転移したらダンジョンの下層だった

Gai

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八百二話 肝が冷えた

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ソウスケ本体が放ったレヴァルグの投擲も非常に凶悪だが、その他の遠距離攻撃も無視できる威力ではない。

そしてどの攻撃も、完全に防ぐことは困難を極める。
レヴァルグの投擲に関しては、部隊のタンクが全力を尽くしても受け止められるものではない。

故に、弾くという選択が最適解。
リーダーの男が下した判断は、決して間違ってはいなかった。

弾くという行為に全力を費やせば、殆どの攻撃をズラすことには成功。
手足に痺れ、魔力を一気に消費した疲れは感じれど、咄嗟の行動にしては上出来……ではあったが、唯一レヴァルグの投擲だけは弾けなかった。

(何という轟炎、何という貫通力なのだ!!!!)

リーダーの男はギリギリ轟炎にさらされることはなかったが、合計で二名の仲間が名槍によって胴体に大きな風穴を開けられた。

片方は回復系のマジックアイテムを身に付けていたが、発動して全快するまでに息絶えてしまった。

「散!!!」

それが合図となり、生き残った者たちは一斉に散った。

固まって動くば、格好の餌食となる。
そうなれば新しい情報を伝えられることも出来ず、無駄死にしてしまう。

この判断に関しても、咄嗟の答えにしては最良と言えた。

ただ……その動きをソウスケ本体とミレアナ、ザハークは完全に読んでいた。
他の者たちも直ぐに自分たちの相手をすべき獲物を把握し、追跡。

気力に大きな差があり……全滅するのは時間の問題だった。

「ね、ねぇ。生かしてくれるな、らぁ……」

「…………」

ソウスケ本体は女性冒険者の言葉を聞き終える前に、止めを刺した。

何を言おうとしていたのか、容易に想像出来てしまう。
本当の命乞いだったかもしれない。油断させて一矢報いるつもりだったかもしれない。

殺した女性の真意は定かではないが、最後まで聞いてしまい……仮に特例を作ってしまえば、どこかで心の緩みが仇となり、命を落とす可能性が十分にある。

それを理解しているからこそ、最後まで言葉を聞かずに止めを刺した。

「ソウスケさん。先程の部隊の全滅が終わりました」

「……そう、みたいだな」

同じ部隊の仲間たちが全員も戻ってきた。

これからも一緒に戦い続ける仲間たちが、無事に戻ってきた。
それだけで沈みかけていたソウスケの心に、ほんの少し暖かさが宿った。

「少し、休息にしよう」

戦場の整理を終え、ソウスケたちは地面に腰を下ろし、体力の回復に努めた。

「ソウスケのあの槍が跳ね返された時は、本気で焦ったぜ」

「ふふ。俺もあれはさすがに肝が冷えました」

投擲して、相手に命中させた後、即座に手元に戻す。
そこまで行動を決めていなければ、確実に致命傷を負っていた。

蛇腹剣を身に付けていれば話は別だが、戦争を優位に進めるために、今この場にはない。

(いや、本当にあれは死の危機を感じた。多分、あれはマジックアイテムだよな……同じマジックアイテムに分類されるとはいえ、跳ね返せるものなのか?)

現実問題として、それが目の前で実行されたとはいえ、未だに信じ難い光景。

とはいえ、その信じ難い光景を受け入れなければ、前に進めないというもの。
ソウスケ本体は自身と同じく九ランクの切り札を有する、ソウスケ分身に今回のことを念じて伝えた。

分身によって生み出した存在ということもあり、そういった情報交換も可能。

水龍の蒼剣によって放たれる斬撃、刺突はレヴァルグの投擲と同等の威力を持つ必殺の一撃。
ソウスケ分身は蛇腹剣というもう一つの切り札を身に付けてはいるが、攻撃を跳ね返されれば、確実に動きが鈍る……もしくは、数秒か十秒程度ではあるものの行動、不能となる可能性がある。

「あの光景には、私も驚かされました」

「……投げて当たれば、即帰還という流れをもっと意識しておいた方が良いな」

一度跳ね返されたからといって、もう二度と使わないわけがない。
確かに肝が冷え、命の危機を感じた。
だからといって、強力な切り札であることに変わりはない。

それに……先程使われたマジックアイテムは、高位の冒険者といえど簡単に手に入れられるマジックアイテムではなかった。
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