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ハンロ高校ミスコンテスト
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ナイトクラブ『ダンスインザダーク』での一件は、この間のバスジャック事件とは異なり、シャダイ王国の誇る特殊部隊による偉大な戦果であると報じられた。もちろんブランボヌールやロザリーのことが公にされたわけではない。軍功を上げたとして表彰されたのは今回の作戦とは無関係だったはずの軍の司令官だったのだ。
一連の報道を見ながら僕は、とてもやるせない気持ちになった。危険を冒してアジトに潜入しグリーンフォレストに壊滅的な損害を与えたのは、ロザリーとミヤビ様たちなのに。あんな風に表彰しろとは言わないけれど、それにしても腑に落ちない。ミヤビ様やレイさんに尋ねてみたが、報奨金とか勲章のようなものも一切貰っていないという。
表立って表彰することができない事情があるにせよ、何もしていない軍の幹部が英雄扱いされて、実際に戦ったミヤビ様たちに何も与えられないのはさすがに不公平なんじゃないか。ミヤビ様にそう伝えても、彼女は軽く一笑に付すだけだった。
『別に褒められたくてやったわけじゃないし、シャダイ王国のために戦ったわけでもない。不法入国を見逃してもらった上に、ロザリーとの接触を許可されてるだけでも、私たちにとっては充分すぎるぐらいなんだから』
チトセシティにおける最大の拠点を失ったグリーンフォレストの勢力は大きく弱体化し、チトセ市民は数か月間もの長きに亘ってテロのない平和な毎日を過ごしていた。
ここ数年テロの恐怖に怯えていたチトセ市民にとって、これは実に驚異的な出来事だった。軍や警察といった巨大な組織が捕まえきれなかったグリーンフォレストの尻尾を、たった三人のアルビノが掴み、引きちぎったのだ。それを口にすることができない代わりに、僕は内心でこっそりと三人を誇らしく思った。
グリーンフォレストの活動が鎮静化したことによってロザリーへの特別任務も舞い込まなくなり、僕たちはごく普通のカップルのように平穏な日常を取り戻した。季節は冬から春へと変わり、僕たちは無事、揃って高校二年に昇級。気付けば新緑眩しい五月となっていた。
そんなある日のこと。いつものように登校し教室に入ると、何やら含みのある笑みを浮かべたラニがこちらへ駆け寄って来て、ぐいと肩を組んできた。あれは何か下世話な話をするときの顔である。
「ようモーリス」
「ああ、ラニ。おはよう……」
挨拶もそこそこに、ラニは僕の耳に口を寄せる。
「おいモーリス。今度のミスコン、お前は誰を応援するんだ?」
「ええ、ミスコン?」
「そーだよ。まさかお前、忘れてたの?」
ハンロ高校ミス・コンテスト。それは、学内の有志が主催する非公式イベントである。内容は読んで字のごとく、ハンロ高校の女子の中で誰が一番かわいいかを決める、ただそれだけだ。
投票期間は五月中の約二週間。優勝した女の子に特典は特になく、正直何のために存在するイベントなのかもよくわからないのだが、アイドルを推すような感覚なのか、このミスコンに情熱を燃やす男子は意外と多い。五月といえば新一年生が入って来て間もない時期であり、新入生のカワイイ子を探す上でもこのミスコンは重要な役割を果たしている――と、ラニは言う。
去年の優勝者はダントツで当時新入生のジュエラー・シンハライトことロザリーだった。ちなみに、僕も去年はまだ話したことすらなかったジュエラー・シンハライトに投票した。その当時は彼女と付き合うことになるとも思っていなかったし、よくわからない任務に巻き込まれるなんて想像だにしていなかったのだ。人生何が起こるかわからない、マジで。
