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「魔法使いは黒獅子に嫁ぐ」前編
9国境
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馴染みのあるディナミがそっと頬に触れている。同い年の親友で兄弟で家族の、お調子者。特別優しい奴ではなかったし、特別面倒見が良かった訳でもない。けれど彼のディナミは子供の頃からたくさん受け取ってきたおかげか不思議と安心出来た。
水面から顔を引き上げた時のように、ぱ、と視界が開ける。いつの間にか眠っていたようだ。温かいものを感じると思ったらケスターネだった。ケスターネはぐう、と深く首を曲げてカルディアの頬にすり寄ってくる。
馴染みのあるディナミだと思ったのはケスターネのディナミだったようだ。目が覚めて改めてケスターネのディナミを感じてみると、確かに少し似ている気がした。
ニーマはディナミを外に出せない病を患っていたので、ディナミをたくさん溜め過ぎるとまず不機嫌になった。そのまま放っておくと体調を崩すのでそうなる前にカルディアがニーマからディナミを吸い出して適当に発散させていたのだが、その不機嫌な時のニーマのディナミと似ている部分があるように思う。
「お前ももしかしたらディナミを上手く外に出せないのかも知れないね。なまじ風読みが出来る分、天気の変化に不安になっちゃうんだ、きっと」
栗毛の頬を撫でて呟く。
「それはどういう意味だ?」
(び……っくりした……!)
不意打ちを食らって心臓がドキドキ鳴っている。
てっきりケスターネと二人きりだと思い込んでいたせいで驚くカルディアに更にケスターネまでもが驚きヒヒンと嘶いた。怒るケスターネをアスランが撫でて宥めてくれる。
眼前には一面の湖が広がり、よく晴れた太陽の光を反射して輝いていた。コル湖だ。移動している途中馬車の中で眠ってしまったのだが、馬の休憩に合わせて誰かが馬車の外に抱えてきてくれたようだ。まさかアスランかと思い隣を見上げようとして、ケスターネの鼻が視界いっぱいに広がった。
「ふふっ。今日はご機嫌だな、ケスターネ」
頬ずりを受け止め鼻先を撫でてやると暖かい風が流れていく。
フォトスは通年の気温変化が少ない国だが、それに対してシリオは春と秋の雨季と夏と冬の乾季にはっきり別れており間もなく夏の乾季に向かって暑くなってくる頃だ。馬車の窓は一方向にしか誂えていないせいで通気性が悪く日中は蒸していた。あのまま中で寝かされていたら気分が悪くなっていたかも知れないので、外に連れて来てくれた誰かには心の中で感謝する。
「俺には話せないか」
アスランの声の調子は初対面からあまり変わらない。だけど、今日の彼は少しだけ機嫌が良いような気がする。ケスターネを撫でているおかげで心が落ち着いているのかも知れない。
「考えてたんだ。どう話そうかなって」
ディナミを知らない人に、ディナミを言葉で説明するのは難しい。
「そうか」
思えばアスランとティキだけはずっとフォトス語で話してくれていた。おかげで知らない土地を行く孤独感も少しは和らいでいるような気がする。家族や故郷と離れる寂しさはあったが、それはもうずっと昔に覚悟をしたものだった。
「ディナミは誰の中にもあって、特に感情の影響を受けやすいんだ。感じ方はそれぞれ違う。ディナミを色で表す人もいれば、重いとか軽いとか重量で表す人もる」
「ケスターネにもあるのか?」
「うん、人間ほどはっきりとはしてないけど」
「俺にもか」
二人はケスターネを間に挟む形でぽつぽつと会話をしている。ケスターネはカルディアにぴっとりと寄り添うようにして立っているので地面に座り込んだカルディアからはケスターネの顔しか見えない。おかげで今のカルディアの呆れたような表情はアスランからも見えていないだろう。
