルソングのMVをプレミアム公開します〉
神馬くんがEHR(アース)のチャットやタイムライン、SNSにNIJI(ぼく)がオリジナルソングを歌うMVを公開する事を知らせてくれた。
すると、SNSやEHR(アース)中がNIJI(ぼく)の事で期待する声を上げた。
韓国人:男性17歳《NIJI의 신곡을 들을 수 있다!!(NIJIの新曲が聴ける!!)》
アメリカ人:男性27歳《This time it ’s an original song, so I ’m really looking forward to it.(今回はオリジナルソングだからすごい楽しみ)》
日本人:女性19歳《今までカバーソングを聴いてきたから、次はオリソン聴いてみたいな~って思ってから嬉しい!》
フランス人:女性42歳《C'est la première fois que je vois un arc-en-ciel en mouvement, donc je suis plutôt ravi(動く虹を見るのは初めてだからなんだか胸が高鳴ってくるわ)》
シンガポール人:男性30歳《Ia akan bermula tidak lama lagi!(もうすぐ始まる!)》
MVのコメント欄に次々と世界中のリスナー達からの期待の声が流れてくる。
あくまで、これは生ではなく録画したMVなのでオリジナルソングを歌ったぼく自身も完成したMVの出来栄えを見守る為、みんなに紛れて参加していた。隣には神馬くんもいる。数多くのリスナーから届く大量コメントは止む様子がなかった。公開10分前なのにこんなにたくさんのリスナーが観に来るなんて人生初めてで内心ドキドキしていた。プレミアム公開がスタートするのを待っている視聴者数は2千万人を超えていた。
大きな数字にぼくはますます緊張し始めちょっとだけ自信なくなりかけていた。
これで、みんなにウケていなかったらすぐにでもEHR(アース)を辞めようかと思ったが、そうなると神馬くんに止められて説得されてしまうかもしれない。ぼくは固唾を飲みながらMVが解禁するのを待った。
そして、遂にその時が来た。MVプレミアム公開まで後3分切った。神馬くんは緊張している様子が全く無い。逆に嫌に落ち着いている。ぼくはすごい心臓がバクバクしているのにこの落ち着きよう。いくつものLIVEをやっているから慣れているのだろう。さすがだ。
そうこうしていると遂にMVのお披露目時間 午後17時になった。
暗かったMV画面が明るくなった。画面に映ったのは、ぼくが作った曲のタイトルだ。そして、タイトルの下に作詞者と作曲者の名前が書かれていた。作詞者の名前はNIJI。そして、編曲・作曲者の名前は藤目神馬だ。
タイトルと二人の名前が出た途端、リスナー達が盛り上がり始めた。曲のタイトルが現れてすぐ音楽が鳴り始めた。その音楽は明るさがあるキャッチーなメロディだった。
音楽が鳴り出すと同時にNIJIが登場した。NIJIは明るい空色のTシャツとベージュの半ズボンというシンプルな衣装に身を包み靴を履かず素足になって立っていた。そして、バックにはキジムナー達がいるガジュマルの木があった。そう。NIJIがいるのはよく通っている広場だ。
NIJIはゆっくりと口を開き歌い始めた。
♪笑顔を忘れた時に起こる
光を失ったかのような苦しさが
溜息と共に哀しみが纏いつき
目から流れ出す雨粒と淋しさの声が
心の叫びがぼくを木霊する
そんな哀しみの中に蘇るきみとの記憶
どんな苦しみをも乗り越えてきたきみを思い出すと
生きる術を思い出させてくれた♪
NIJIはダンスをしながら歌い上げる。
軽快に裸足でリズムを取りながら最初のサビに入る。
♪陽だまりのような笑顔を見せてくれたきみが
ぼくに生きる力を与えてくれた
忘れぬ哀しみを胸の奥にしまい強く生きることを誓った
太陽のように笑うきみが側にいたから怖くなかった
ぼくの背中を押してくれたから前へ進めることができた♪
映像がNIJIの頭上を映し出すとNIJIの顔に切り替わった。
改めてみると自分とは思えないほどの良い顔と出で立ちをしている。Adamがぼくそっくりのアバターを作ったつもりだが、本人よりNIJIというアバターの方が男前に見える。自分のアバターなのになぜ、NIJIを尊重するのか自分でも分からない。まるで、ぼくより自分が男前だなんて思う途端に何だか複雑な気分になる。でも、NIJIが出す歌声は紛れもなくぼくだ。
表情は柔らかく感情を込めて歌っている。ぼくの表情や口と体の動きがそっくりそのままNIJIに移っている。
♪目に見える一筋の陽光が
悲しさという闇を明るく照らす
前を向いて未来へと歩き出せと
