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第一章 荷台に棲む獣〈こども〉たち
#prologue:攫う砂 - 2
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朝早く、父親が加工屋へ向かった後でリアンは目を覚ました。
鼻をひくつかせると、スープの香りが空腹を思い出させる。
寒い寝床から出るのはとても辛いが、朝食のために急いで着替えを済ませ、外套を羽織り、革の長靴を履いて天幕から出た。
硬い赤土の感触にはすっかり慣れたはずだが、リアンにとっては、どちらかと言えば柔らかくて歩きやすい、砂の感触が恋しくなっていた。
「おはよう、リアン」
「おはよう、母さん」
地平線が白み、眩い太陽が昇り始めていた。
リアンは、いつもの癖で空を見上げ、五感を使って大気の様子を伺った。
「今日は……風が強くなりそうだね」
「荒れるかしら?」
「……そこまではいかないけど」
なら、出かけるなら早く済ませるに限る。
砂漠の強風はあらゆるものを台無しにする。
ということは、店も早めに閉めるところが出てくるだろう。
「リアン。朝御飯を食べたら、店番をお願いね」
「うん。母さんは?」
「お前の言うことを信じて、早めに買い出しを済ませるわ。お昼までにね」
そう言って、母親はカップに入れたスープをリアンに手渡した。
乾燥した野菜をブイヨンと共に戻したスープである。冷えきった体を温めるには最適だ。
柔らかい野菜をもぐもぐと溶かしながらスープと一緒に飲み込むと、喉、食道、そして胃の中へと温かい感触が伝わっていく。
「いい? リアン」
母親は、温かいスープで気分を良くしている息子に水を差した。
「ただでさえ平坦な味で競争率の高い食べ物屋なんだから、お客さんには愛想よくするのよ?」
「……努力はするよ」
リアンには、この愛想よく、という意味がよく分からなかった。
どうして、赤の他人にわざわざ頭を下げたり笑わなければいけないんだろう。
笑顔を見せて喜んで貰えるのは父さんと母さんだけのはずだ。
「お前がこうして食事をしていられるのは、父さんと母さんの笑顔のお陰でもあるのよ」
「え!? そうなの!?」
嘘は言っていないはずだ、と母親は自分に言い聞かせた。
多少、色を付けて話さなければ、この子は動こうとしないだろう。
「今は判らないでしょうけど、商売とはそういうものよ。……だから、食べたかったら笑顔で接客。いいわね?」
「……分かったよ。母さんがそう言うなら」
と言って笑顔を見せるリアン。
せめてこの表情が、自然に他人へと向けられるようになればいいのだが。
「じゃあ、行ってくるわね。昼までには戻るから」
「うん。気をつけて」
そこは、街というよりはバザーと言った方が正しいだろう。
砂漠からそう遠くない、ゴツゴツした赤土の上に建てられた定住用の家屋は二、三軒しかなく、その他は宿替わりの天幕と、通りになる場所にずらりと並ぶ、簡易設置の店だけだ。
店を営むためには、砂漠共通のルールで、事前に場所を借りる必要がある。そのためには、この場所を仕切る元締めと呼ばれている人物から「設営券」を購入し、カウンターのよく見える位置に提示しなければならない。
設営券は日ごとに色と番号が違う新しいものに交換され、隣町とその街において、一日前の分だけが販売される。無論、枚数には限りがあり、購入した段階でどこでも好きな場所を取れる、というわけだ。要するに、一番いい場所で商いをするためには、それだけ早く買いに来る必要があった。
大きな街であれば、早朝から並ばなければ券を買うことが出来ない。そういう街ほど、二日前の分まで売り出すこともある。
幸い、この日、リアン達が泊まっていた街は小さな街なので、並ぶこともなく店を出すことに成功していた。
リアンが店の設営と店番の仕方を本格的に覚え始めたのは、二年前のことだった。
店のカウンターとなるテーブルの出し方や組み立て方、商品の並べ方、そして値段の付け方と勘定まで見よう見まねで覚え、足りないところは父親に教わった。
初めはたどたどしかったが、今ではてきぱきとこなせるようになっている。お陰で、両親の手を煩わせることなく、一人で留守番までこなせるようになっていた。
