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兎
二
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くすくす笑うあざみに、庄右衛門は呆れたように声をかける。
「誤解されるようなことを言うなよ。へそ曲げちまったぞ」
「あんな冗談に引っかかっちゃうなんて、可愛い子ねぇ」
「まだ若いんだ。駆け引きすら知らん」
「それだけかしら」
あざみが悪戯っぽく見上げる。
「あの子、あなたの事大好きなんじゃないの?」
「さあな。ところで」
庄右衛門は適当に受け流して、本題に切り替えた。
「あざみ、俺が死んだ後、椿山兵次郎とその一派はどうしている?」
あざみはその名を聞くと、眉を寄せてため息を吐いた。そして言いにくそうに話しはじめた。
「あんたたち家族の首を晒して、城主を殺した裏切り者の浅桜一家に見事復讐したと主張してたわ。
それでもあまりに酷いって、浅桜家を信じて調査をし直すよう提言した者もいたのよ。
でも、兵次郎たちと、兵次郎の言うことを信じてしまった者たちによって次々と殺されたり、失踪したりして……、無事な者たちもあちこち散り散りに身を隠したから、もう誰も兵次郎に逆らえなくなってしまったの」
「……」
庄右衛門は晒されてしまった家族や、浅桜家を信じてくれたのに殺された者たちを思って胸が痛んだ。そんなに酷い状況になっているとは知らなかった。
「上忍たちも流石に看過できない事態になったから、椿山討伐命令が出た。でもその前に兵次郎たちは里を抜けて、新しい派閥を作ってしまった。金が弾めば盗みに殺し、好き勝手やってるからもう賊と変わらないくらい酷くて……」
庄右衛門は怒りに拳を握った。
しかし、同時に疑問もあった。
椿山兵次郎という男は、庄右衛門とは幼馴染で、昔から共に戦場を駆け巡った仲だ。
庄右衛門とは真反対な性格で、人には情けをかけ、できるだけ命を助けようとするような、忍びには向いていないくらい優しい男だったはずだ。
それすらも人を欺くための表の顔だとしたら、大した役者ではあるが……この一連の動きがあまりにも、良く見知った兵次郎という人間性に結びつかず、ちぐはぐにさえ思えた。
「信じられん……信じたくもない」
「あんたは特に、兵次郎と親しかったから……、あたしも、兵次郎があんたと家族を殺したのが信じられなかったし、あんたが城主を殺すなんて絶対おかしい話だと思ったの。それで上忍たちに直訴したんだけどね」
庄右衛門が沈んだ顔をすると、あざみは寂しそうな笑みを浮かべた。
「あたしね、この戦場の後は、北の方へ移動しようと思うの。直訴した件で兵次郎の一派に目を付けられてしまったし、もう、忍びの世界も物騒になってきたから……気に入った場所で、落ち着こうと思ってる」
あざみが庄右衛門の服の裾を掴んだ。
「庄右衛門、もし良かったら、あたしと一緒に行かない……?」
「それはできない」
庄右衛門はきっぱりと言った。
「俺は仇を取らなければならない。……兵次郎のことも、決着をつけたい」
あざみはしばらく庄右衛門の目を見つめていたが、やがて寂しそうに手を離し、
「まだ兵次郎たちどころか、他の忍びもあたしみたいに、あんたが生きてることを知らないよ。くれぐれも、見つからないで……」
と言い残し、姿を消した。
庄右衛門はありがとう、と呟いて、雪丸を探しに行った。
「誤解されるようなことを言うなよ。へそ曲げちまったぞ」
「あんな冗談に引っかかっちゃうなんて、可愛い子ねぇ」
「まだ若いんだ。駆け引きすら知らん」
「それだけかしら」
あざみが悪戯っぽく見上げる。
「あの子、あなたの事大好きなんじゃないの?」
「さあな。ところで」
庄右衛門は適当に受け流して、本題に切り替えた。
「あざみ、俺が死んだ後、椿山兵次郎とその一派はどうしている?」
あざみはその名を聞くと、眉を寄せてため息を吐いた。そして言いにくそうに話しはじめた。
「あんたたち家族の首を晒して、城主を殺した裏切り者の浅桜一家に見事復讐したと主張してたわ。
それでもあまりに酷いって、浅桜家を信じて調査をし直すよう提言した者もいたのよ。
でも、兵次郎たちと、兵次郎の言うことを信じてしまった者たちによって次々と殺されたり、失踪したりして……、無事な者たちもあちこち散り散りに身を隠したから、もう誰も兵次郎に逆らえなくなってしまったの」
「……」
庄右衛門は晒されてしまった家族や、浅桜家を信じてくれたのに殺された者たちを思って胸が痛んだ。そんなに酷い状況になっているとは知らなかった。
「上忍たちも流石に看過できない事態になったから、椿山討伐命令が出た。でもその前に兵次郎たちは里を抜けて、新しい派閥を作ってしまった。金が弾めば盗みに殺し、好き勝手やってるからもう賊と変わらないくらい酷くて……」
庄右衛門は怒りに拳を握った。
しかし、同時に疑問もあった。
椿山兵次郎という男は、庄右衛門とは幼馴染で、昔から共に戦場を駆け巡った仲だ。
庄右衛門とは真反対な性格で、人には情けをかけ、できるだけ命を助けようとするような、忍びには向いていないくらい優しい男だったはずだ。
それすらも人を欺くための表の顔だとしたら、大した役者ではあるが……この一連の動きがあまりにも、良く見知った兵次郎という人間性に結びつかず、ちぐはぐにさえ思えた。
「信じられん……信じたくもない」
「あんたは特に、兵次郎と親しかったから……、あたしも、兵次郎があんたと家族を殺したのが信じられなかったし、あんたが城主を殺すなんて絶対おかしい話だと思ったの。それで上忍たちに直訴したんだけどね」
庄右衛門が沈んだ顔をすると、あざみは寂しそうな笑みを浮かべた。
「あたしね、この戦場の後は、北の方へ移動しようと思うの。直訴した件で兵次郎の一派に目を付けられてしまったし、もう、忍びの世界も物騒になってきたから……気に入った場所で、落ち着こうと思ってる」
あざみが庄右衛門の服の裾を掴んだ。
「庄右衛門、もし良かったら、あたしと一緒に行かない……?」
「それはできない」
庄右衛門はきっぱりと言った。
「俺は仇を取らなければならない。……兵次郎のことも、決着をつけたい」
あざみはしばらく庄右衛門の目を見つめていたが、やがて寂しそうに手を離し、
「まだ兵次郎たちどころか、他の忍びもあたしみたいに、あんたが生きてることを知らないよ。くれぐれも、見つからないで……」
と言い残し、姿を消した。
庄右衛門はありがとう、と呟いて、雪丸を探しに行った。
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