心に映るきみがぼくを鼓舞してくれる
何度も失敗や転んで挫けそうになる時があっても
強く生きればきっと希望を掴み取れるチャンスが訪れる
一人でこの世に生きる者はいないときみが教えてくれた
だってぼくはもう独りじゃないんだ♪
この歌を聴くとまるで応援しているように聞こえる。この歌は、大切な人がいなくなり悲しみに囚われている人が未来へ進む為に強く生きてほしいという願いを込めた歌。そして、ぼくが経験した出来事と夢の中で再開した亡き兄 翼という存在と最後の会話を思い出し書き綴り歌にしたのだ。
♪遠く離れていても思い出は繋がっている
旅立ったきみを想えば想うほど寂しくなるけど
でも、ぼくはきみに誓ったんだ 強く生きていくと
だから、ぼくはもう振り返らない
きみという〝太陽〟のように笑って生きていく♪
MVを観てくれているリスナー達がたくさんのコメントが寄せられてくる。視聴回数はうなぎ上りでコメント欄には様々なメッセージが着ていた。川のように流れるリスナー達からのコメントの中には、ぼくの歌に納得していない声を上げるリスナーもいるけど、感動してこの歌を気に入っているリスナーの声の方がとても多い。
♪希望の欠片(ピース)を集めて
自分の未来を描き出す♪
盛り上がってきた所で、最後のサビに入る。
音楽も一段と盛り上がり始めNIJIの高揚が高まりだす。
♪陽だまりのような笑顔を見せてくれたきみが
ぼくに生きる力を与えてくれた
忘れぬ哀しみを胸の奥にしまい強く生きることを誓った
太陽のように笑うきみが側にいたから怖くなかった
ぼくの背中を押してくれたから前へ進めることができた♪
最後のサビを歌い上げ音楽が終わるとMVの映像は暗くなった。
終わったのだ。やっと、初オリジナルソングのお披露目が終わったのだ。MVが終わるに連れ勢いあったコメントの嵐も落ち着いてきた。
YouTubeにもある「いいね」の数は2.5万。ブーイングを表す「よくない」の数は829。圧倒的に「いいね」の数が多い。
ぼくは「よくない」の数の方が多いんじゃないかと思いヒヤヒヤしたが、この歌を気に入ってくれた人がたくさんいてホッとした。
隣にいた神馬くんは満足そうな顔をしていて頷いていた。
「いいね。いいねー!やっぱ、虹くんの歌は最高だよ」
神馬くんに褒められてぼくは嬉しくて照れた。
「神馬くんのおかげだよ。こんなにも素敵な音楽を作ってくれてありがとう」
もし、神馬くんがいなかったらオリジナルソングなんて作らなかったしこうして楽しく歌えることはできなかったかもしれない。
彼との出会いがきっかけでぼくは少しだけ大きくなった気がした。
すると、ぼくのスマホに着信が鳴った。EHR(アース)の着信だ。ホーム画面に映る着信履歴には、さっきぼくのMVを観てくれたフォロワーの人達からのDMやコメントがたくさん着ていた。着信はしばらく鳴り止むことなく次々とフォロワーの人達やフォロワー外の人達からの感想のコメントが届いてくる。
「この調子で次のオリジナルソングも一緒に作ろう」
「次も?」
「そうだよ。虹くんは今までカバーソングだけで歌ってきていたけど、これからはオリジナルソングも取り入れてもっと活躍してもらおうと思っている。もとろん。カバーソングを歌うのはいいけど、たまにはオリジナルソングを作ってみんなに聴かせてあげればもっと視野が広がると思うんだ。NIJIとして羽藤虹として活躍の場を広げればもっとみんなはきみに興味を惹かれる。EHR(アース)を初めてまだ浅いのに3200万以上のフォロワーを持つなんてすごいよ。でも、フォロワーが多いからってそこでお終いじゃないんだ。きみはまだスタートを切ったばかりの新米には変わりないんだから」
確かに、EHR(アース)を始めてからまだ一ヶ月。確かにぼくはまだペーペーの新米だ。新米で3200万以上のフォロワーを受け持つ事はとてもすごいけど、有頂天になり過ぎて油断したらフォロワーの数が減るかもしれない。いや、フォロワーが減るだけならまだ大丈夫だがこれからの活動は慎重に気をつけなければならないのは確かだ。ちゃんと相手を尊重しフォローしてくれた人達を大事にしなければならない。
もちろん。一度始めた事はちゃんとやる。NIJIとしてこれからも活躍の場を広げみんなに楽しめる感動する曲を作るつもりだ。
「そうだね。まだ始まったばかりだもんね」
ぼくは笑った。
「ぼく、もっとオリジナルソングを作ってみるよ。作曲の方はよろしく頼むよ」
神馬くんは「任せろ」と自信満々に言い拳を出した。ぼくも拳を作り互いの拳を合わせた。
MVの映像画面は真っ黒のまま静止している。
映像画面には下にはNIJIの名前とその隣に曲のタイトルが書かれている。・