ハンロ高校のミスコンは自分から応募することはできず、五名以上の他薦によってエントリーが可能になるのだが、実はそれ以外にも裏ルールがある。それは、交際相手のいないフリーの女子であること。つまり去年の優勝者であるジュエラー・シンハライトはこの裏ルールによって今年のミスコンへのエントリーが不可能となっている。
まあ、ロザリーは去年優勝を伝えられてもあまり喜んでなかったし、今年だってどうでもいいと思っているだろう。
それはそれとして。僕はラニの問いに答えた。
「いや、忘れちゃいないけどさ……正直、そこまで興味ないっていうか」
「去年の絶対的女王を彼女にしたからか? ノロケかよこの野郎!」
と、ラニは突然腕の力を強め、僕の首をグイと締め上げてきた。咄嗟のことに逃げ切れなかった僕はラニの腕を引き剥がそうと試みたが、細身の割に筋肉質なラニの腕力は凄まじく、僕の力ではその手を振りほどくことすらできない。
「ぐ、ぐるじぃ……」
「でも、ま、あいつの彼氏って色々大変そうだもんな……かわいいけど正直そんな羨ましくはねーや」
何を失礼な、とは思ったが、首を絞められていて声が出せないし、そもそも実際何度も死にかけるぐらい大変な思いをしているのだから、物理的にも心理的にも反論は不可能だった。
ラニはふっと腕の力を緩めると、再びニヤリと薄笑いを浮かべる。
「で、だ。じゃあモーリス、お前は今回誰にも投票しねーの?」
「ゲホ、ゲホッ……うん、まあ、そうなるかな……」
「残念だなぁ。しかしまあ、今年はどうせレーヌ・スターリングがぶっちぎりの優勝だろうな」
「え、レーヌが?」
「当ったり前だろーが! くりっと大きな瞳の童顔に、田舎育ちの純朴さ、その上あの爆乳ときた。男の願望全てを体現したような女の子じゃねーかよ」
ラニが放った爆乳というフレーズに刺激されたのか、数か月前バスジャック事件に遭遇した記憶が蘇ってくる。レーヌの柔らかい胸に包まれる感触、そして彼女のスカートの中に……あの時のことを思い出すと、今でも下半身に血流が集まってくる。
いや、それだけじゃない。授業を受けている最中なんかに、隣の席のレーヌから時折お香のようないい匂いがふわりと漂ってくることがあるのだけれど、その匂いを嗅ぐだけで、僕の股間は机の下でテントを張ってしまうのだ。ダメだダメだと思いつつも止められない、これは生理現象なのである。
とはいえ、ラニの目の前ではさすがにマズい。僕は三角関数を頭の中に思い浮かべ、必死に煩悩を振り払いながら答えた。
「ああ、うん……まあ、かわいいよね、レーヌさん」
「だよなだよな! 隣の席のお前が羨ましいぜ。新入生にもまあそこそこカワイイ子はいるらしいけど、レーヌの相手にはならんだろうな」
「ミヤビさ……んとかは? 彼女も結構美人なんじゃない?」
と僕は、先に席についていたミヤビ様を見た。椅子に腰掛け、ミニスカートから伸びる長い脚を組み、無表情でずっとスマートフォンをいじっている。レーヌと系統は真逆だけど、ルックスでは彼女だって負けてはいないはず。しかしラニは、ミヤビ様の方を一瞥して顔をしかめる。
「いやあ、無理無理。確かに顔はいいけどな、あのキャラは受けねえわ。票は全然集まらないだろうし、そもそもエントリーのための推薦者五人だって集まらねーだろ。そういやモーリス、お前、雅と仲いいのか? お前とあいつとレイデオロの三人でよく一緒に昼飯食ってるって話を聞いたんだが」
!i!i!i!i!i!i!i!i!i!i!i!i!i!i!i!i
その日の昼休み。僕はミヤビ様に呼び出されて、屋上へと向かった。
冬の間、めちゃめちゃ寒い屋上まで出てくる物好きな生徒は僕たち以外あまりいなかったから、人目を気にせずに色々な話をすることができた。しかし、季節はすっかり春。天気が良ければ昼間はぽかぽかと暖かく、僕たちの他にも屋上で昼食をとる生徒が常に何組かいる状態。だから冬場のように気軽にロザリーの名前を出すわけにもいかず、会話は専ら世間話となる。
