あっさりと初恋が破れた俺、神からのギフトで倒して殺して奪う

忘れてた

「これぐらい焼けば良い？」

「あぁ、それぐらいで十分だと思う」

「よし」

丁度良いサイズにツインヘッドベアーの肉をカットし、ティールは本当にボス戦前に肉を焼き始めた。

（あのガキ……本当に肉を焼き始めた）

（もしかして、半日以上食べてなかった？　でも、ボス戦前にあんなに……）

（あの子たち、ボス部屋にいるのが二体のBランクモンスター、もしくはAランクモンスターだという事を知らないの？）

干し肉などの保存食を食べるのであれば、まだ解る。
だが、ティールたちはボス戦前に堂々と肉を焼き始めた。

確かにティールたちの前には二組の冒険者パーティーがいる。

ボス部屋で戦うモンスターがマウンテンベアと天猿、もしくはジェットがルーダであるにしろ、戦闘時間が非常に長くなる。
それぞれの切り札をぶっ放して倒せるのであれば苦労はないが、BランクやAランクモンスターはそう簡単に倒せる相手ではない。

故に、多くのパーティーは堅実に倒そうと、普段よりも長い時間を使って戦うことを想定している。
なので、ティールたちが肉を焼き終わり、食べる時間は確かにある。
あるのだが……普通は、あまりそこまでがっつりした物を食べない。

（いや……冒険者を何年もやってるのに、頭が固くなってたみたいだね）

そんな中、一人の爽やか冒険者が思考を切り替え、心を落ち着かせた。

（そういえば、黒髪の女性に関しては知らないが、ティール君とラスト君はあの歳でBランクまで上り詰めているんだ。普通ではない……だからこそ、あれも彼らにとっておかしい行動ではないのだろう）

冒険者としてそれなりに長く活動し、多くの冒険をして続ければ……世の中、常識では測れない存在が割といるということに気付く。

爽やか冒険者はそんな今までの経験を思い出し、見事心を落ち着かせることに成功。
パーティーメンバーたちにもそれを伝えることで、全体的に落ち着きを取り戻した。

「良い感じに焼けたかな」

一切れだけつまみ、熱々の焼肉を食べるティール。

「っ！　あっつ！　…………ふぅーーーーーー。うん、いけるね」

熱かったのか、直ぐに水を飲んで流し込むも、味や火の通りは全く問題無かった。

「いよいよだな……マスターとしては、どちらが良い？」

「ん？　…………まぁ、とりあえずマウンテンベアと天猿かな」

これからの冒険に備え、思いっきりAランクモンスターと戦ってみたいという気持ちはある。

しかし、ティールはあの件を忘れてなかった。

「そうか。やはり、まずはそちらと戦っておきたいか」

「だね。だってさ……アキラさん、まだ何だかんだでディレッドビートルの角を使って、新しい刀を造ってないですよね」

「…………そうだったな」

ダンジョン都市、ジラーニに到着する前の街で、ティールたちはBランクモンスターであるディレッドビートルと遭遇。

討伐し終えた後、戦利品の角はアキラの為に造る新しい刀の素材にしようと決定した。

アキラもなんだかんだで、二人からの好意を受け取ることにした。
ただ……ジラーニに到着し、初めてダンジョンに潜り始めたアキラは……ダンジョン探索が楽し過ぎたこともあり、すっかり新しい刀を鍛冶師に造ってもらうことを忘れていた。

現在アキラが使用している刀も十分素晴らしい刀ではあるが、Aランクモンスターという怪物と戦うことになれば……やや物足りないところはある。

「造ったら造ったらで、その刀に慣れる時間も必要ですからね」

「ふふ、そうだな。本当にティールの言う通りだよ」

同じ刀でも、物によって使い心地が異なる。

だからこそ、本番ぶっつけで使うのではなく、普通の階層に出現するモンスターを相手にある程度試運転しておかなければならない。

「勿論運もあるだろうけど、ジェットがルーダに挑むのはその後じゃないと」

いずれはAランクモンスターであるジェットガルーダに挑む。

そんな強気な発言を、ティールは隠すことなく堂々と口にした。