NIJI(ぼく)が歌った曲のタイトル名は至ってシンプル。
そのタイトル名は「太陽」─
せいぜい大人が体育座りをすれば入れるぐらいの大きさだ。ぼくはまだ小学生だからのびのびと足を伸ばせる。
湯気に包まれ洗った頭が濡れたまま熱いお湯が入った湯船に浸かる。
ぼくは浸っている湯船に寄りかかりながら風呂場の天井を眺めゆっくりと体を温める。夏だから湯船使わずシャワーだけで済ませたいが、たまには湯船に浸かってゆっくりしたい。
久しぶりに温泉でも行きたいなと思いつつ湯船の湯をすくい顔を洗った。学校帰りの寄り道で行ったAROHAで神馬くんがウクレレで平井大の「Life is Beautiful」を演奏した記憶がまだ残っている。ウクレレと鼻歌だけで聴いていて心地よかった。
その心地良さを思い出したのか自然に神馬くんが演奏した「Life is Beautiful」を鼻歌で軽く歌う。
鼻歌が風呂場に響くが全く気にしない。ただ鼻歌だけで自分がNIJIだなんて気づかれはしないだろう。それにしても、本当に良い曲だ。鼻歌を歌うだけで気が休まるような優しさと爽やかさがあって改めて良い曲を聴けたなと思った。後で原曲聴いてみよう。
鼻歌を終えると湯船から上がり風呂場のドアを開けた。
パジャマに着替え終えたぼくが向かった先は、リビングだ。リビングのテーブルには夕飯の料理が並んでいた。
テレビも点いていてテーブルにはおじいちゃんとおばあちゃんが座っていた。ぼくが風呂から上がって来るのを待っていてくれたのだろう。
「こーちゃん。ご飯できたから食べましょ」
おばあちゃんの一言でぼくは椅子に座った。座った途端、ぼくは目の前にあるお皿を見て気づいた。
今日の夕飯はゴーヤチャンプルーだったのだ。
ぼくは卵と豚肉、そして木綿豆腐と一緒に入っているゴーヤを見て顔色が変わった。
「ゴーヤ・・・」
まるで絶望感に打ちひしがれたかのような顔をして肩を落とした。
「ゴーヤはいいわよ。ビタミンCやカリウムがあって健康にいいのよ」
肩を落とすぼくは嫌々そうな顔をしながら言った。
「そりゃ、そうだけど・・・・。ぼく、ゴーヤ嫌い」
なぜ、ゴーヤが嫌いなのか。その理由は至ってシンプルだ。
苦い!!それだけだ。
初めてゴーヤを食べた時は、苦虫を嚙み潰したようなヤバイという程の苦さがあって結局食べられなかったのだ。まるで、小さい子が嫌いな苦い薬を飲まされる時みたいに。
あの苦さは今でも覚えていてゴーヤを見ただけで苦々しい味が蘇ってくる。
しかし、おばあちゃんはぼくが嫌いな食べ物があっても容赦なく注意する。
「好き嫌いはだめよ。嫌いな物を少しずつ食べればそのうち慣れるから」
ぼくは手を合わせ渋々と箸を取った。
テレビには派手な羽根飾りを付けて踊る人達が映っていた。映り出されたのは、バラエティ番組のVTRで流れたブラジルのサンバだ。
大きな羽の装飾を付けてキラキラと輝く派手な衣装を着て腰を振りながら踊るとブラジルの町中がすごい歓声と熱狂に包まれていた。みんなはとても楽しそうに陽気で明るい顔を見せながらダンサー達を見て軽く腰を振ったり一緒に踊ったりしている。サンバはブラジルのお祭りの一種だ。戦時中は、サンバなんて全く無かったが、平和になった今、再びこうしてサンバをして大盛り上がりしている。よく見ると街の住人達やダンサー達はすごい満面な笑顔を見せている。すると、サンバから町の様子の映像へと切り替わった。
「そういえば、あなた。前垣さんの容体はどうなの?」
おばあちゃんが訊ねた。訊ねたのはおじいちゃんだ。おじいちゃんは素麵を啜り食べながら言った。
「ああ。元気だが後一週間ぐらい入院するようだ」
「心筋梗塞で倒れたのよね?無事でよかったわ」
「一日目の夏祭りが始まるまでには退院するそうだ。あの爺さん。カラオケ大会で優勝するまでそう簡単に死んでたまるかと言っていたぞ」
すると、おばあちゃんは笑った。前垣さんとはおじいちゃんが参加している地元組合メンバーの一人だ。強情張りな一面はあるがとても優しいおじいさんだ。昨日、前垣さんが倒れたと話を聞いた時は、ぼくより祖父母が一番驚いていたのを憶えている。
夏祭りというのは、宮古島恒例の祭りで毎年7月になると行われる。様々なイベントがあってカラオケ大会もその一つだ。ここは、カラオケ店が無いから年の一度の夏祭りで大人達がカラオケで好きな歌を歌って競うのだ。ちなみに、子供はのど自慢大会という歌に自信がある子が集まるイベントもある。ぼくはこの夏祭りに来て以来、一度もイベントに参加したことがない。別にイベントに参加しなくても楽しむ方法は別にあるから特に問題といった要素はない。