屋上に着くと、ミヤビ様は貯水槽の周りのコンクリートの足場に腰掛けてぼんやりと空を眺めていた。今日はレイさんの姿は見えない。三人で揃って昼食を摂る日もあるし、ロザリーが加わって四人になることもある。レイさんがいない日も僕が来ない日もあり、いつも決まったメンツが揃うわけではないけれど、ミヤビ様は毎日決まって屋上で昼食を摂っているらしかった。
僕はそのまま彼女の方へ歩いたが、こちらに気付く気配は一向にない。何を見ているんだろう、と視線を追ってみたものの、そこには澄んだ青空と絹糸のように細い巻雲が広がっているばかり。
「ミヤビ様?」
と声を掛けるとミヤビ様は、
「きゃっ!?」
不意を突かれたせいか、彼女らしからぬ可愛らしい悲鳴を上げながらぎょっとしたような表情で僕を見た。こうして見ると彼女も普通の女子高生なんだなと思わされる。
「ちょっと、脅かさないでよ!」
「いや、ただ声をかけただけなんだけど……」
「ああ言えばこう言う。ホント、気が利かないんだから」
彼女は僕に対していつも理不尽だ。
それから僕たちは、揃って弁当の包みを開け、のんびりと昼食を摂った。ミヤビ様の弁当は今日もとても豪華で、しかも女の子のものにしてはかなり量が多い。
いつもは大体ミヤビ様が一方的に話して僕はその聞き役、という感じなのだけれど、今日の彼女は何だか妙に口数が少なかった。とりあえず何か話を振るべきだろうかと思ったが、こんな時に女の子が喜びそうな話題が思いつかない。悩んだ挙句、僕はある意味現在最新のトピックであるミスコンの話をしてみることにした。女子にはあまり話しちゃいけないんだけど、まあどうせ全然興味持たないだろうし、別にいいかと思ったのだ。
この選択を、僕はすぐに後悔する羽目になる。
「ミヤビ様、そういえば、ハンロ高校のミスコンって知ってる?」
「ミスコン? 何それ。初耳ね」
「そのまんまの意味だよ。非公式イベントではあるんだけど、ハンロ高校の女子の中で誰が一番魅力的か、っていうのを、男子生徒の投票で決めるんだ」
「……ふーん。くだらないことやってんのね」
ミヤビ様は吐き捨てるように言う。やっぱり彼女は興味なし、か。
しかし、次の一言によって、彼女の態度は豹変した。
「去年はロザ……ジュエラーがダントツの一位だったんだけど、ラニが言うには、今年はレーヌがぶっちぎりで優勝するだろうってさ」
「……何? レーヌって、レーヌ・スターリングのこと?」
レーヌの名前に反応し、突然身を乗り出してくるミヤビ様。口元に一粒ごはん粒がついているのが見える。
「う、うん、そのレーヌのことだけど……」
「あの小娘め……」
と、まるで白雪姫に呪いをかける王妃のような恐ろしい形相で、ミヤビ様は呟いた。同い年のはずなのに小娘っていうのはおかしい。もしかして彼女はサバを読んでいるんだろうか? まあ、身分を偽ってシャダイ王国に潜入してきたぐらいだから、年を誤魔化すことぐらい朝飯前なのかもしれない。いや普通に考えれば身長のことか。
「そのミスコンってのは、女子だったら誰でも出られるわけ?」
「い、いや、五人以上の他薦がないと出られないルールになってて……」
レーヌの名前が出たからか、ミヤビ様はさっきまでとはうってかわってミスコンに強い興味を示し、眉根を寄せて指を折り始める。
「五人でしょ? えーと、モーリスと、レイと、あとは……うーん、いないか……」
「僕はもう頭数に入ってるんだね」
「あと三人か……どうにかして見つけなくちゃ」
「ミスコンなんて興味なかったんじゃないの?」
「レーヌが出るとなれば話は別よ。あいつには絶対勝たせないんだから」
青い瞳にメラメラと闘志を燃やすミヤビ様。これはマズいことになった。ミスコン自体に興味を持たないところまでは予想通りだったが、彼女の執念をすっかり忘れてレーヌの名前を出してしまったのは完全に僕のミスである。口は災いの元。私は貝になりたい。
