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第12話 勇者、職場見学を受け入れる
〜6〜
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事務所に戻ると、業務時間外なのにニーアが残っていて迎えてくれた。
俺がフェリシアと何を話したのかわかっているような様子だか、それについては何も言って来なかった。
ニーアは無責任にフェリシアを応援していた訳ではない。フェリシアが魔法剣士に向いていない事も、それでも目指していることもちゃんとわかっていた。
役所で一緒に働いていたから、フェリシアの事はニーアの方が分かっているのは当然だ。本当に余計な事をしてしまった。
「勇者様、フェリシアさんがくれたクッキー、あとちょっとなので食べませんか?」
コルダは、俺とニーアの分をちゃんと残しておいてくれたらしい。
キッチンでコーヒーを淹れているニーアを手伝おうとして、表情に少し影があるのに気付く。
俺が横に来たのに気付くと、ニーアは何かを隠すように慌てて明るい表情を作った。
「いいえ……ちょっと、あの、少し意地悪しちゃったかと思って」
ニーアはどこからか勇者のブロマイドを収めたファイルを出して、コーディックのページを眺める。
さっきフェリシアに渡していたのは、保存用だろうか。ファイルには、ちゃんとガタイの良い老人の写真が収められていた。
「コーディック様が、この事務所に来た事があるって教えてあげなくて良かったかなって……でも、知らない時に近くに来てたって教えられても、悔しいだけですよね。特に痕跡も残って無かったし……」
ネイピアスの出張から帰って来た後、ニーアはいつもより念入りに事務所を掃除していた。
例えば、髪の毛とかが落ちていたら、ニーアはどうするつもりだったのだろう。
ブロマイドを集めて喜んでいるのは勇者オタクの陽の部分で、更に深い陰の部分があるのかもしれない。
俺はそれを知ってもニーアと変わらずに付き合っていられる自信がない。
これ以上この話が続かないうちに、さりげなく話題を変えた。
「ニーアは、魔法剣士の学校に通ったのか?」
「はい。店の手伝いがあったので、家から通っていました。でも、オルドグの先にありますから、普通は寮に入るんじゃないでしょうか」
隣街オルドグの先だと、普通に歩いたら数時間はかかる距離だ。
ニーアの身軽さと魔獣に対峙した時の度胸は、危険な森の中を通学していたから身に付いたものだろう。
「この街で後輩が出来るなら、ニーアも頑張らないとですね」
ニーアが何かを決心するように言って、俺にコーヒーのカップを渡す。
そして、何故かそのまま俺の顔をじっと見ていた。
「勇者様、ニーアはここで働くの楽しいです。勇者様と働くことができて光栄です」
戸惑いながら紡がれたニーアの言葉に、俺は不審に思いつつ礼を言った。
今日は勇者の良い所をフェリシアに見せられなかったから、それを慰めるために表面上だけでも褒めてくれたのだろうか。
ニーアが勇者に高い理想を抱いているとしても、俺のいるこの事務所は、今日のように4人の業務が穏やかに続いていく。いつの間にか、俺はそう信じていたようだ。
しかし、その数日後、ニーアは事務所に来なかった。
俺がフェリシアと何を話したのかわかっているような様子だか、それについては何も言って来なかった。
ニーアは無責任にフェリシアを応援していた訳ではない。フェリシアが魔法剣士に向いていない事も、それでも目指していることもちゃんとわかっていた。
役所で一緒に働いていたから、フェリシアの事はニーアの方が分かっているのは当然だ。本当に余計な事をしてしまった。
「勇者様、フェリシアさんがくれたクッキー、あとちょっとなので食べませんか?」
コルダは、俺とニーアの分をちゃんと残しておいてくれたらしい。
キッチンでコーヒーを淹れているニーアを手伝おうとして、表情に少し影があるのに気付く。
俺が横に来たのに気付くと、ニーアは何かを隠すように慌てて明るい表情を作った。
「いいえ……ちょっと、あの、少し意地悪しちゃったかと思って」
ニーアはどこからか勇者のブロマイドを収めたファイルを出して、コーディックのページを眺める。
さっきフェリシアに渡していたのは、保存用だろうか。ファイルには、ちゃんとガタイの良い老人の写真が収められていた。
「コーディック様が、この事務所に来た事があるって教えてあげなくて良かったかなって……でも、知らない時に近くに来てたって教えられても、悔しいだけですよね。特に痕跡も残って無かったし……」
ネイピアスの出張から帰って来た後、ニーアはいつもより念入りに事務所を掃除していた。
例えば、髪の毛とかが落ちていたら、ニーアはどうするつもりだったのだろう。
ブロマイドを集めて喜んでいるのは勇者オタクの陽の部分で、更に深い陰の部分があるのかもしれない。
俺はそれを知ってもニーアと変わらずに付き合っていられる自信がない。
これ以上この話が続かないうちに、さりげなく話題を変えた。
「ニーアは、魔法剣士の学校に通ったのか?」
「はい。店の手伝いがあったので、家から通っていました。でも、オルドグの先にありますから、普通は寮に入るんじゃないでしょうか」
隣街オルドグの先だと、普通に歩いたら数時間はかかる距離だ。
ニーアの身軽さと魔獣に対峙した時の度胸は、危険な森の中を通学していたから身に付いたものだろう。
「この街で後輩が出来るなら、ニーアも頑張らないとですね」
ニーアが何かを決心するように言って、俺にコーヒーのカップを渡す。
そして、何故かそのまま俺の顔をじっと見ていた。
「勇者様、ニーアはここで働くの楽しいです。勇者様と働くことができて光栄です」
戸惑いながら紡がれたニーアの言葉に、俺は不審に思いつつ礼を言った。
今日は勇者の良い所をフェリシアに見せられなかったから、それを慰めるために表面上だけでも褒めてくれたのだろうか。
ニーアが勇者に高い理想を抱いているとしても、俺のいるこの事務所は、今日のように4人の業務が穏やかに続いていく。いつの間にか、俺はそう信じていたようだ。
しかし、その数日後、ニーアは事務所に来なかった。
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