ぼくはゴーヤを無視して卵と豚肉、木綿豆腐だけ箸で突きながら食べる。どうしても、あの苦いゴーヤが好きになれない。
「こーちゃんもイベント参加すればいいのに」
おばあちゃんはゴーヤを避けながらチャンプルーを食べるぼくを見て言った。
ぼくは何も言わず黙々と素麺を啜る。
夕飯が終わり歯磨きを終えたぼくは部屋に戻った。
部屋へ戻る度に、何か通知とか着てないか確かる為、机の上に置いたスマホを手に取る。
EHR(アース)やTwitterの通知がたくさん届いている。ぼくはホーム画面を開きEHR(アース)のアプリを開く。届いた通知は前に歌った絢香の「にじいろ」のカバーを聴いたリスナー達からのコメントだ。いろんな様々なコメントがぎっしりと書かれていて再生回数も伸びている。たくさん届いているコメントには世界中の人達がNIJIを褒め称える声を上げている。EHR(アース)を初めて一ヵ月でこんなに多くの人達に聞いてもらえるのは本当に嬉しい。
通知履歴をスワイプしながら眺めていると一人のリスナーが書いたコメントに目を止めた。
それは、NIJIのオリジナルソングを出してほしいというリスナーファンからのお願いだった。
「おもしろそうじゃん!作ろう」
神馬くんは笑った。NIJIのオリジナルソング作りに乗る気満々だった。
バスの中、揺られながら席に座っているぼくらは静かに話した。
「でも、ぼく作詞と作曲なんて作ったことがないからなぁ」
「作曲はおれが作るよ。FIRE BALLの曲作りの方はもう少しすればひと段落するし」
「仕事早いね」
「作っているとどんどんメロディが降りてくるんだ」
神馬くんは、ほっほっと何かを掴む仕草を見せた。多分、頭の上から降りてきたメロディを掴んでいるんだろう。
ぼくは隣で仕草を見せる神馬くんの姿をただ見ていた。
「で、どんな歌にするの?」
率直な質問にぼくは答えた。
「まだ、決めてない。どんな曲にするのかはまだ・・・」
何も決まってない事を知った神馬くんは分かってくれたかのように頷いた。
「そっか。まぁ、そんなに急ぐようなことじゃないし。ゆっくり考えな」
ぼくは「そうする」と言い頷いた。
昼休み─
ぼくは開いたノートを睨んでいた。腕組をしながらひたすらノートと睨み合ってから15分も経った。
何も思い浮かばない。どんな曲にするかどんな歌詞を書くか全く思い出せない。まずは何を始めればいいのかも分からない。
初めて詞を作るからどこから手をつけたらいいのやら。普通に書いてもいいのかなと疑問に思いながらも刻々と時間が過ぎ去っていく。
何も詞が思い浮かばずとうとう6時間目の授業が終わり掃除の時間になってしまった。
今月中だけ音楽室の掃除当番になったぼくは自在ほうきで教室中に落ちているホコリやゴミを払い一か所に集めた。黒板の掃除や机拭きなどをしている子達もちゃんとしっかりと掃除に取り組んでいる。
ホコリやゴミを払いながらもぼくはどんな詞を書くか考えていた。ありきたりで書いたらNIJIらしくない曲だとリスナー達に叩かれる。こんなにも深く考えるのは。ぼくのとって人生初めての出来事だ。詞を作る前に神馬くんに訊ねればよかったと思った。
音楽室の掃除が終えると丁度、井口先生が来た。
号令し終えみんなは自分の教室へと帰る。しかし、ぼくは違った。
ぼくはこう思ったのだ。井口先生なら詞の作り方を知っているかもしれないと。
「井口先生」
ぼくは倉庫へ入ろうとする井口先生を呼び止めた。
井口先生は「ん?」と振り向いてくれた。銀縁眼鏡の奥にある優しい目がぼくの方を向く。
「先生は詞・・・作詞をやった事はありますか?」
そう質問すると井口先生は笑った。
「どうして?」
その答えにぼくは後ろ首を擦り少し目線をずらした。
「いや。先生も詞を作った事あるのかな~と思って」
実は詞を作りたいんです。なんて答えたら色々訊かれそうなのでそこだけは避けた。
井口先生は左手をピアノの上に乗せ人差し指で顎を触る。
「そうねぇ。高校生の頃、詞を作った事はあるわね」
「そうなんですか?」
「もちろん。曲も作った事はあるわ。先生はね高校時代、友達が作ったバンドに入っていたの」
「ポジションは?」
「鍵盤よ。あの頃は、楽しかったわ。みんなと一緒に練習したり文化祭では体育館でライブもやったわ。とても盛り上がってそこそこ人気があったの。高校を卒業した時はもう解散しちゃったけど」
井口先生は懐かしそうに話す。
そんな彼女にぼくは訊ねた。
「詞を作る時って大変でしたか?」
井口先生は迷う事なくすぐ答えた。
「大変だったわよ。みんなが共感し感動させるメッセージ性がある歌詞はないか試行錯誤しながらも悩んだわ」
「作詞ってただ普通に書くだけじゃダメなんですか?」
