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蛙
六
しおりを挟む―城の一番上の階は、普通はその城の主がいるはずだった。
しかし、今やその主は上座で突っ伏し、あたり一面、血まみれだ。
オマケに火の手が上がり、外は騒々しくなっている。
男がその様子を城から覗いていると、
「捕らえました!」
と言って、縛り上げた庄右衛門を床に転がした。
庄右衛門は酷く負傷し、背に三本も矢が突き刺さり、息も絶え絶えだ。
しかし、突っ伏している城の主を見やると、実に悔しそうな顔で男を睨みつけた。
「お前がこんなことをするとは……裏切りの行為がどれだけ重罪か、わかっているだろう!なぜ仲間を裏切って、こんな事をしたんだ!」
「僕らは甲賀の石頭と違って、金払いの良いご主人様につくからねぇ」
男がニヤリと笑う。
「そこの城主より、更に高いお金を払ってくれちゃったから、従っただけさ」
「ふざけんな……!たしかに依頼人とはそんなもんで良いだろうが、結果的に伊賀忍者を裏切って大量に殺したのはお前だろう!」
「そこなんだよねぇ。だから、この罪は君に被ってもらおう」
庄右衛門が困惑して黙ると、男が庄右衛門の顔を覗き込んだ。
「『君が』この依頼を受けた。君たちは家族ぐるみでこの計画を練り、城主を殺し、仲間も道連れにした。
だから『僕が』『君たち家族を』伊賀忍者の掟に乗っ取り成敗した。
これで悪者はいなくなり、僕は仲間の敵討ちを立派に行った誇り高い伊賀忍者のままでいられる。
めでたし、めでたし」
ね?と男が小首を傾げる。
腑が煮え繰り返る感覚を覚えながら、庄右衛門が尋ねた。
「俺じゃなく、俺たち家族……だと?」
「うん、そうだよ」
男の口の端が裂けんばかりに釣り上がる。
「君の息子、梅吉くんはさっき殺したよ。今頃、君の家に、僕の仲間が向かってるから、確実に君の奥さんを始末してくれるよ。死んだらあの世でみんな会えるさ」
男がゲタゲタ笑う。
庄右衛門は怒りで視界が真っ赤になった。咄嗟に上半身を後ろに引き、思い切り男に頭突きをした。
男の情けない悲鳴と、鼻血。
「殺せ!今すぐ!首を刎ねて、晒してやれ‼︎」
男の激昂した声。庄右衛門は床に頭を押し付けられた。
すぐ下まで火の手がきているのだろう。床がとても熱い。
梅吉。マキ。どこで殺された?苦しんで死んではいないだろうか。
はる。すまない。帰ると約束したのに。怖い思いをさせてしまうなんて。
実松、尚竹。もうすぐそちらへ行くからな。
刀が閃き、庄右衛門の頸にヒンヤリとしたものが当たると、今度は熱すぎる痛みを感じた。―
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