「あるよ。すごいのが」
「すごいの……」
「すごい」を試しにシリオ語で言ってみた。聞き返される事もなく案外あっさり通じて、オウム返しに呟くアスランの声に何だか少しだけ気分が持ち上がる。
「もうしばらくしたら発つ。次に休憩を取るのは夜だ」
「うん、分かった」
アスランはケスターネを連れて去っていく。湖の辺りで涼を取っている兵士たちを呼びに行くのだろう。
一人残されたカルディアは、膝に手をつきゆっくりと立ち上がる。全身が怠く、重い。それから傷の痛みもあちこちにある。きっと昨晩の事は一生記憶に残り続けるだろう。忘れたくとも夢に見る。恐ろしいという言葉では説明出来ないほどの目に遭わされて、だけど、これを怪我の功名と呼ぶべきか、アスランとの初夜とは全く違う行為だったという事に気付く事が出来た。
カルディアはアスランに強引に暴かれたと思っていた。だけどきっとそれは少し違う。
快感を得られなかったのは初めてだったから。慣らしを受けても快感を引き出すための訓練はしていない。挿入が苦しくて痛かったのだって同じ理由だ。証拠に治療魔法を掛けられたのはうなじの噛み痕だけだった。
やめてほしいと言って懇願してもやめなかったのは、きっと彼が獅子族だからだ。体の作りがまるで違うから、獅子族の性交は回数が多く、その上射精が長く続く。
シリオに嫁ぐのを嫌がるあまり、何もかもを悪い方へと勝手に解釈してしまっていたような気がする。もちろん初対面のアスランの態度は最悪だったが。
では、とカルディアは思考を深める。
番になったのは何故だろう。国に帰ってからでも、それこそ互いの同意を確かめてからでも遅くなかったはずだ。
無意識のうちに首筋を撫でる。傷は消えてしまったが、まだ、牙が触れて皮膚を破く痛みは思い出せた。
休憩を切り上げて十分も馬車に揺られていると、再びカルディアは眠りに落ちていく。フォトスを出てからというもの移動中はずっと寝てばかりでもったいないと思うのに、瞼は勝手に下りてゆく。
次に目を覚ましたのは月がすっかり空の真ん中に昇った夜だった。ティキから食事を渡されて空腹が満たされるとまた眠る。
そうしてカルディアはシリオの国境に入るまでほとんどを眠って過ごした。まるで冬眠中のリスが時々目覚めては飢えや乾きを癒やしてまた眠るように、カルディアは日に二時間ほどしか起きていられなかった。
コル湖がすっかり遠ざかると、いよいよシリオ武獣国の国境が迫る。南西に向かって広がる砂漠とイーヴ大陸東に広がる内海に挟まれた乾燥地帯で、イーヴ大陸で最も広い国土を持つ国だ。
途中通過してきたオトゥラック草原と平原そしてコル湖は実のところシリオの領土ではない。その三つはフォトス大森林とシリオ武獣国の間に位置する無主地であり法の制限がなかった。カルディアを襲ったメガネザルたちは無主地である事を逆手に取ってあくどい商売を営んでいたのである。
しかし、裏を返せば無主地であることは、あの日に限ってはアスラン側にも味方していた。シリオでは犯罪集団として手配されていたメガネザルの一団を国内で発見したなら生きて捕らえなくてはならないが、無主地で発見した以上生死に制限は無い。そうして二人の男が死に、事と次第によっては宿の主人も残してきた兵士に殺される事になるだろう。
カルディアはその事実を知らされていなかった。自分を襲った男が死んだ事さえもはっきりと覚えてはいないかも知れない。それだけ消耗していたのも原因の一つだが、まるで日付や時間の感覚がなくなるほどに彼は眠り続け、国境の検問所にて十数時間ぶりの覚醒を迎えていた。
「ここ、どこだろう?」
呆然として辺りを見回す。