「そうね。作詞は、文字通り歌詞を作ること。自分が言いたいことを伝えるいわばメッセージなの。作詞にはちゃんと設定があって、「登場人物」や「時間」、「場所(シチュエーション)」、「ストーリー」、そして「世界観」が大切なの。恋愛や失恋、生きる楽しさや暖かさなど様々な世界観があるわ。そして、作詞に欠かせない要素は「客観的視線」なの。自分の〝想い〟を一方的に詰め込むんじゃなく〝誰かの目線〟で詞を作るとリスナーの共感が得られやすいといわれているわ。世界観を味わうような共感するほどの歌詞を作った方が聴いている人は楽しくなったり感動したりするかもしれない。羽藤くんは歌はいつから始まったか知ってる?」
ぼくは首を振った。
「中国神話のお話だけど大昔、中国に葛天氏(かってんし)という歌を発明した帝王がいたの。葛天氏の氏族の歌は千人で合唱して万人を和し、山を振動させて川を沸き立たせたという伝説があるの。人の声色を重ねる事で自然界を制御したらしい。神秘的じゃない?」
そんな神話があるとはぼくは全く知らなかった。
井口先生の楽しそうな顔を見ていると彼女は本当に音楽が好きなんだと分かる。
「歌は人の感情を引き出すだけではなく、〝力の源〟でもあるの。だから、聴いている人達を感動させたり時には楽しませたりするのが大きな支えにもなるの。詞を作る時は、まず「テーマ」と「視点」と「歌詞の設定」を決めるとこから始めなきゃね」
テーマと視点と歌詞の設定。そして、設定には登場人物やストーリーなどを考えなければならない。難しいかもしれないが、やってみる価値がありそうだとぼくは思った。まずは、どんな歌にするか考えなければ。
「それはそうと、羽藤くん。早く教室に戻らくちゃ。もうすぐ、帰りの会が始まるよ」
ぼくはハッと気づいた。
そうだ。今、掃除の時間が終わってもうすぐ帰りの会が始まるのをすっかり忘れていた。ぼくはペコリとお辞儀し急いで音楽室を出た。井口先生は、廊下は走っちゃダメよと言い残したが、ぼくは急いで教室へ向かっていたので井口先生の言葉を聞いたか聞いていないか記憶が曖昧で分からなかったので、気にする余裕はなかった。
帰り道、ぼくは他の子達に囲まれながら歩いた。
青く澄み切った夏空と白い雲を見上げながらどんなテーマにするか考えた。
どうすれば、みんなが好きになる歌詞を作れるのか脳と知恵を使ってアイデアをまとめようとした。夏だから夏をテーマにしようとか、みんなが楽しくなるようなアップテンポがある歌にしようとかいろいろ思考を巡らせたが、どこれもこれもいまいちでこれだと思うテーマと歌詞が思いつかない。神馬くんは、FIRE BALLの件で学校に残っていていない。やはり、自分の曲を作るんだから自分で考えなきゃと思うとなかなかしっくりくる歌詞のワードが出てこない。
熱い夏の日差しを浴びながらも汗水が流れてもそんなに気にしなくどんな歌詞にするか考えた。
バスの中、揺られながらぼくは最寄りのバス停に着くまで待った。座席に座って車窓から見える外の景色を眺めながら脳内の中で良さそうな歌詞のワードはないか探った。考えても何も思いつかないんじゃしょうがないと思い歌詞のワード探しを中断して自分が経験した過去の記憶を掘り起こした。亡き兄と母の顔が浮かんだ。優しい顔を見せる母。小さかったぼくを膝の上に載せて楽しそうに電子鍵盤を弾き歌う兄の姿。特に兄ちゃんと過ごした時間が長く戦時中とはいえ楽しかった思い出もある。懐かしい思い出を振り返っている内にいつの間にか最寄りのバス停に着いた。最寄りに着くまで少しでも歌詞を決めようと思ったのに全くまとめられなかった。
バスを降りて家まで歩くとまた考え込んだ。良い歌詞が思い浮かばなくただ、歌詞に使えそうなワードはないか過去の記憶を掘り返しながら考える。
そして、ぼくは小さな声で口ずさむ。それは、今頭の中で浮かんだサビだけの歌詞とメロディ。
激しく聞こえるセミの鳴き声。肌が焼けるほど暑い日差し。
静かな道に人が住まう家の数々。白い雲と青い夏空。
灼熱の太陽に汗水を流す額。東京に住んでいた時の懐かしき記憶。
そして、ずっとぼくの側にいてくれた兄の存在。
苦しくて怖かった時代だけど大好きな兄と今も印象に残っている母の笑顔。
東京の実家で好きな歌を歌えた幸せ。お父さんとお母さんが亡くなり兄ちゃんと二人きりになったけど寂しくもなかった安心感といつもぼくを気にかけてくれた兄の優しさ。
こうして再び歌を歌える喜びと楽しさ、辛い事があっても生きようとする強さ。そして、ぼくは今、幸せだと思っている。
