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兎
四
しおりを挟む空き家の鍵を開けると、大慌てで家財やらを持ち出して逃げた跡がある。ほぼもぬけの殻だ。押し入れに薄い布団があったので拝借し、とりあえず雪丸をそこに寝かせておく。
「俺は暗くなる前に食料を調達してくる」
そう言い残して庄右衛門は立ち上がろうとしたが、雪丸が手を掴んだ。
「なんだ?」
「精がつくものなら、ここにもうあるじゃないか」
すっからかんの空き家にそんな良いものがあったか?と庄右衛門がキョロキョロすると、
「ここだよ……」
と雪丸が吐息紛れに囁いて、庄右衛門の股間を袴の上から撫でた。ギョッとして離れると、雪丸は小首を傾げながらねだった。
「庄右衛門のとろろみたいに白くてぬるぬるしてて、美味しいもの……私に飲ませてほしいな」
庄右衛門は雪丸のような若い美形に非常に色っぽいことを言われているというのに、背筋がひんやりしてきた。
(春画を見せすぎたか……?)
僅かに罪悪感を感じつつ、雪丸の手を掴む。そしてそのまま布団に横たわらせた。
「あぁっ……庄右衛門、とうとう私のことを好きにしてくれるんだね……?」
「違うわ!馬鹿なこと言ってないで、今はゆっくり休め!」
「庄右衛門の手、すごく大きくて熱い……好き……」
雪丸が甘く囁き、庄右衛門の指に桃色の唇を寄せた。人差し指を少し舐めると、庄右衛門が手を引っ込めた。
「やめろ!まったく、本当にどうしちまったんだ……⁉︎」
「私、どうしちゃったんだろうね……」
雪丸が自分の肩を抱いて浅く息をしている。苦しそうだし、錯乱するほど酷い熱なのかと心配し始める庄右衛門をよそに、雪丸は足をモジモジとさせる。
「庄右衛門に、触って欲しいんだ……」
「どこか痛い所があるのか?」
「違うの……そうじゃなくて、む、胸とか……女陰とか……」
庄右衛門は聞き間違いかと思ったが、雪丸の細い手は自らの股を指している。
「私も、庄右衛門の……、触りたいな……」
そう笑いかけてきた雪丸の顔は、今まで見た中で一番女性らしい笑顔だった。
庄右衛門が呆気に取られていると、雪丸は焦れたように着物を脱ぎはじめた。
「おい、何してんだ!風邪が悪くなるだろ!」
庄右衛門が我に帰って雪丸の手を取るが、雪丸はそのまま庄右衛門に抱きついた。慌てて引き剥がそうとするも、雪丸も負けじと引っ付き、頬やら首やらに口付けをする。
「庄右衛門、良い匂い……」
そう呟いた雪丸の瞳は、いつもの芯の強い光が消え、性欲でどろどろに溶けていた。
庄右衛門は明らかに様子がおかしい雪丸にゾッとして逃げ出す。
だが、見えない何かに足をすくわれ、転倒した。
雪丸が一枚ずつ着物を脱ぎながら近づいてくる。庄右衛門は後退りするも、すぐ壁に背が付いてしまった。
「私、庄右衛門に抱いてほしい……」
雪丸が襦袢を脱ぎ、白くて均整の取れた体が露わになった。
刀を振えるくらいなので、女にしては筋肉質ではあるものの、張りのある乳房やくびれた腰、薄い茂みに覆われた股は紛れもなく女の体だ。
冷や汗をかいている庄右衛門の元へ、四つん這いになって擦り寄る。
「ねえ、庄右衛門……体の奥が熱くて疼くんだ……庄右衛門の『これ』で、奥まで突いてかき混ぜて……」
雪丸が庄右衛門の股間を摩り、にこりと笑いかけた。高揚した頬と、僅かに開いた唇が実に扇情的な表情をしていた……庄右衛門が絶対に見たくなかった顔だった。
「冗談はよせ……!」
庄右衛門が雪丸を振り払おうとしたその時だった。
雪丸の背後に、六匹のうさぎがいた。こんな空き家になぜ沢山の白いうさぎがいるのかわからず、庄右衛門は一瞬固まった。
雪丸がその隙に庄右衛門に思い切り抱きつく。庄右衛門の肩に頬擦りをしたり体を擦り付けてきたりすると、そのうさぎたちは高く跳ね上がってまるで喜んで舞い上がっているようだ。おまけに子供が笑うような、きゃっきゃっという声もする。
(なんだこいつら……?いつの間に、どこから入ってきた⁉︎)
庄右衛門が抵抗して揉みくちゃになっているのを見て、うさぎたちがクスクス楽しそうに笑い出した。
「受け入れれば良いのにねえ」
「せっかく僕らがお手伝いしたんだから、早くまぐわえば良いのにねえ」
「早く見たいなあ、見たいなあ」
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