「モーリス、ミスコンに出て優勝するために、まずは五人の推薦人を集める。さ~て、忙しくなるわよ!」
はあ……やっぱりそうなるか。
僕は思わず天を仰いだ。
一連の報道を見ながら僕は、とてもやるせない気持ちになった。危険を冒してアジトに潜入しグリーンフォレストに壊滅的な損害を与えたのは、ロザリーとミヤビ様たちなのに。あんな風に表彰しろとは言わないけれど、それにしても腑に落ちない。ミヤビ様やレイさんに尋ねてみたが、報奨金とか勲章のようなものも一切貰っていないという。
表立って表彰することができない事情があるにせよ、何もしていない軍の幹部が英雄扱いされて、実際に戦ったミヤビ様たちに何も与えられないのはさすがに不公平なんじゃないか。ミヤビ様にそう伝えても、彼女は軽く一笑に付すだけだった。
『別に褒められたくてやったわけじゃないし、シャダイ王国のために戦ったわけでもない。不法入国を見逃してもらった上に、ロザリーとの接触を許可されてるだけでも、私たちにとっては充分すぎるぐらいなんだから』
チトセシティにおける最大の拠点を失ったグリーンフォレストの勢力は大きく弱体化し、チトセ市民は数か月間もの長きに亘ってテロのない平和な毎日を過ごしていた。
ここ数年テロの恐怖に怯えていたチトセ市民にとって、これは実に驚異的な出来事だった。軍や警察といった巨大な組織が捕まえきれなかったグリーンフォレストの尻尾を、たった三人のアルビノが掴み、引きちぎったのだ。それを口にすることができない代わりに、僕は内心でこっそりと三人を誇らしく思った。
グリーンフォレストの活動が鎮静化したことによってロザリーへの特別任務も舞い込まなくなり、僕たちはごく普通のカップルのように平穏な日常を取り戻した。季節は冬から春へと変わり、僕たちは無事、揃って高校二年に昇級。気付けば新緑眩しい五月となっていた。
そんなある日のこと。いつものように登校し教室に入ると、何やら含みのある笑みを浮かべたラニがこちらへ駆け寄って来て、ぐいと肩を組んできた。あれは何か下世話な話をするときの顔である。
「ようモーリス」
「ああ、ラニ。おはよう……」
挨拶もそこそこに、ラニは僕の耳に口を寄せる。
「おいモーリス。今度のミスコン、お前は誰を応援するんだ?」
「ええ、ミスコン?」
「そーだよ。まさかお前、忘れてたの?」
ハンロ高校ミス・コンテスト。それは、学内の有志が主催する非公式イベントである。内容は読んで字のごとく、ハンロ高校の女子の中で誰が一番かわいいかを決める、ただそれだけだ。
投票期間は五月中の約二週間。優勝した女の子に特典は特になく、正直何のために存在するイベントなのかもよくわからないのだが、アイドルを推すような感覚なのか、このミスコンに情熱を燃やす男子は意外と多い。五月といえば新一年生が入って来て間もない時期であり、新入生のカワイイ子を探す上でもこのミスコンは重要な役割を果たしている――と、ラニは言う。
去年の優勝者はダントツで当時新入生のジュエラー・シンハライトことロザリーだった。ちなみに、僕も去年はまだ話したことすらなかったジュエラー・シンハライトに投票した。その当時は彼女と付き合うことになるとも思っていなかったし、よくわからない任務に巻き込まれるなんて想像だにしていなかったのだ。人生何が起こるかわからない、マジで。
ハンロ高校のミスコンは自分から応募することはできず、五名以上の他薦によってエントリーが可能になるのだが、実はそれ以外にも裏ルールがある。それは、交際相手のいないフリーの女子であること。つまり去年の優勝者であるジュエラー・シンハライトはこの裏ルールによって今年のミスコンへのエントリーが不可能となっている。