何かエールを送るような明るい曲になりそうになったぼくは口ずさむのをやめて、すぐスマホを取り出しボイスメモで録音した。今、口ずさんでいた途端、天上から歌詞のフレーズがぼくの頭上に舞い降りてきたような気がした。でも、これで満足してはいけない。ボイスメモを取り後でノートに書き綴って確認しながら書き直さなくちゃいけないしBメロとCメロの歌詞を書かなくちゃ。
詞を作り始めてから二日経った。ぼくは一人喫茶店でノートを開きながら手に顎を乗せて考えていた。ノート上の周りにはチラホラ消しゴムのカスが散らかっている。ノートに書いた歌詞にもあちこち消しゴムで消した後が残っている。
今日は、土曜日で学校は休みなので喫茶店に来ていたのだ。昨日までは家で書いたがなかなか歌詞がまとまらず気分転換に喫茶店で書こうと思ったのだ。
1番と2番の歌詞はあらかた完成している。でも、3番の歌詞がなかなか思いつかない。
僕が来ている喫茶店は小さく中はそんなに広くはないが、小シャレでちょっと雰囲気がいい店だ。テーブルは10席ぐらいだけでぼく以外の人も来てお茶している。店内は静かだが少しだけ話し声は聞こえる。その話声の中に三人組の女性グループがNIJI(ぼく)の話をしていたのが耳に届いた。この店に本人がいるのを知らずに。でも、なんとなく嬉しかった。
手でシャープペンシルをクルクルと回しながらアイデアを考えつつ注文した冷たいシークワーサーのジュースをちょっとだけ飲んだ。過去の記憶を辿りながらもぼくはずっとノートと睨みあっていた。この喫茶店に来てノートを広げてから何分経ったのだろうか。そんなに長くは感じないが、歌詞作りに集中しすぎて時間を気にする必要はなくなっていた。
これはどうだと思ったらシャープペンシルを動かし微妙だったり違うなと思ったら消しゴムで消したりの繰り返しがずっと続いた。
歌詞を作るだけでこんなに大変なものなのかと思いつつもぼくは一人黙って書き続けた。
EHR(アース)にいるぼくのフォロワー達はオリジナルソングを作っている事すら全く知らない。いわゆる、サプライズと言ってもいいがそんな大袈裟なものでもない。ただ単にリスナーからオリジナルソングを聴いてみたいという願いとたまにはオリジナルソングを歌うのも悪くないなと考え自ら始めたこと。でも、実際に書いてみると歌詞を書くのに悩む必要があるなんて思ってもみなかったのでプロも悩みながら歌詞書いているのかなと思う事もあった。それに、プレッシャーもあった。フォロワーの数が自分の予想を遥かに超えたうえ、テレビのニュースに取り上げられ著名人とEHR(アース)の人達からも期待の声を上げているのでもし、この歌がダメだったら世界中の笑い者にされるんじゃないかと考えるとますます怖くなる。それに歌はただの飾りではなく、人の心を繋ぐエネルギーだとぼくは思う。〝楽しさ〟と〝感動〟を与えるのが歌い手として必要不可欠な要素だとぼくは考えている。人間は感情の動物。感情があるからこそ人間らしさがある。
音楽も〝感情〟で出来ているのだろう。
ぼくはぼくが納得するような詞を作るまで。世間が認めなくても認めるまで書き続ければいい。
もうぼくは過去に縋るような小さい男じゃない。いつまでも家族の死を悲しんでいたウジ虫野郎じゃない。そして、未来に向かって一生懸命に生きると誓いどんなことがあっても負けないと夢の中で兄ちゃんと約束したんだ。それに、自分で詞を作るのはいいチャンスかもしれないと思ったからだ。もう挑戦している以上、背を向けられるわけにはいかない。
最後まで書いてやろうじゃないと思いつつシャープペンシルを持っている手を走らせた。思い浮かんだ歌詞のワードをノートに書き綴った。
─夕方。
神馬くんは自分の部屋でFIRE BALLのカップリング曲の編曲作りを行っていた。
再生ボタンをクリックすると作った楽曲の演奏が流れ始めた。修正する部分はあるか何度も作り直した楽曲のメロディに耳をすませながら確認する。
なかなかいい具合にできていた。ラブソングに合う明るくてユーモラスな曲に仕上がっている。
神馬くんが小首を動かしてリズムを取っているとEHR(アース)のDMの着信音が鳴った。カップリング曲のイントロを流しながら神馬くんはスマホを手に取りEHR(アース)を開いた。
届いたのは「NIJI」つまりぼくから届いたDMだった。DMには歌詞ができたとの報告、作曲提供のお願いと一緒にボイスメモが添付されていた。
〈本日、日本時間PM17:00からEHRミュージック・コンテンツにてNIJIによるオリジナルソングのMVをプレミアム公開します〉
神馬くんがEHR(アース)のチャットやタイムライン、SNSにNIJI(ぼく)がオリジナルソングを歌うMVを公開する事を知らせてくれた。