どこを見ても枯れたような草に覆われた野山と岩石ばかり。遠くに見える建物は砂で出来ているみたいに黄味がかっており、緑が禿げあがった土地は何だか侘しく見える。コル湖の濁った水面はどこにもなく、果てしなく広がる荒野を見て悟る。
(シリオに入ったんだ)
検問所には小屋が建てられていた。せいぜい四、五人くらいしかおさまらなさそうな大きさで、国境を守るための関所としては些か心許ない。フォトスの関所となる森の入り口には人を立たせない代わりに魔法で結界が施されているので、ひょっとするとフォトスよりも防衛意識が低いのではなかろうかなんて事を思ってしまう。
検問所の建物を終点に簡易的な木製の柵が国境線を描いているが、どうにかすれば簡単に壊せるだろうし高さもないので登って越える事も可能だろう。
小屋と柵の隙間からシリオの中を覗き込む。国境の町みたいなものがあるかと思ったが、どうやらそういった物さえこの付近にはないらしく、随分寂れた印象を覚えた。
馬車の窓から首を引っ込めて身形を整える。ここから先はいよいよ他国だ。フォトスの王子としてだらしない姿を見せたりはしたくない。
今日も今日とて誰も呼びに来てくれない──眠っていると思われているのだ──ので扉を自分で開けて降りると、近くに兵士が馬に跨ったままでいた。何かを待っている様子である。アスランとティキの姿も見え、彼らは揃って検問所の小屋を見つめている。
「うわっ! ちょ、ちょ、ちょっとー!!」
突然上がったその焦ったような声は検問所の方から聞こえてきた。馬車側からは見えない方向に扉があるのか、小屋の反対側から複数の足音も聞こえてくる。
「待っ、転ける、転ける!!」
ズザザザーッ、と宣言通り盛大に転んで砂で滑っていく音と共に、検問所の影から一人の男が現れた。可哀想に顔面から転んでしまったようで、地面にうつ伏せになったままピクリともしなくなった。
助けるべきだろうか。カルディアが逡巡したのも束の間、転がった男のすぐ傍を砂を踏みつけ一定のリズムで複数の足音が通り過ぎて行く。
ザ、ザ、ザ、とざらついた足音の正体は、人間。一瞬子供かと思ったが骨格のバランスを見る限りはどうも大人だ。しかし、遠目なので分かりにくいが恐らく彼らの背丈はカルディアの胸か腹くらいの高さしかない。
小さい大人たちは全部で五人。ザ、ザ、とそういう機械のように決まったリズムと動きで列を作って歩いて来て、アスランの前で停止すると一斉にシリオ式の挨拶をした。
「アスラン様お待ちしておりました!」
代表者らしい男が手指を組んだまま大きくはっきりとした声で言う。端的に言ってうるさい。
「国境警備に異常はありません!」
アスランが馬上から頷く。
馬に跨っているおかげで恐らくそれぞれの高さは三倍近く違っていた。おかげで見上げる小人たちも見下ろすアスランも共に首を痛めそうな角度になっている。
アスランが引き続き小人たちから報告を受けていると叫び声が上がった。
「まーったくもう、うるさーい!!」
声の主はその存在を忘れかけていた先程転んだ男だ。鼻から血が出ている。誰より大声で叫んで全員の注目を集めさせると、男はアスランを見てニパッと笑った。
「アスラン様お帰りなさい!」
鼻血を豪快に手の甲で拭い、飛びつかんばかりの勢いでアスランに駆け寄った。まるで犬だと思ったが違う。猫だ。耳の形や尻尾の形が猫のそれだ。どっちかと言えば犬はフェネックのティキだろう。
声を下げろと言われたか、アスランのもとまで駆けていった後は会話する声も聞こえてこなくなった。カルディアは人見知りする性質ではないが、そこはかとなく漂う身内同士の空気感には遠慮の気持ちが生まれてしまい、遠くから彼らのやり取りを眺めるしかない。
