転移したらダンジョンの下層だった

Gai

文字の大きさ
1,008 / 1,259

千四十九話 削ってはいけない

しおりを挟む
「よろしくお願いします!!!」

ヌレールアの元気の良い挨拶から、翌朝もスタート。
昼過ぎまでは先日と同じ様に街の外に出てモンスターの相手をし、早めに屋敷へ戻ってから、復習開始。

「ヌレールア様、全力の一撃を叩き込むことは大事ですが、そこで動きが止まってしまうのは良くありません」

「はぁ、はぁ」

「難しいことを言ってるとは思いますが、常に頭の片隅に置いておいてください」

「は、はい!!! もう一回、お願いします!!!」

大剣、大斧といった武器の性質上、やはり一番の強味は一撃で勝負を終わらせられる可能性がある部分。

モンスターの中にはトレントの様な再生といった厄介な力を持つ個体もいるが、そんなトレントであっても、体を両断……もしくは魔石をバッサリと斬られてしまえば、息絶えてしまう。

だが、その分どうしても振りが大きくなってしまい、次の動作が見破られてしまうことがある。

(本当に厳しいことを言ってる自覚はあるけど、頭の片隅にあるだけで意識は変わってくる……筈。それに、いずれそれが出来るようになったら、絶対にヌレールア様の力になる)

本気で誰かを指導することは初めてなこともあり、どうしても絶対とは言い切れないソウスケ。

それでも、大剣や大斧に関してはザハークの考えも取り入れている為、それなりに自信を持って指導できる。


「少し休憩しましょう」

「は、はい」

もう一回!! と言いたいところだが、脚が小鹿の様にプルプルと震えていれば、さすがに疲れてからが本番!! という考えも意味をなさない。

「はぁ、はぁ……は、反省点を直すって、本当に、難しいですね」

「少し意識すれば出来るものから、それが長い課題になる場合もありますからね。それでも、個人的には既にそこが反省点だと気付けた時点で、成長してる証だと思います」

「っ……はい」

解らなくはない、でも心の底から納得は出来てない。
とても解り易い表情を浮かべるヌレールアに、ソウスケは苦笑いを浮かべながら、納得出来る様に言葉を掛ける。

「ヌレールア様、焦る気持ちが生まれるのは理解出来ます。でも、だからといってこの先……私たちが去った後、訓練時間を増やそうとして食事を取る時間や睡眠時間……休息する時間を減らしては駄目ですよ」

「うっ……も、勿論、解ってます」

まだ、まだ他の時間を削ってもっと訓練時間を増やそう、とは思っていなかった。

ただ……本当に自分は目指す場所に向かえてるのかと、小さな焦りがヌレールアの中にあり、容易にソウスケが駄目だと口にした通りの未来が想像出来てしまった。

「本当ですか?」

「……正直、もっと頑張らないとって、焦りはありました」

「素直に答えてくれてありがとうございます……あまり、まだ数年間もある。そう考えるのは良くないとは思います。でも、まだ数年……焦るには早い時期でもあり、私たちの目から見てもヌレールア様は確実に成長出来てます」

まだ時間はあるという考えは、怠惰に繋がってしまう可能性がある。

ただ、時間に限りがあるという現状が、焦りに繋がってしまう可能性があるのもまた事実。

「とはいえ、これから壁に当たってしまう期間と言うのがあると思います。それでも、焦り過ぎて自身の体を、休める機会を削ってしまわないように」

「こ、心も、ですか」

「えぇ、そうです。心もです。ヌレールア様の原動力は、目標に向かって自分を変えようと、変わろうとする心です。そこに乱れが生じれば……それは実戦にも表れ、護衛の騎士がいたとしても、万が一が起こる可能性に繋がります」

何故、まだヌレールアと歳が変わらないソウスケの口から、ここまで自分がそうかもしれない、と思える言葉が出てくるのか解らない。

人によっては、人生経験の浅さから、その助言が薄く感じるかもしれない。

しかし……ヌレールアにとっては、人生を変える切っ掛けとな人物の言葉。
故に、その助言を疑う様な気持ちは、一切なかった。
しおりを挟む
感想 253

あなたにおすすめの小説

異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』

アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた 【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。 カクヨム版の 分割投稿となりますので 一話が長かったり短かったりしています。

虹色のプレゼントボックス

紀道侑
ファンタジー
安田君26歳が自宅でカップ麺を食ってたら部屋ごと異世界に飛ばされるお話です。 安田君はおかしな思考回路の持ち主でわけのわからないことばっかりやります。 わけのわからない彼は異世界に転移してからわけのわからないチート能力を獲得します。 余計わけのわからない人物に進化します。 作中で起きた事件の真相に迫るのが早いです。 本当に尋常じゃないほど早いです。 残念ながらハーレムは無いです。 全年齢対象で男女問わず気軽に読めるゆるいゆる~いストーリーになっていると思いますので、お気軽にお読みください。 未公開含めて30話分くらいあったのですが、全部行間がおかしくなっていたので、再アップしています。 行間おかしくなっていることに朝の4時に気づいて右往左往して泣く泣く作品を削除しました。 なかなかに最悪な気分になりました。 お気に入りしてくださった方、申し訳ありません。 というかしょっちゅう二行も三行も行間が空いてる小説をよくお気に入りしてくださいましたね。 お気に入りしてくださった方々には幸せになってほしいです。

無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった! 「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」 主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!

【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ

一終一(にのまえしゅういち)
ファンタジー
俺こと“有塚しろ”が転移した先は巨大モンスターのうろつく異世界だった。それだけならエサになって終わりだったが、なぜか身に付けていた魔法“ワンオペ”によりポンコツ鎧兵を何体も召喚して命からがら生き延びていた。 百体まで増えた鎧兵を使って騎士団を結成し、モンスター狩りが安定してきた頃、大樹の上に人間の住むマルクト王国を発見する。女王に入国を許されたのだが何を血迷ったか“聖騎士団”の称号を与えられて、いきなり国の重職に就くことになってしまった。 平和に暮らしたい俺は騎士団が実は自分一人だということを隠し、国民の信頼を得るため一人百役で鎧兵を演じていく。 そして事あるごとに俺は心の中で呟くんだ。 『すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ』ってね。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

処理中です...