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第一章

第26話 不思議なやり取り

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 私達の間で何とも言えない複雑なやり取りがなされる一方で、うんうんと、頷きながら満面の笑みを浮かべるお義父様。

 多分、私とヴィルドレット様が仲を深め合っている最中だと思っているのだろう。
 お義父様は穏やかな表情で口を開いた。

「ヴィルドレット。 妻を持つというのは、本当に良いものだぞ。 確かに、次期公爵としてお前には体裁を整えて欲しいという願いはある。しかし、それとは別に、お前に知って貰いたいのだ。結婚の素晴らしさをな。 私は、息子であるお前に幸せになって欲しいと、心から思っている。 ハンナ嬢と幸せなれ、ヴィルドレット。」

 ヴィルドレット様はその言葉に視線を下へ向け、考えた素振りをした。
 そして、しばらくして再び視線を上げたヴィルドレット様はお義父様の顔を見据え、口を開いた。

「……そこまで言うのなら、何故父上は再婚されないのですか? 今の物言いならば、父上は今、幸せでは無いというように聞こえましたが?」
 
 食い気味に問うヴィルドレット様。

 結婚=幸せと、ほぼ同義な物言いをする割りには、それを体現していないお義父様の矛盾をついたヴィルドレット様の反論に対してお義父様は余裕の表情で「ふん」と鼻で笑った後に口を開いた。

「まだまだ子供だな。ヴィルドレット。 俺は今も幸せなんだよ」

「母上ですか?」

「そうだ」

「死んだ母上の思い出だけで父上は幸せだと?」

「そうだ。俺の中で、あいつは永遠だ。目を閉じればいつもあいつが、エリーが微笑んでくれる。それだけで俺は幸せだ」

「嘘ですね」

 またしても食い気味に言うヴィルドレット様。

「そこに実在しない者を想い続ける事は辛いはずです。昔の思い出に縋り付く事しか出来ず、その者をひたすらに想い続け、幾ら前へ進もうとしても頭の中のその者が許してくれない。それはとても辛い事のはずです」

 まるでヴィルドレット様自身がそうであるかのような言葉に、お義父様と私は呆気にとられる。しかし、お義父様はすぐさま表情を先程の余裕ある笑みに戻して口を開いた。

「確かにな。お前の言う通りな事も無くもない。でも、またいつか逢えるような気がしてな。 どうだ?お前は、そうは思わないか?」
 
 一体この2人は何を言っているのだろか? 私には分からない。

 ただ、2人の顔はまるで同じ境遇にいる盟友を見るかのような楽しそうな微笑みを浮かべ合っている。

 2人がそんなわけの分からない話に花を咲かせてる間に、料理は出揃っている。とっくの昔に。

 ねぇ~。そんな話はもういいから、早く食べようよ~。
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