この日、干し肉を買いに来た客は僅かで、リアンは両親の帰りを待ちながら罪悪感を抱いていた。
(母さんの言う通り、ぼくには愛想が足りないのかな……)
向かいの店に目を向けると、そこはアクセサリ店のようで、何故か食べ物屋であるリアンよりもよく売れているように思える。店番をしているのはリアンよりも若干年上らしい、日の光に輝く金髪を頭の左右に結わえた女の子だった。
リアンはさりげない視線で、少女の様子を観察してみた。
確かに、客が来れば笑顔で接客をしている。当初は買うか迷っていた客も、少女の巧みな交渉で買う気になったらしく、財布の紐はたやすく緩んでいった。
(それに、看板も大きくて派手な色を使っている。これなら、たくさんある店の中から立ち寄りたくなるのも無理はないか……)
食べ物屋だから、と安心していたのは大間違いだった。場所も最上級というわけではない。モノを売るためには売るための努力をしなければならないということに気付かされ、リアンは自分の慢心に深く落ち込んだ。
「どうした、坊主? 売れなくて落ち込んでるのか?」
はっとなって顔を上げると、いつの間にか不精髭でガタイのいい中年男性が立っていた。
「い、いらっしゃい、ませ!」
慌てて接客モードに切り換えるリアンに、男はガハハ、と豪快に笑った。
「そんなんじゃあ、客も不安になっちまうだろうよ」
「は、はあ……」
リアンは呆気に取られた。
いきなり何をしに来たのだ、この男は。
「おっと、すまないな。向かいでアクセサリや雑貨を売ってる者なんだが、子供の店番って余所じゃ珍しいモンだから、ちょっと覗いてみたんだ。気を悪くしたら謝るよ」
どうやら、リアンが眺めていたお店の店主らしい。
そうと分かると、リアンの中で強い対抗意識が芽生えた。
「……でしたら、干し肉を買って頂けますか?」
「お、言うねえ! そう来なくっちゃな。じゃあ、干し肉を十の四人分頂こうか」
十の四人分とは、四人分を十日分、という意味だ。このような呼び方になったのは、一般的に一人につき一つずつ肉用の革袋を持参しているからだ。
しかし、時には革袋を一日ごとに分けている場合もあるので、差し出された革袋の数から判断する必要がある。
例えば、十の四人分の場合、革袋が四つなら人数で分けていることになるし、革袋が十もあれば、日数で分けていることになる。
干し肉の一人当たりの一日分は店によって基準が異なるが、基本的には重さと一食分の枚数を三倍した枚数で判断され、それらは看板にしっかりと明記される決まりだ。
「一の一人分で銅四です。十の四人分なら、銀一、銅六十を頂きます」
リアンは直ぐに暗算をして応えた。
「おう。今払うよ」
その間にリアンは干し肉を革袋に詰め込み、客は懐に仕舞っていた頑丈な革の巾着袋から「銅百」に値する銀貨を二枚取り出し、リアンに渡した。
リアンは、「銅十」に値する大銅貨四枚を渡し、それから干し肉を詰め込んだ袋を客に返した。
「ありがとうございます」
「うむ。確かに頂いた。……しかし、偉いな。その歳で暗算もしっかりしている。一人で留守番なのか?」
男が褒めると、リアンは少々戸惑い気味に「はい」と頷いた。
「親御さんは?」
そう訊かれると、リアンは応答に迷った。
客は客として扱え。それ以上の会話をしてはならない──いつも、そう言い聞かされていたからだ。
「……おっと、余計な詮索は無しだったな。すまないことをした」
気さくな男も、困惑しているリアンの顔から事情を察し、謝った。
リアンは「いえ」と軽く首を振ってみせる。
この人なら、もう少し心を許してもいいのではないか、という誘惑があったのだが、仕事だから、と、何とか心の底に押し止めた。
「じゃあな。頑張れよ、坊主」
その背中を見送りながら、リアンは両親に教わった通りに深く頭を下げた。
夕方頃、いつもの肉の匂いを漂わせながら、大きな頭陀袋を担いだ両親が帰って来た。
「お帰りなさい、父さん、母さん」
リアンは店の片付けをしながら二人を迎えた。
「ただいま、リアン。ごめんね、遅くなっちゃって」
昼過ぎ、と言っていた母親は申し訳なさそうに言った。本来なら早めに帰り、リアンと共に店を畳む予定だったはずなのに。
リアンは曇りのない笑顔で母を安心させる。「いいよ。ぼくに出来ることだから」と。
「ありがとうね、リアン。今日はゆっくり休みましょう」
