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デイジーの受難
大路の旅立ち③
しおりを挟む「はあい」と返事とともに、がたごとと物音が聞こえ、覗き穴から見たような間もなく、ドアが開かれた。
あっけなくドアを開け放ったということは、こちらの訪問を見越して、待っていたのではないか。
それにしては「あれ?大路」と三村くんは首をひねって、「まあ、いいや、どうしたの」とドアを放し、背を向けた。
三村くんの反応が予想外にもほどがあったものだから、つい呆けてしまい、ぎりぎりのところで閉まりきる前にドアに手を挟んだ。
恋愛音痴で鈍感というレベルではない。
こうなったら、記憶障害を疑いたくなるほどで、「男をホテルの部屋に招くのが、どういうことか分かっているのか!」と説教する気も失せ、いっそ心配になってくる。
三村くんの胸中が読めず、困惑したのもつかの間。
いや、この好機を逃すなと、すぐさま思い直し、ドアを開け放ったなら、見えない壁を突き破るようにして敷居を跨いだ。
ドアが閉まると、音を立てないようにチェーンをかけてから、ちょうどベッドの傍に歩み寄っている三村くんの元へ、走っていった。
背後の異変を察知して、三村くんが振り返る前に、両腕を胸に回して抱きしめた。
やっぱり油断をしていただけなのか、俺の腕の中で、言葉もなく身を固くしているのに、髪に頬ずりをして、髪を食むように口付けをし、耳、首へと唇を落としていく。
服の襟まで口づけしたところで、舌を首筋に這わせようとしたら、「大路」と腕に手を添えられた。
「お前に、言っておきたいことがある」
ドアで出迎えたときより、声が掠れて震えていたけど、まだ足りなかった。
「まだまだ足りない」とこみ上げてくる飢餓感に耐えられず、有無をいわさないで事に及びたかったけど、望みを与えるふりをするのもいいかと考え、腕を解き両肩を掴んで、こちらに向き合いさせた。
正直なところ、自慰の途中で見せたような、屈託のない顔をまたしているのではと、不安だったけど、いつも想像を上回る恋愛音痴ぶりを発揮する三村くんも、他に人のいないホテルの階で、部屋に二人きり、傍にはベッドというシチュエーションでは、人を食ったような態度はとれないらしい。
青白い顔を強張らせ、睨むような泣きそうな目で見上げて、腹のあたりのシャツを握っている。
痛そうに噛む唇を、中々開きそうになかったけど、俺が両肩を掴む手に力をこめたら、びくりとした弾みで「俺は」と切りだした。
「お前の処理につきあってやってもいいと思っている。
でも、俺は、お前にキスも、それ以上のこともしてほしくない」
三村くんの俺を見る目は、これまでになく焦点が合ったような揺るぎないものだったし、何より、「してほしくない」と面と向かって拒否られたのは初めてだ。
が、ホテルの部屋にへらへらと招いておいては説得力がなく、突き放そうとするにも「してほしくない」は弱すぎる。
「するな!」とそれこそ、胸を突きとばすくらいしないと。
「ああ、やっぱりこの人は、何も分かっていないんだな」と俺は、嫌みに笑うのを隠そうとしなかった。
幼い俺に似つかわしくない露悪的な笑みを目の当たりにして、ショックを受けたのか、三村くんは目を見張ったまま身動きしなくなった。
その頬に手を添えて「そんなこと言わないでよ」と鼻を摺り寄せて囁く。
「三村くんは、いつも『しかたないなあ』で、なんでも俺のわがままを聞いてくれたじゃない。
体だって、しかたないなあって、簡単に開くことができるでしょ?
かわいい俺に対してなら」
うっすら頬を染めて目をそらしたのは、いまだ俺を幼く見ている自身を恥じてか、指摘された通り体を開きかねないことを自覚してなのかは、分からない。
どちらにしろ、俺に毅然とした態度を示すつもりだったのかもしれないけど、一言二言で動揺するくらいに、まだ迷いがあるらしい。
「そらみろ」と喉の奥で笑ったのを、聞き咎めたように、すかさず向き直った三村くんは、小刻みに瞳を震わせつつ、射抜くように見てきて、一粒の涙をこぼした。
そして、口にした。
「いやだ」
「い」の時点で、腕を振りかぶって、言いきった直後に三村くんの頬に掌を叩きつけた。
ばちんと、幾筋の血管がぶち切れたような音が鳴った間もなく、三村くんがベッドに仰向けに倒れこんだのに、ダイブするように覆いかぶさった。
さすがに危機感を覚えてか、慌てて起き上がろうとしたところで、片方の肩を押さえつけて、もう片手を振りあげ、再度、頬に平手を食らわそうとした。
そのとき。
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そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
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