転移したらダンジョンの下層だった

千百十二話 逃げたら、針の筵？

「見ろ、ミレアナ。岩竜がザハークのあまりにも常識外れな行動を見て、固まってしまったぞ」

「ですね……なんとも、珍しい光景かと」

ドラゴンという生物ピラミッドの頂点に立つ存在が、あまりの驚きに固まってしまう。

しかもワイバーンやリザードの様な亜竜ではなく、本物の竜……Bランクドラゴンである岩竜が固まってしまった。
あまりにも珍しい光景に、ソウスケとミレアナは乾いた笑いを零す。

「どうした！！！！　まだ戦いは終ってないぞ！！！！」

「っ！！？？　ッ……ゴォオオオアアアアアアアッ！！！！！！！」

ザハークは相変わらずテンション爆上げな状態で空気を思い切り殴り、岩竜に衝撃波を飛ばした。

その一撃で岩竜も目が覚め、ザハークの行動に対してまだ驚きは消えていないが……それでも再びザハークを潰そうと動き出す。

「ザハークのあんな行動を見ても退かないか……流石、ドラゴニックバレーに居るドラゴンだね」

「そうですね……あの雷竜であればともかく、毒竜であれば直ぐに背を見せてでも逃げたでしょう」

知能が高ければ高くなるほど、一定の行動で……やり取りだけで、相手と自分の力量を見破れるようになる。

だからこそ、モンスターであっても合理的に逃走という選択肢を取るケースはある。
だが……岩竜は自身のブレスを訳解らない方法で耐えられても、驚き固まるが、逃げようとはしなかった。

「……俺と戦った火竜も逃げなかったし、ザハークがさっき直ぐに倒したワイバーンも逃げなかったな……基本的に、ここで生息してるモンスターは逃げようとしないのかもな」

「かもしれません……ですが、そうなるとドラゴニックバレーから離れるドラゴンがいる事に関して、説明出来ません」

「あっ、それもそうか。ん～～～～……なんでだろうな」

「…………人間に負けたか否か。もしかしたらですが、そこが別れ目になるのかもしれません」

ドラゴンは人間を見下している……と、確定してはいない。
ただ、対峙した冒険者や騎士たちの中には、そういった感情を向けられたと感じる者もいる。

「人間に負けたら……つまり、逃走という選択肢を選んでしまったら、ここから離れてしまうのかな」

「っ、なるほど。確かにここに生息しているドラゴンたちにとって、人間に負けるイコール死ですからね」

場合によっては、他のモンスターに横取りされてしまう可能性もある。

だが、基本的に討伐直前まで追い込むことが出来れば、そのまま討伐成功となる可能性の方が高い。

「ドラゴンっていう基本スペックがとんでもなく高いモンスターであっても、命を惜しいと感じることもあるか……っていうか、よくよく考えるとそれが普通だよな」

「……このドラゴニックバレーという場所では、人間との戦いから逃げてはならない……それが、暗黙のルールなのかもしれませんね」

暗黙のルール。

それがあるからこそ、逃走を経験した者は出ていかなければならないのかもしれない。

（それなら、仕方なく出ていかないとならない理由も解る……かもしれない）

バカげたルールだと思う者が大半。

しかし、人間の感覚とモンスターの感覚は異なる。
それを考えれば、寧ろ自然界ではそれが常識である可能性もあり得る。

「本当にそんな暗黙のルールがあるなら、尚更ここでドラゴンと対峙した冒険者たちは、絶対に仕留めないとってなるね」

ソウスケは自身や仲間の強さ、異常さを理解しているからこそ、あと一歩まで追い詰めたのなら、仕留めて当然だろ……とは思わなかった。

（多分……ちょくちょく、観てる個体がいるよな？）

基本的に、ザハークとBランク以上のモンスターが激突すれば、巻き込まれない様にと結果など気にせず逃げる。

だが、ドラゴニックバレーではやや異なっていた。

「とりあえず、目の前の戦いに関しては問題ないでしょう」

「……それはそうだね」

岩竜が長くはないが、消して短くもない堅い堅い尾を横薙ぎにするも、ザハークは吹き飛ばされることなく堪え、ガッチリと掴んだ。