転移したらダンジョンの下層だった

千百四十八話 抗体

「っ！！！！　戦るよ」

「おぅよッ！！！！！」

水竜のブレスにノックスたちはなんとか反応。
これまで通り、七人でBランクドラゴンを討伐しようと動く……ただ、その後姿を見るソウスケたちは、やけに気合が入ってる様に見えた。

「……なんか、全員……普段以上に、気合が入ってる？」

ソウスケの記憶では、ジャバたちは確かに水竜戦が得意ではないものの、特別苦戦していたという記憶はなく、苦い思い出があるからこそのリベンジ……とは思えない。

「そうだな……まぁ、気合が空回りするようなことはないのではないか」

ザハークから見ても、今回水竜挑もうとするノックスたちの姿は、かなり気合が入っている様に感じた。

「…………全員、直ぐに先程の話をしたいのかもしれませんね」

「先程の話って……もしかして、ドラゴニックバレーが一つの生物に近いんじゃないかって話か？」

「えぇ、その話です」

突拍子もない話をしたという自覚はある。
だからこそ、そこまでナディーたちが興味を持ってくれるとは思っていなかった。

「……そんなに面白い話だったか？」

「そうですね……面白く、興味深い話だと私は思います」

将来的に学者などの方面に向かいたいと思っているわけではない。

それでも考えることが嫌いではないミレアナにとって、ソウスケが口にした突拍子もない考えは、非常に興味深い内容の話だった。

「それは嬉しい、かな。でも、本当にこう……根拠のない話だよ」

「そうかもしれません。しかし、ソウスケさんの話を聞き、私は一つ納得のいった内容があります」

「へぇ～～～。いったいどんな内容？」

「この地に住むドラゴンが人間との戦いから逃げた際、ドラゴニックバレーから出て行かなければならないという暗黙のルールです」

ドラゴンという生物ピラミッドの頂点に立つからこそ、そのプライドから生まれた暗黙のルール……というのが、一般的な認識とされている。

ミレアナも、それはそれで納得のいく内容だと思ってはいる。
ただ、ソウスケの話を聞くと……より深く納得出来た。

「ドラゴニックバレーという生命体にとって、冒険者や騎士たちは病原体という認識であれば、ドラゴニックバレーに住むドラゴンは……抗体、耐性？　などの要素を持つ存在なのかもしれません」

「あぁ～～～…………つまり、病原体から逃げた抗体は必要ないから、排除されたってことか」

「えぇ。とはいえ、ヴァレードタイガーの様な個体もいますので、残った存在は結果として必ず強い存在になるのかもしれませんが」

ミレアナの考えを聞き、ソウスケは増々ドラゴニックバレーが一つの生命体に近いのではないかという思いが強まる。

（そう考えると、確かに俺とかザハークはここ最近現れて、多くのBランクドラゴンを討伐してたけど、そもそもドラゴニックバレーにはそれなりの数の人たちが入って、同じくドラゴンを討伐してたんだから、積もり積もったのが爆発した感じ……かもしれない）

妥当な考えではあるものの、若干責任逃れしたい気持ちがない訳ではないソウスケだった。

「……では、あれか。ドラゴンたちにとって、この地は子を増やしやすく、過ごしやすい環境になっているのか？」

「かもしれないね。過ごしやすい環境なら、わざわざこの地から出ていく必要が無くなる訳だし」

「ふむ…………そう考えると、面白い場所ではある、のか？」

「ふふ、そうだね。他にはない、面白い場所だと思うよ」

解ったからといって、解明出来たからといって何かが得られる訳ではないが、冒険者として……謎を解明する気分は、決して悪いものではなかった。

「はぁ、はぁ……よし！！！」

そしてノックスたちはと言うと、早くソウスケたちとその話をしたかったからか、いつも以上に溢れていた気合がから回ることはなく、Bランクドラゴンと戦い始めてから、一番早く討伐することに成功するのだった。