死霊使いと精霊姫

五月七日 外

文字の大きさ
38 / 45
剣帝

剣帝⑧

しおりを挟む
 ライオネルに向かってましろは、右側から斬りつける。せつなは、同時に左側から翼で攻撃する。
 そして、無銘とせつなの翼がライオネルに当たる寸前……"ましろ"の目の前から一瞬でライオネルの姿が消えた。今まで通りならましろの背後にいるはずだが……

「がはっ!」

 ライオネルは、ましろの背後ではなく壁にまで吹き飛ばされていた。
 誰に?その答えは……

「上手くいったわね」

 ましろの隣に降り立ったせつなである。
 その証拠にライオネルの体の至るところに羽が突き刺さっていた。

「ああ。やっぱりライオネルの能力は、〈時間停止〉だったんだ!」

 ましろの〈範囲〉の時間が基準の時間よりも遅れていた理由……
 それは、ましろ以外の人物つまり、ライオネルがましろの時間を止めていたからである。
 そして、ライオネルの能力発動条件は、いつもましろの攻撃が当たる寸前に能力が使われていたこと。ライオネルの時間を止めていても発動したことから自信に危険が迫ったときに発動する……つまりカウンター型の能力だった。
 
「くっ……俺様としたことがしてやられたな。お前、俺様の能力と同時に〈時間操作〉を使ったな?」
「流石だな……」

 何度も同じ手は、使えないと思っていたがまさか、一発でバレるとは思わなかった。
 そう。ましろは、ライオネルに攻撃する前に"右手"でせつなに触れておいた。そして、1秒後にせつなの時間の流れが加速するようにしていた。
 あとは、作戦通りタイミングを合わせてライオネルに攻撃をしたらライオネルの能力とましろの能力が同時に発動し、ましろの時間は、止められてしまったがせつなの時間は止まるところまで至らず、ライオネルに攻撃できたというわけだ。
 ……予想通り、〈時間停止〉と時間の流れの〈加速〉が同時に発動したら互いに打ち消しあって、結局、時間の流れは普通になってよかった……

「そう言えば、お前らの名前を聞いてなかったな?」
「ん?確かにそうだけど……」

 ライオネルが立ち上がると何故か名前を聞かれた。今さら名前を知ったところで何かあるのだろうか?

「俺様に傷を負わせられるやつなんて限られてるからなぁ。それに、いつの日かお前らが俺様にリベンジしてきたときには、大物になってるかもだしな」

 つまり、ライオネルは今の段階になってようやくましろとせつなの実力を認めたようだ。
 本来ならライオネルは、許せない敵のはずなのだが、英雄とまで呼ばれた男に実力を認められたことがましろは、単純に嬉しかった。

「わたしの名前は、せつな」

 すると、せつながライオネルを睨み付けながらだったが名乗った。

「俺は、ましろだ」
「せつなにましろか……有り難く思いな!ここからは、俺様も本気で戦おう」
「それでも俺たちが勝つ!」

 隣でせつなもウンウン頷いている。
 ライオネルは、さっき「いつの日かリベンジに来たとき」と言っていた。つまり、能力を見破られても負ける気なんて全くしていないらしい。

「さて、再開しようか?」

 すると、ライオネルが二本の剣を構え直す。

「ましろ……ライオネルの雰囲気が変わった。ここからが本番」
「ああ、わかってる」

 せつなの言うとおり、ライオネルが漂わせている雰囲気が変わった。
 先程までは余裕があり、こちらの攻撃をわざわざ待っていたように感じていたが本気を出すと言った以上ライオネルも攻撃を仕掛けてくるだろう。
 
「どうした、こないのか?」
「……」

 ライオネルは、ただ剣を構えているだけなのに全く隙が見当たらない。
 さらに、あと一歩でも前に行けばライオネルの間合いに入ってしまうだろう。
 ……下手に動けない。不用意に間合いに入ればやられる……

「なら、俺様から行ってやろうか?」

 ドサッ!

 すると、足下に何かが落ちた。

「左腕?」

 何と足下には、ましろの左腕が落ちていた。
 左腕を斬り落とされたにも関わらず、ましろはそのことに全く気がつかなかった。

「一式・睦月の剣……俺様が剣帝と呼ばれる由縁となった剣技の1つだ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

女神様、もっと早く祝福が欲しかった。

しゃーりん
ファンタジー
アルーサル王国には、女神様からの祝福を授かる者がいる。…ごくたまに。 今回、授かったのは6歳の王女であり、血縁の判定ができる魔力だった。 女神様は国に役立つ魔力を授けてくれる。ということは、血縁が乱れてるってことか? 一人の倫理観が異常な男によって、国中の貴族が混乱するお話です。ご注意下さい。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

愛する夫が目の前で別の女性と恋に落ちました。

ましゅぺちーの
恋愛
伯爵令嬢のアンジェは公爵家の嫡男であるアランに嫁いだ。 子はなかなかできなかったが、それでも仲の良い夫婦だった。 ――彼女が現れるまでは。 二人が結婚して五年を迎えた記念パーティーでアランは若く美しい令嬢と恋に落ちてしまう。 それからアランは変わり、何かと彼女のことを優先するようになり……

処理中です...