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蛾
三
しおりを挟む「忌み子として生まれたお前に私が情けをかけたというのに、どうして言うことが聞けないの……?」
牡丹の白い顔が、雪丸と目線を合わせてきた。
黒い瞳が、全ての光を吸収して闇になっている。
「生まれるのは翡翠ちゃんだけでよかったのに……、勝手にくっついて生まれて、翡翠ちゃんの体まで脅かして、お前は閏間家にとって毒以外の何者でもないわ」
雪丸の目が恐怖で更に見開かれ、ガチガチと歯が鳴る。
牡丹の細い手が雪丸の手に触れた。
「せめて女だてらに剣術を習わせて、翡翠ちゃんの護衛に使ってやろうと思ったのに、我が社の御神体を持っていくなんて、疫病神なの?」
「……」
「折檻、だわねぇ」
その言葉に、雪丸はビクッと体を震わせた。
牡丹の手に、荒縄が乗っている。
ガタガタと震える雪丸に、牡丹がニッコリと笑いかけた。
「暴れなければ、痛くない。
長年このお仕置きを受け続けて、わかってきたことでしょう?」
「いやぁああ‼︎」
雪丸は悲鳴を上げて、牡丹を思い切り突き飛ばした。牡丹はいつの間にかできた階段を派手に転げ落ち、一番下で動かなくなった。
雪丸は震える足で、転げるように逃げた。
突き飛ばした時の、母の怖くなるほど細い体…生々しい感覚がまだ残っている。
こんなことがここで起こるなんてあり得ないとわかっているが、まるで雪丸の触れてほしくない記憶にわざと触ってくるような状況だ。
これは化け物のせい、これは化け物のせい…、そう言い聞かせても、恐怖がまさって正常な判断ができなくなってくる。
咽び泣きながら走っていると、不意に何かに躓いて盛大に転んだ。
すぐに確認すると、そこには布団に寝ている者がいた。
「痛いなぁ……、勘弁してくれよ、お雪」
ノソリ、と布団が動き、雪丸とソックリな顔が覗いた。雪丸は息を呑んだ。
「翡翠……!」
「また悪戯して、母さんに叱られたの?」
雪丸の双子の兄・翡翠が、痩せた肩を震わせて笑った。
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