母親はそう言って、リアンの頭を優しく撫でた。
独特の肉の匂いがしたが、リアンにとってはそれが慣れ親しんだ母の匂いでもあった。
鼻をひくつかせると、スープの香りが空腹を思い出させる。
寒い寝床から出るのはとても辛いが、朝食のために急いで着替えを済ませ、外套を羽織り、革の長靴を履いて天幕から出た。
硬い赤土の感触にはすっかり慣れたはずだが、リアンにとっては、どちらかと言えば柔らかくて歩きやすい、砂の感触が恋しくなっていた。
「おはよう、リアン」
「おはよう、母さん」
地平線が白み、眩い太陽が昇り始めていた。
リアンは、いつもの癖で空を見上げ、五感を使って大気の様子を伺った。
「今日は……風が強くなりそうだね」
「荒れるかしら?」
「……そこまではいかないけど」
なら、出かけるなら早く済ませるに限る。
砂漠の強風はあらゆるものを台無しにする。
ということは、店も早めに閉めるところが出てくるだろう。
「リアン。朝御飯を食べたら、店番をお願いね」
「うん。母さんは?」
「お前の言うことを信じて、早めに買い出しを済ませるわ。お昼までにね」
そう言って、母親はカップに入れたスープをリアンに手渡した。
乾燥した野菜をブイヨンと共に戻したスープである。冷えきった体を温めるには最適だ。
柔らかい野菜をもぐもぐと溶かしながらスープと一緒に飲み込むと、喉、食道、そして胃の中へと温かい感触が伝わっていく。
「いい? リアン」
母親は、温かいスープで気分を良くしている息子に水を差した。
「ただでさえ平坦な味で競争率の高い食べ物屋なんだから、お客さんには愛想よくするのよ?」
「……努力はするよ」
リアンには、この愛想よく、という意味がよく分からなかった。
どうして、赤の他人にわざわざ頭を下げたり笑わなければいけないんだろう。
笑顔を見せて喜んで貰えるのは父さんと母さんだけのはずだ。
「お前がこうして食事をしていられるのは、父さんと母さんの笑顔のお陰でもあるのよ」
「え!? そうなの!?」
嘘は言っていないはずだ、と母親は自分に言い聞かせた。
多少、色を付けて話さなければ、この子は動こうとしないだろう。
「今は判らないでしょうけど、商売とはそういうものよ。……だから、食べたかったら笑顔で接客。いいわね?」
「……分かったよ。母さんがそう言うなら」
と言って笑顔を見せるリアン。
せめてこの表情が、自然に他人へと向けられるようになればいいのだが。
「じゃあ、行ってくるわね。昼までには戻るから」
「うん。気をつけて」
そこは、街というよりはバザーと言った方が正しいだろう。
砂漠からそう遠くない、ゴツゴツした赤土の上に建てられた定住用の家屋は二、三軒しかなく、その他は宿替わりの天幕と、通りになる場所にずらりと並ぶ、簡易設置の店だけだ。
店を営むためには、砂漠共通のルールで、事前に場所を借りる必要がある。そのためには、この場所を仕切る元締めと呼ばれている人物から「設営券」を購入し、カウンターのよく見える位置に提示しなければならない。
設営券は日ごとに色と番号が違う新しいものに交換され、隣町とその街において、一日前の分だけが販売される。無論、枚数には限りがあり、購入した段階でどこでも好きな場所を取れる、というわけだ。要するに、一番いい場所で商いをするためには、それだけ早く買いに来る必要があった。
大きな街であれば、早朝から並ばなければ券を買うことが出来ない。そういう街ほど、二日前の分まで売り出すこともある。
幸い、この日、リアン達が泊まっていた街は小さな街なので、並ぶこともなく店を出すことに成功していた。
リアンが店の設営と店番の仕方を本格的に覚え始めたのは、二年前のことだった。
店のカウンターとなるテーブルの出し方や組み立て方、商品の並べ方、そして値段の付け方と勘定まで見よう見まねで覚え、足りないところは父親に教わった。
初めはたどたどしかったが、今ではてきぱきとこなせるようになっている。お陰で、両親の手を煩わせることなく、一人で留守番までこなせるようになっていた。
この日、干し肉を買いに来た客は僅かで、リアンは両親の帰りを待ちながら罪悪感を抱いていた。
(母さんの言う通り、ぼくには愛想が足りないのかな……)