まあ、ロザリーは去年優勝を伝えられてもあまり喜んでなかったし、今年だってどうでもいいと思っているだろう。
それはそれとして。僕はラニの問いに答えた。
「いや、忘れちゃいないけどさ……正直、そこまで興味ないっていうか」
「去年の絶対的女王を彼女にしたからか? ノロケかよこの野郎!」
と、ラニは突然腕の力を強め、僕の首をグイと締め上げてきた。咄嗟のことに逃げ切れなかった僕はラニの腕を引き剥がそうと試みたが、細身の割に筋肉質なラニの腕力は凄まじく、僕の力ではその手を振りほどくことすらできない。
「ぐ、ぐるじぃ……」
「でも、ま、あいつの彼氏って色々大変そうだもんな……かわいいけど正直そんな羨ましくはねーや」
何を失礼な、とは思ったが、首を絞められていて声が出せないし、そもそも実際何度も死にかけるぐらい大変な思いをしているのだから、物理的にも心理的にも反論は不可能だった。
ラニはふっと腕の力を緩めると、再びニヤリと薄笑いを浮かべる。
「で、だ。じゃあモーリス、お前は今回誰にも投票しねーの?」
「ゲホ、ゲホッ……うん、まあ、そうなるかな……」
「残念だなぁ。しかしまあ、今年はどうせレーヌ・スターリングがぶっちぎりの優勝だろうな」
「え、レーヌが?」
「当ったり前だろーが! くりっと大きな瞳の童顔に、田舎育ちの純朴さ、その上あの爆乳ときた。男の願望全てを体現したような女の子じゃねーかよ」
ラニが放った爆乳というフレーズに刺激されたのか、数か月前バスジャック事件に遭遇した記憶が蘇ってくる。レーヌの柔らかい胸に包まれる感触、そして彼女のスカートの中に……あの時のことを思い出すと、今でも下半身に血流が集まってくる。
いや、それだけじゃない。授業を受けている最中なんかに、隣の席のレーヌから時折お香のようないい匂いがふわりと漂ってくることがあるのだけれど、その匂いを嗅ぐだけで、僕の股間は机の下でテントを張ってしまうのだ。ダメだダメだと思いつつも止められない、これは生理現象なのである。
とはいえ、ラニの目の前ではさすがにマズい。僕は三角関数を頭の中に思い浮かべ、必死に煩悩を振り払いながら答えた。
「ああ、うん……まあ、かわいいよね、レーヌさん」
「だよなだよな! 隣の席のお前が羨ましいぜ。新入生にもまあそこそこカワイイ子はいるらしいけど、レーヌの相手にはならんだろうな」
「ミヤビさ……んとかは? 彼女も結構美人なんじゃない?」
と僕は、先に席についていたミヤビ様を見た。椅子に腰掛け、ミニスカートから伸びる長い脚を組み、無表情でずっとスマートフォンをいじっている。レーヌと系統は真逆だけど、ルックスでは彼女だって負けてはいないはず。しかしラニは、ミヤビ様の方を一瞥して顔をしかめる。
「いやあ、無理無理。確かに顔はいいけどな、あのキャラは受けねえわ。票は全然集まらないだろうし、そもそもエントリーのための推薦者五人だって集まらねーだろ。そういやモーリス、お前、雅と仲いいのか? お前とあいつとレイデオロの三人でよく一緒に昼飯食ってるって話を聞いたんだが」
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その日の昼休み。僕はミヤビ様に呼び出されて、屋上へと向かった。
冬の間、めちゃめちゃ寒い屋上まで出てくる物好きな生徒は僕たち以外あまりいなかったから、人目を気にせずに色々な話をすることができた。しかし、季節はすっかり春。天気が良ければ昼間はぽかぽかと暖かく、僕たちの他にも屋上で昼食をとる生徒が常に何組かいる状態。だから冬場のように気軽にロザリーの名前を出すわけにもいかず、会話は専ら世間話となる。
