転移したらダンジョンの下層だった

千百十五話 最高の機会

「あれは…………」

「ミレアナ、あれはまさか」

「えぇ……そのようですね」

ソウスケ対二体の風竜の戦闘場所から少々離れた位置で、リーダーの戦いを眺めながら周囲の警戒を行っていたミレアナとザハーク。

そんな二人は、視界の奥でリーダーと戦っている風竜の様子に、小さくない衝撃を受けていた。

「？　ミレアナさん、ザハークさん。どうかしましたか」

「……その気があるなら、一旦解体の手を止めてあそこを見てみろ」

いったい何があるのかと、ノックスは仲間に断りを入れ、ザハークに言われた通り……ある場所を見た。

「あれ、は………………」

ひとまず、ノックスはこう思った。
現在ザハークと戦っている二体の風竜は、自分たちが討伐した風竜よりも強いと。

（速い……僕たちが戦っていた風流より、間違いない一段上の速さだ。それに…………凶暴さ？　が非常に強い……っ！！！！？？？？　ま、まさか！！！！）

先程まで自分たちが戦っていた同属性のドラゴンと比べることで、ノックスは何故ザハークが解体の手を止めてでも見た方が良いと伝えてくれたのか理解した。

「ザハークさん、ミレアナさん。あの二体の風竜は……逆鱗状態、なんですか」

「「「「「「っ！！！！？？？？」」」」」」

ノックスの言葉に、解体作業を行っていた六人も驚きの表情を隠せず、無意識に手を止めてしまった。

「素材は一度アイテムバッグに入れておくので、大丈夫ですよ」

ミレアナがそう言うと、グラディウスを振るうソウスケ対逆鱗状態の二体の風竜との戦いに集中。

「「ガァアアアア゛ア゛ア゛ッ！！！！！！！」」

二体の腹の底から……心の奥底から放たれる雄叫びは、少々離れた場所にいるネイトたちの耳にも完全に届いていた。

（こんなに距離が離れているのに、こうもハッキリと……それに、同じ雄叫びでも、どこかが違う）

（これが、逆鱗状態のドラゴンが放つ雄叫び…………っ！！！！　少し……得た自信を、こうも簡単に砕かれるとは）

ハリアルたちは七人でとはいえ、火竜を……風竜を討伐したことで、多少なりとも自信が付いていた。

それもその筈であり、まだ途中の目標とはいえ、Bランクのドラゴンを討伐したのである。
寧ろ、自信が付かないという方がおかしいというもの。

ただ、逆鱗状態となった風竜の速さ、凶悪さを見て……本日身に付いた自信が、あっさりと破壊されてしまった。

どれだけ頭の中でイメージを浮かべても、どれだけ虚を突いて、風竜の裏を突いて攻めようとしても、先程の戦いの様に勝てるイメージが湧かない。

「皆さんは良かったですね。先にあの戦いを観ることが出来て」

「っ……えぇ、そうですね」

ミレアナの言葉に、ハリアルたちはハッとさせられ、心を立て直した。

逆鱗状態になったBランクの風竜には、今の自分たちでは勝てない。
それはハリアルだけではなく、他六人を含めた共通認識である。

しかし、現在その状態となった風竜と戦っているのは、自分たちではなくソウスケ。

彼は自分たちが知っている通り、普通ではない。
逆鱗状態となった風竜を相手に一人で戦っており、全く押されていない。
それどころか、やや有利な状態で戦闘を続けている。

そんなソウスケの様に戦うのは、どう頑張ってもこれから数年程度の努力では出来ないので参考にならないが、逆鱗風竜がどういった攻め方をするのか……二体で一体の標的を攻める時はどういった攻め方をするかなど、学べることがいくらでもある。

（そうだ、ミレアナさん言う通り、最高の機会だ）

（受け止める……のは無理だな。今より強くなっても、弾き飛ばす方が防ぎやすいだろうな）

（あのスピードの風竜に当てるには、私ももっと速く動けるようにならないといけませんわね。それと、鏃を特注した矢も使いませんと）

各々が今の自分なら、もしくは成長した自分ならどう対応するかを必死で考える中……ソウスケの雷を纏ったグラディウスが、逆鱗風竜の喉を搔っ捌いた。