向かいの店に目を向けると、そこはアクセサリ店のようで、何故か食べ物屋であるリアンよりもよく売れているように思える。店番をしているのはリアンよりも若干年上らしい、日の光に輝く金髪を頭の左右に結わえた女の子だった。
リアンはさりげない視線で、少女の様子を観察してみた。
確かに、客が来れば笑顔で接客をしている。当初は買うか迷っていた客も、少女の巧みな交渉で買う気になったらしく、財布の紐はたやすく緩んでいった。
(それに、看板も大きくて派手な色を使っている。これなら、たくさんある店の中から立ち寄りたくなるのも無理はないか……)
食べ物屋だから、と安心していたのは大間違いだった。場所も最上級というわけではない。モノを売るためには売るための努力をしなければならないということに気付かされ、リアンは自分の慢心に深く落ち込んだ。
「どうした、坊主? 売れなくて落ち込んでるのか?」
はっとなって顔を上げると、いつの間にか不精髭でガタイのいい中年男性が立っていた。
「い、いらっしゃい、ませ!」
慌てて接客モードに切り換えるリアンに、男はガハハ、と豪快に笑った。
「そんなんじゃあ、客も不安になっちまうだろうよ」
「は、はあ……」
リアンは呆気に取られた。
いきなり何をしに来たのだ、この男は。
「おっと、すまないな。向かいでアクセサリや雑貨を売ってる者なんだが、子供の店番って余所じゃ珍しいモンだから、ちょっと覗いてみたんだ。気を悪くしたら謝るよ」
どうやら、リアンが眺めていたお店の店主らしい。
そうと分かると、リアンの中で強い対抗意識が芽生えた。
「……でしたら、干し肉を買って頂けますか?」
「お、言うねえ! そう来なくっちゃな。じゃあ、干し肉を十の四人分頂こうか」
十の四人分とは、四人分を十日分、という意味だ。このような呼び方になったのは、一般的に一人につき一つずつ肉用の革袋を持参しているからだ。
しかし、時には革袋を一日ごとに分けている場合もあるので、差し出された革袋の数から判断する必要がある。
例えば、十の四人分の場合、革袋が四つなら人数で分けていることになるし、革袋が十もあれば、日数で分けていることになる。
干し肉の一人当たりの一日分は店によって基準が異なるが、基本的には重さと一食分の枚数を三倍した枚数で判断され、それらは看板にしっかりと明記される決まりだ。
「一の一人分で銅四です。十の四人分なら、銀一、銅六十を頂きます」
リアンは直ぐに暗算をして応えた。
「おう。今払うよ」
その間にリアンは干し肉を革袋に詰め込み、客は懐に仕舞っていた頑丈な革の巾着袋から「銅百」に値する銀貨を二枚取り出し、リアンに渡した。
リアンは、「銅十」に値する大銅貨四枚を渡し、それから干し肉を詰め込んだ袋を客に返した。
「ありがとうございます」
「うむ。確かに頂いた。……しかし、偉いな。その歳で暗算もしっかりしている。一人で留守番なのか?」
男が褒めると、リアンは少々戸惑い気味に「はい」と頷いた。
「親御さんは?」
そう訊かれると、リアンは応答に迷った。
客は客として扱え。それ以上の会話をしてはならない──いつも、そう言い聞かされていたからだ。
「……おっと、余計な詮索は無しだったな。すまないことをした」
気さくな男も、困惑しているリアンの顔から事情を察し、謝った。
リアンは「いえ」と軽く首を振ってみせる。
この人なら、もう少し心を許してもいいのではないか、という誘惑があったのだが、仕事だから、と、何とか心の底に押し止めた。
「じゃあな。頑張れよ、坊主」
その背中を見送りながら、リアンは両親に教わった通りに深く頭を下げた。
夕方頃、いつもの肉の匂いを漂わせながら、大きな頭陀袋を担いだ両親が帰って来た。
「お帰りなさい、父さん、母さん」
リアンは店の片付けをしながら二人を迎えた。
「ただいま、リアン。ごめんね、遅くなっちゃって」
昼過ぎ、と言っていた母親は申し訳なさそうに言った。本来なら早めに帰り、リアンと共に店を畳む予定だったはずなのに。
リアンは曇りのない笑顔で母を安心させる。「いいよ。ぼくに出来ることだから」と。
「ありがとうね、リアン。今日はゆっくり休みましょう」
母親はそう言って、リアンの頭を優しく撫でた。
独特の肉の匂いがしたが、リアンにとってはそれが慣れ親しんだ母の匂いでもあった。
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