すると、SNSやEHR(アース)中がNIJI(ぼく)の事で期待する声を上げた。
韓国人:男性17歳《NIJI의 신곡을 들을 수 있다!!(NIJIの新曲が聴ける!!)》
アメリカ人:男性27歳《This time it ’s an original song, so I ’m really looking forward to it.(今回はオリジナルソングだからすごい楽しみ)》
日本人:女性19歳《今までカバーソングを聴いてきたから、次はオリソン聴いてみたいな~って思ってから嬉しい!》
フランス人:女性42歳《C'est la première fois que je vois un arc-en-ciel en mouvement, donc je suis plutôt ravi(動く虹を見るのは初めてだからなんだか胸が高鳴ってくるわ)》
シンガポール人:男性30歳《Ia akan bermula tidak lama lagi!(もうすぐ始まる!)》
MVのコメント欄に次々と世界中のリスナー達からの期待の声が流れてくる。
あくまで、これは生ではなく録画したMVなのでオリジナルソングを歌ったぼく自身も完成したMVの出来栄えを見守る為、みんなに紛れて参加していた。隣には神馬くんもいる。数多くのリスナーから届く大量コメントは止む様子がなかった。公開10分前なのにこんなにたくさんのリスナーが観に来るなんて人生初めてで内心ドキドキしていた。プレミアム公開がスタートするのを待っている視聴者数は2千万人を超えていた。
大きな数字にぼくはますます緊張し始めちょっとだけ自信なくなりかけていた。
これで、みんなにウケていなかったらすぐにでもEHR(アース)を辞めようかと思ったが、そうなると神馬くんに止められて説得されてしまうかもしれない。ぼくは固唾を飲みながらMVが解禁するのを待った。
そして、遂にその時が来た。MVプレミアム公開まで後3分切った。神馬くんは緊張している様子が全く無い。逆に嫌に落ち着いている。ぼくはすごい心臓がバクバクしているのにこの落ち着きよう。いくつものLIVEをやっているから慣れているのだろう。さすがだ。
そうこうしていると遂にMVのお披露目時間 午後17時になった。
暗かったMV画面が明るくなった。画面に映ったのは、ぼくが作った曲のタイトルだ。そして、タイトルの下に作詞者と作曲者の名前が書かれていた。作詞者の名前はNIJI。そして、編曲・作曲者の名前は藤目神馬だ。
タイトルと二人の名前が出た途端、リスナー達が盛り上がり始めた。曲のタイトルが現れてすぐ音楽が鳴り始めた。その音楽は明るさがあるキャッチーなメロディだった。
音楽が鳴り出すと同時にNIJIが登場した。NIJIは明るい空色のTシャツとベージュの半ズボンというシンプルな衣装に身を包み靴を履かず素足になって立っていた。そして、バックにはキジムナー達がいるガジュマルの木があった。そう。NIJIがいるのはよく通っている広場だ。
NIJIはゆっくりと口を開き歌い始めた。
♪笑顔を忘れた時に起こる
光を失ったかのような苦しさが
溜息と共に哀しみが纏いつき
目から流れ出す雨粒と淋しさの声が
心の叫びがぼくを木霊する
そんな哀しみの中に蘇るきみとの記憶
どんな苦しみをも乗り越えてきたきみを思い出すと
生きる術を思い出させてくれた♪
NIJIはダンスをしながら歌い上げる。
軽快に裸足でリズムを取りながら最初のサビに入る。
♪陽だまりのような笑顔を見せてくれたきみが
ぼくに生きる力を与えてくれた
忘れぬ哀しみを胸の奥にしまい強く生きることを誓った
太陽のように笑うきみが側にいたから怖くなかった
ぼくの背中を押してくれたから前へ進めることができた♪
映像がNIJIの頭上を映し出すとNIJIの顔に切り替わった。
改めてみると自分とは思えないほどの良い顔と出で立ちをしている。Adamがぼくそっくりのアバターを作ったつもりだが、本人よりNIJIというアバターの方が男前に見える。自分のアバターなのになぜ、NIJIを尊重するのか自分でも分からない。まるで、ぼくより自分が男前だなんて思う途端に何だか複雑な気分になる。でも、NIJIが出す歌声は紛れもなくぼくだ。
表情は柔らかく感情を込めて歌っている。ぼくの表情や口と体の動きがそっくりそのままNIJIに移っている。
♪目に見える一筋の陽光が
悲しさという闇を明るく照らす
前を向いて未来へと歩き出せと
心に映るきみがぼくを鼓舞してくれる
何度も失敗や転んで挫けそうになる時があっても
強く生きればきっと希望を掴み取れるチャンスが訪れる
一人でこの世に生きる者はいないときみが教えてくれた
だってぼくはもう独りじゃないんだ♪