屋上に着くと、ミヤビ様は貯水槽の周りのコンクリートの足場に腰掛けてぼんやりと空を眺めていた。今日はレイさんの姿は見えない。三人で揃って昼食を摂る日もあるし、ロザリーが加わって四人になることもある。レイさんがいない日も僕が来ない日もあり、いつも決まったメンツが揃うわけではないけれど、ミヤビ様は毎日決まって屋上で昼食を摂っているらしかった。
僕はそのまま彼女の方へ歩いたが、こちらに気付く気配は一向にない。何を見ているんだろう、と視線を追ってみたものの、そこには澄んだ青空と絹糸のように細い巻雲が広がっているばかり。
「ミヤビ様?」
と声を掛けるとミヤビ様は、
「きゃっ!?」
不意を突かれたせいか、彼女らしからぬ可愛らしい悲鳴を上げながらぎょっとしたような表情で僕を見た。こうして見ると彼女も普通の女子高生なんだなと思わされる。
「ちょっと、脅かさないでよ!」
「いや、ただ声をかけただけなんだけど……」
「ああ言えばこう言う。ホント、気が利かないんだから」
彼女は僕に対していつも理不尽だ。
それから僕たちは、揃って弁当の包みを開け、のんびりと昼食を摂った。ミヤビ様の弁当は今日もとても豪華で、しかも女の子のものにしてはかなり量が多い。
いつもは大体ミヤビ様が一方的に話して僕はその聞き役、という感じなのだけれど、今日の彼女は何だか妙に口数が少なかった。とりあえず何か話を振るべきだろうかと思ったが、こんな時に女の子が喜びそうな話題が思いつかない。悩んだ挙句、僕はある意味現在最新のトピックであるミスコンの話をしてみることにした。女子にはあまり話しちゃいけないんだけど、まあどうせ全然興味持たないだろうし、別にいいかと思ったのだ。
この選択を、僕はすぐに後悔する羽目になる。
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「そのまんまの意味だよ。非公式イベントではあるんだけど、ハンロ高校の女子の中で誰が一番魅力的か、っていうのを、男子生徒の投票で決めるんだ」
「……ふーん。くだらないことやってんのね」
ミヤビ様は吐き捨てるように言う。やっぱり彼女は興味なし、か。
しかし、次の一言によって、彼女の態度は豹変した。
「去年はロザ……ジュエラーがダントツの一位だったんだけど、ラニが言うには、今年はレーヌがぶっちぎりで優勝するだろうってさ」
「……何? レーヌって、レーヌ・スターリングのこと?」
レーヌの名前に反応し、突然身を乗り出してくるミヤビ様。口元に一粒ごはん粒がついているのが見える。
「う、うん、そのレーヌのことだけど……」
「あの小娘め……」
と、まるで白雪姫に呪いをかける王妃のような恐ろしい形相で、ミヤビ様は呟いた。同い年のはずなのに小娘っていうのはおかしい。もしかして彼女はサバを読んでいるんだろうか? まあ、身分を偽ってシャダイ王国に潜入してきたぐらいだから、年を誤魔化すことぐらい朝飯前なのかもしれない。いや普通に考えれば身長のことか。
「そのミスコンってのは、女子だったら誰でも出られるわけ?」
「い、いや、五人以上の他薦がないと出られないルールになってて……」
レーヌの名前が出たからか、ミヤビ様はさっきまでとはうってかわってミスコンに強い興味を示し、眉根を寄せて指を折り始める。
「五人でしょ? えーと、モーリスと、レイと、あとは……うーん、いないか……」
「僕はもう頭数に入ってるんだね」
「あと三人か……どうにかして見つけなくちゃ」
「ミスコンなんて興味なかったんじゃないの?」
「レーヌが出るとなれば話は別よ。あいつには絶対勝たせないんだから」
青い瞳にメラメラと闘志を燃やすミヤビ様。これはマズいことになった。ミスコン自体に興味を持たないところまでは予想通りだったが、彼女の執念をすっかり忘れてレーヌの名前を出してしまったのは完全に僕のミスである。口は災いの元。私は貝になりたい。
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