転移したらダンジョンの下層だった

Gai

文字の大きさ
594 / 1,259

五百七十三話 今回は一人で挑みたい。

しおりを挟む
ソロでも余裕で階層を降りて行き、たった三日で中級者向けのダンジョン、最下層に辿り着いたミレアナ。

途中ですれ違った冒険者や、セーフティーポイントでミレアナと遭遇した者たちソロで行動してることに驚くが、ミレアナがたった三日でニ十階層から三十階層のボス部屋まで辿り着いたことは誰も知らない。

「私の番までだいたい一時間ぐらいですね」

ミレアナの前に三組のパーティーが並んでいた。
目の前の冒険者たちが複数のトレントとエルダートレントに勝てるかは分からないが、おおよそそれぐらい掛かると計算した。

お腹は少々空いてきたが、時間的にボスを倒し終えてから食べた方が良いと思い、自分の番が回ってくるまでポーションを造ろうと決めた。

「な、なぁ。あんた一人でここまで降りてきたのか?」

「えぇ、そうですが……それがどうかしましたか」

ミレアナが薬草や水を用意するよりも先に一つ前の冒険者パーティーのうちの、一人が声を掛けてきた。

「それならさ、俺らと一緒にボスに挑まないか? さすがに一人でボスに挑むのは危険だろ」

男が声を掛けた内容を聞き、その前に待機している二つのパーティーメンバーは先手を取られたと思い、悔しそうな表情を浮かべた。

三十層には複数のトレントとエルダートレントが待ち構えている。
ミレアナがソロでここまで降りてきたという件を考えれば、目の前の女性ハイ・エルフが相当な実力者だということが解る。

ただ、一人でボスに挑むのは危険だ。
その認識は変わらず、ボス戦の間だけでも自分たちのパーティーに引き込めないかと考えていた。

「だからさ、よかったら俺たち一緒にボスに挑まないか」

「……そういうことですか。あなたの言葉に少なからず純粋な好意はあるのでしょうが、遠慮させていただきます」

「な、なんでだい? 君がここまで一人で降りてきたというのは認めるし、実力が相当戦いのも解る。でも、いくらなんでもここのボスに一人で挑むのは危険過ぎる!!」

そもそもどんなダンジョンのボス部屋であっても、一人で挑むのは大変危険なのだ。
そして目の前のボス部屋に潜むモンスターたちは遠距離攻撃に長けた存在。

一人で挑めば、待っているのは死。
仮に帰還石を持っていたとしても、勝てないのは明白なので買うとかなり高い帰還石を無駄に消費してしまうだけ。

そういった意味も込めて、ボスに一人で挑むのは危険だと伝える。
下心が全くないわけではない。
だが、善意でボスに挑むのは危険だ、自分たちと一緒に挑んだ方が良いと思っている。

「結構です。三十階層のボスは既にクリアしているので、あなたたちの力を借りる必要はありません」

仮に同業者と一緒に組んで挑めば、モンスターの素材や手に入れた宝箱は配分されてしまう。
どう考えてもソロで倒せる敵を相手に、徒党を組む必要はない。

全く他のパーティーと一時的に組みたくないと思っているのではなく、単純に今回の探索は一人でボス戦に挑みたいと思っているのだ。

「なっ……いや、それでも危険なことに変わりない! これは君のことを考えて言ってるんだ!!!」

「はぁーーーー、私のことを考えてくれているのでしたら、関わらないでください。これから一人でボスに挑むのは私の中で決定事項なのです。冒険者は冒険中に何が起こっても自己責任、そうでしょう」

「ぐっ!!! …………分かったよ。ボス戦に誘うのは諦める。けど、その選択を後悔しないことだね」

なるべくカッコよくミレアナの元から去ったつもりの男性冒険者。
だが、ミレアナとしてはようやく邪魔者が消え去ったと感じていた。

(さて、私の番になるまで集中して造りましょう)

ポーションを造る準備を終え、せっせとポーション造りに勤しむ。
そんなミレアナを不思議そうな目で見る者が多くいた。

冒険者なのにポーションを造る。
それが出来る者は、たしかにいる。
珍しいが……絶滅危惧種の様な存在ではない。

だが、ミレアナが生み出すポーションを見る限り、ランク一の様な素人が造る駄作には見えない。
冒険者であるのに、素人臭さが抜けたポーションをダンジョンのボス部屋まで作る美人なエルフ。

いったい目の前の女はどんな存在なのか、同業者たちの謎は深まるばかりであった。
しおりを挟む
感想 253

あなたにおすすめの小説

異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』

アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた 【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。 カクヨム版の 分割投稿となりますので 一話が長かったり短かったりしています。

無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった! 「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」 主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!

【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ

一終一(にのまえしゅういち)
ファンタジー
俺こと“有塚しろ”が転移した先は巨大モンスターのうろつく異世界だった。それだけならエサになって終わりだったが、なぜか身に付けていた魔法“ワンオペ”によりポンコツ鎧兵を何体も召喚して命からがら生き延びていた。 百体まで増えた鎧兵を使って騎士団を結成し、モンスター狩りが安定してきた頃、大樹の上に人間の住むマルクト王国を発見する。女王に入国を許されたのだが何を血迷ったか“聖騎士団”の称号を与えられて、いきなり国の重職に就くことになってしまった。 平和に暮らしたい俺は騎士団が実は自分一人だということを隠し、国民の信頼を得るため一人百役で鎧兵を演じていく。 そして事あるごとに俺は心の中で呟くんだ。 『すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ』ってね。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

【めっさ】天使拾った【可愛ぃなう】

一樹
ファンタジー
酔っ払いが聖女を拾って送迎する話です。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

処理中です...