式鬼のはくは格下を蹴散らす

森羅秋

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鬼集い火花散る

式鬼の決闘⑥

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 雪絵とかいがきょとんとした表情で見上げると、はくが続きを話す。
 本日は終了したと思うが、明日以降だと帰省のスケジュール調整が必要だ。鷹尾たかおは仕事。魄は学校と鷹尾の補佐がある。急に退魔指令が飛び込んでくることもあるから、その旨も伝えなくてはならない。

「私たちは明日の夜に東京に戻る予定なんだけど……明日に決闘するなら夕方まで。それ以降になると希望日に帰れないかもしれないからそのあたりは許してね。決闘は絶対に地元でやりたいの」

 規定によれば決闘をあと最小で三回行わなければならないが、正直、東京で決闘を行いたくない。沢山のギャラリーがやってきそうだからだ。見世物や客寄せパンダではないのでそれだけは避けたい。

 雪絵は立ち上がると、苦笑しながら首を左右に振った。

「魄さん、お気遣いありがとうございます」

 そして鷹尾に向き直り深々と頭を下げた。

「鷹尾お兄さん。勝負はこれで終了させてください。私たちの完敗です」

 鷹尾が不思議そうに「それでいいのか?」と聞き返す。雪絵は自嘲の笑みを浮かべて頷いた。

「私が愚かでした。自分の力量も分からず勝負を持ち出してしまいました。貴重なお時間を取らせてしまい真に申し訳ありません。以後、自分の立場に満足し慎みのある生活を送ります」

 下剋上を諦めると宣言した。つるぎは納得しないだろうが、雪絵には二人に勝つビジョンが何も浮かばない。明日からどう修行したらいいかも把握できておらず、ただ、全体的に力不足だと思うだけだった。
 鷹尾が呆れたようにため息をついた。

「雪絵がそれでいいなら終了してもいい。だが、決闘の期間はまだ始まったばかりだ。修行して技術を磨き、対策を練って挑んできてもいいぞ」

 雪絵は叱られた子供のように下を向いている。雪絵、と呼びかけても目を合わせないので、鷹尾は少しだけ語尾をきつくした。

「ここで諦めるな。雪絵には素質がある。せめて俺を引っ張り出すぐらいまでには成れ」

 ハッと驚いたように雪絵は顔を上げた。鷹尾の真剣な眼差しに射抜かれたように目が離せなくなる。

「また挑戦したくなったらいつでも連絡しろ」

「いえ……しかし……もう私は……」

 雪絵が言い澱んでいると、魁が立ち上がり彼女の前に膝をつく。

「雪絵。頼みがある。俺はまた魄と戦いたい」

「魁……」

「同じ式鬼しきである彼女の力に感銘を受けた。俺は決闘を通じて強さを学び、もっと強くなりたいんだ。もう少しだけ、せめてあと一回だけでも戦わせてもらえないだろうか」

「それは……でも……」

 雪絵は困惑しながら魁を見つめる。こんなにも必死にお願いをする姿は初めてだった。それほどこの決闘で彼が感じた事は大きかったのだろう。魁はさらに食い下がる。

「ではせめて彼らと修行を共に行う許可がほしい」

「魁……」

「井の中の蛙大海を知らない……まさに俺のことだ。山の清掃だけで満足して鍛錬を真剣に行っていなかった。弱い妖魔を倒して有頂天になっていたんだ。それが良く分かった。自分を律して磨きたい。そして改めて魄と対戦したい」

 雪絵の瞳が揺れる。

「でも私は……魁が怪我をするのが……嫌なの……。さきほどの戦いをみて……怖くなった。あんなに傷ついている貴方をみると辛くて……私は主失格よ」

「俺が怪我をするのは弱いからだ。強く成れば怪我もしなくなる。俺のためを思うならどうか」

 魁、とうるんだ眼差しで呟く雪絵。雪絵、と泣きそうな笑顔で呟く魁。
 そんな二人の様子を眺めている魄と鷹尾は、よそでやってくれ、と心の中で絶叫した。決闘をどうするかの結論をずっと待っているのだが、一向にまとまらない。しびれを切らした鷹尾は肩を震わせて、「あーーーーー!」と怒りの声を上げた。びくっと肩を震わせ二人が目を丸くしながら注目したので、怒りで興奮しながら雪絵と魁を交互に指し示す。

「いいから早く結論をいえ! 俺はさっさと帰ってゆっくりしたんだよ! どうすんだ! 結局どうするんだ!」

 それは、と雪絵が口ごもると、鷹尾が強く拳を握りしめて再度絶叫した。

「結論出なかったら明日まで待つからそれまでに決めろおおおおお!」

 気持ちは同じなので魄は頷く。こんな寒い日に突っ立っているのは辛いものがある。なにより本人たちは熱々でも、魄には関係がない話だ。陳腐な恋愛のやり取りに思えて途中から退屈していた。
 叫び終わり、不快深呼吸をした鷹尾は心持すっきりとした表情になり、魄に指で指示を出す。

「魄、帰るぞ。運んでくれ」

「はいはい」

 魄がしゃがむと鷹尾は背に乗った。鷹尾をおんぶして立ち上がると、魄は二人に向かって「では」と軽く挨拶をして颯爽と走り出した。あっという間に練兵場を飛び出し一般道に抜ける。街頭も少なく車の通行もほとんどないため、車道を走って壱拾想本家へ向かった。
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