転移したらダンジョンの下層だった

Gai

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千百六十九話 挑戦

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「ちょっと待ちなさい、ザハーク。もしや……私にも、Aランクのドラゴンを倒せと、言ってるのかしら」

「倒せというか、ミレアナであれば可能だろう」

これまた、曇りのない眼、表情で語るザハーク。
そんな仲間の表情を見て、ミレアナは大きな大きなため息を零し……ソウスケはソウスケで苦笑いを零すのだった。

「…………私を高く評価してくれるのは嬉しいですが、純粋な戦闘力に関しても、お二人の方が間違いなく上なのですよ」

これもまた事実であり、ソウスケも……ザハークも否定はしなかった。

ただ、ザハークからすればそれとこれは別だった。

「それはそうだと思うが、それでもミレアナであれば無理ではないだろう」

「……私は、基本的に後衛なのですよ」

ミレアナは弓、魔法を使って後ろから仲間を援護する後衛タイプ。
ドラゴンと一対一で戦おうとすれば、基本的に接近戦タイプでなければまともに渡り合えない。

接近戦が出来ないわけではないミレアナだが、それでも通じるのはBランクのドラゴンたちまで。
Aランクのドラゴンに対しては、それを主軸にして戦えるとは思っていない。

「そうだが、ミレアナはソウスケさんと同じく動きながら多くの遠距離攻撃を放てるだろう。素早さであれば俺が負けてもおかしくない。加えて、高火力の一撃は放てるはずだ」

「………………」

間違ってはいない。
ザハークが語る内容は的を得ているが、ミレアナの自己評価では……Aランクのドラゴンと渡り合える程のラインまで達していなかった。

「それに、自身の力だけでは足りなければ、アイテムを使えば。冒険者としては、寧ろそれが当たり前なのだろう」

実際にソウスケは水龍との戦いで複数のマジックアイテムを装備して戦っていた。

ザハークの言う通り、冒険者がマジックアイテムを身に付けて戦うのは、高ランクの冒険者であれば寧ろ当たり前のこと。

「それならば、問題無いと思うが」

「…………」

「正直、俺もそこまでガチガチに固めて戦うなら、問題無く倒せると思うよ」

「そ、ソウスケさんまで」

「もっと自信を持って良いと思う。確かに戦闘には俺とザハークが主に参加してるけど、ミレアナも戦ってない訳じゃないでしょ」

「それはそうですが」

「この辺りで、久しぶりに挑戦しても良いかもしれないね」

ソウスケのミレアナに対する戦闘の評価は、ザハークと同じ。

ミレアナの自己評価よりも高く評価しており、間違っている評価だと思っていない……思えない。

「挑戦、ですか…………」

これまでの冒険者人生……まだ短くはあるものの、非常に濃い内容であるのは間違いない。

だが、ソウスケという戦闘歴が非常に短いにも関わらず圧倒的な強さを持つ主に拾われ、その後にザハークという希少種のゴブリン……オーガが仲間となる。

ぶっちゃけなところ、基本的にどんな敵と対峙しても、危機を感じることがなくなっていた。

それは冒険者として良い事なのかというと、勿論良い事である。

死の危機が減る。
無理をする必要がないのであれば、無理をする必要はない。
ミレアナは決して自身がやるべき役割をサボっているわけではない。

やる事はやっている。
それでも……戦闘に関して、挑戦する機会は間違いなく減っていた。

(挑戦……挑戦………………そう、ですね。私は、これからもソウスケさんの傍に居続ける)

ソウスケから解雇通知を言い渡されたりしなければ、ミレアナはソウスケの傍を離れるつもりはない。

以前話していたように、ソウスケなら四十や五十過ぎで冒険者を引退することはない生涯現役として活動し続ける可能性は十分にある。

そうなると、どこかで水竜よりも強いモンスターと出会ってもおかしくない。

世の中は広く、そういった存在がいる可能性が……その様な存在にソウスケたちが挑まないという可能性がゼロと断言は出来ない。
寧ろ後者であれば高確率で挑むと考えられる。

であれば……その際、足手纏いになる訳にはいかなかった。
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