この歌を聴くとまるで応援しているように聞こえる。この歌は、大切な人がいなくなり悲しみに囚われている人が未来へ進む為に強く生きてほしいという願いを込めた歌。そして、ぼくが経験した出来事と夢の中で再開した亡き兄 翼という存在と最後の会話を思い出し書き綴り歌にしたのだ。
♪遠く離れていても思い出は繋がっている
旅立ったきみを想えば想うほど寂しくなるけど
でも、ぼくはきみに誓ったんだ 強く生きていくと
だから、ぼくはもう振り返らない
きみという〝太陽〟のように笑って生きていく♪
MVを観てくれているリスナー達がたくさんのコメントが寄せられてくる。視聴回数はうなぎ上りでコメント欄には様々なメッセージが着ていた。川のように流れるリスナー達からのコメントの中には、ぼくの歌に納得していない声を上げるリスナーもいるけど、感動してこの歌を気に入っているリスナーの声の方がとても多い。
♪希望の欠片(ピース)を集めて
自分の未来を描き出す♪
盛り上がってきた所で、最後のサビに入る。
音楽も一段と盛り上がり始めNIJIの高揚が高まりだす。
♪陽だまりのような笑顔を見せてくれたきみが
ぼくに生きる力を与えてくれた
忘れぬ哀しみを胸の奥にしまい強く生きることを誓った
太陽のように笑うきみが側にいたから怖くなかった
ぼくの背中を押してくれたから前へ進めることができた♪
最後のサビを歌い上げ音楽が終わるとMVの映像は暗くなった。
終わったのだ。やっと、初オリジナルソングのお披露目が終わったのだ。MVが終わるに連れ勢いあったコメントの嵐も落ち着いてきた。
YouTubeにもある「いいね」の数は2.5万。ブーイングを表す「よくない」の数は829。圧倒的に「いいね」の数が多い。
ぼくは「よくない」の数の方が多いんじゃないかと思いヒヤヒヤしたが、この歌を気に入ってくれた人がたくさんいてホッとした。
隣にいた神馬くんは満足そうな顔をしていて頷いていた。
「いいね。いいねー!やっぱ、虹くんの歌は最高だよ」
神馬くんに褒められてぼくは嬉しくて照れた。
「神馬くんのおかげだよ。こんなにも素敵な音楽を作ってくれてありがとう」
もし、神馬くんがいなかったらオリジナルソングなんて作らなかったしこうして楽しく歌えることはできなかったかもしれない。
彼との出会いがきっかけでぼくは少しだけ大きくなった気がした。
すると、ぼくのスマホに着信が鳴った。EHR(アース)の着信だ。ホーム画面に映る着信履歴には、さっきぼくのMVを観てくれたフォロワーの人達からのDMやコメントがたくさん着ていた。着信はしばらく鳴り止むことなく次々とフォロワーの人達やフォロワー外の人達からの感想のコメントが届いてくる。
「この調子で次のオリジナルソングも一緒に作ろう」
「次も?」
「そうだよ。虹くんは今までカバーソングだけで歌ってきていたけど、これからはオリジナルソングも取り入れてもっと活躍してもらおうと思っている。もとろん。カバーソングを歌うのはいいけど、たまにはオリジナルソングを作ってみんなに聴かせてあげればもっと視野が広がると思うんだ。NIJIとして羽藤虹として活躍の場を広げればもっとみんなはきみに興味を惹かれる。EHR(アース)を初めてまだ浅いのに3200万以上のフォロワーを持つなんてすごいよ。でも、フォロワーが多いからってそこでお終いじゃないんだ。きみはまだスタートを切ったばかりの新米には変わりないんだから」
確かに、EHR(アース)を始めてからまだ一ヶ月。確かにぼくはまだペーペーの新米だ。新米で3200万以上のフォロワーを受け持つ事はとてもすごいけど、有頂天になり過ぎて油断したらフォロワーの数が減るかもしれない。いや、フォロワーが減るだけならまだ大丈夫だがこれからの活動は慎重に気をつけなければならないのは確かだ。ちゃんと相手を尊重しフォローしてくれた人達を大事にしなければならない。
もちろん。一度始めた事はちゃんとやる。NIJIとしてこれからも活躍の場を広げみんなに楽しめる感動する曲を作るつもりだ。
「そうだね。まだ始まったばかりだもんね」
ぼくは笑った。
「ぼく、もっとオリジナルソングを作ってみるよ。作曲の方はよろしく頼むよ」
神馬くんは「任せろ」と自信満々に言い拳を出した。ぼくも拳を作り互いの拳を合わせた。
MVの映像画面は真っ黒のまま静止している。
映像画面には下にはNIJIの名前とその隣に曲のタイトルが書かれている。・
NIJI(ぼく)が歌った曲のタイトル名は至ってシンプル。
そのタイトル名は「太陽」─
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