声が掛かるまで大人しく馬車で待っていようと扉に手を掛けると、「おーい!」とカルディアを呼ぶ声がした。あの犬のような猫族の男だ。
「ねぇあんたがアスラン様の従兄弟って人ー?」
のらりくらりと歩きながらこちらにやってくる猫族の男が何かを叫ぶ。シリオ語なので理解するのに少し遅れた。
「従兄弟?」
従兄弟とは、従兄弟か。カルディアとニーマの関係と同じ言葉の意味だろうか。
首を傾げたカルディアに対し猫族の男はキョトンと呆けた顔をする。「違うの?」
互いにとぼけた顔のまま見つめ合っていると馬を降りて追い付いてきたアスランが、猫族の男に向かって一言放つ。
「番だ」
猫族はカルディアを指差して更に阿呆みたいな顔になる。「番?」「そうだと言ってる。しつこい」
「えー!? ちっさ! 番!? アスラン様のぉ!?」
簡単な単語の羅列とオーバーなリアクションのおかげで驚いている事がよく分かる。もしかしたら馬鹿にもされているかも知れない。
「ええと、カルディア・フォトスだよ。よろしく」
シリオ式の挨拶をしようかと迷ったが、何となく面映いようで握手のために手を差し出す。彼はフォトスの文化は知らないようで手を出しても「ん?」とカルディアの手を見つめるだけだった。
「オレはケディね。見て分かると思うけど猫族。にしてもあんたのシリオ語へったくそだなー」
歯に絹着せない物言いをしているようだが言語の壁のおかげで怒る気にはなれない。彼の笑う声に悪意のようなものを感じなかったのも理由の一つだろう。口の端にソースをつけている人を見て笑っている。そんな他愛ない感じだ。
ケディはすぐにカルディアから興味をなくし、尻尾をゆらんとさせながらティキたちの方へと行ってしまった。実に自由だ。
アスランと二人きりになると『番』だと紹介された事が今更になって思い出され、言葉にし難いむず痒いような妙な気持ちになる。決して嬉しくはないのだが、そう悪い気分でもない。
「あの小さい人たちは何の種族なの?」
心に生まれた小さな戸惑いを誤魔化すようにして、カルディアはあの小柄な大人たちに話題を向けてみる。
この所ずっと眠ってばかりだったのだが、短い時間目を覚ました時にアスランが傍に居るという事が度々あった。そういう時は決まってケスターネが間に挟まっており、ケスターネがカルディアの頭や頬を撫で回していたが。とにかく今ならこちらから質問をしても答えてくれるような気がした。
「鼠族だ」
端的で素っ気ない声。それでも最初の頃無駄にいがみ合っていた事を思えば多少は進歩したのかも知れない。
「だから小さいんだ。みんな大人なんだよね?」
「ああ」
「でもネズミがライオンに従ってるのは、不思議な感じ」
「鼠族の中のハダカデバネズミだ。奴らは社会性が高く、上下の関係もきっちりとしている。国境や国を守る兵隊にするのに奴らほどうってつけの種族はない」
「そうなんだ」
「ああ」
会話がそこで終わってしまうと、後はどちらからも話し掛ける事はない。この数日間もそうだった。そうして二人の間には沈黙が降りるのだが、これがまたさほど気にならないのである。
何かが少しずつ変化している。でもどうして変わったのか、何がきっかけだったのかカルディアには分からない。気付けばアスランへの苦手意識は、普通に会話が出来る程度には薄れていた。
水面から顔を引き上げた時のように、ぱ、と視界が開ける。いつの間にか眠っていたようだ。温かいものを感じると思ったらケスターネだった。ケスターネはぐう、と深く首を曲げてカルディアの頬にすり寄ってくる。
馴染みのあるディナミだと思ったのはケスターネのディナミだったようだ。目が覚めて改めてケスターネのディナミを感じてみると、確かに少し似ている気がした。
ニーマはディナミを外に出せない病を患っていたので、ディナミをたくさん溜め過ぎるとまず不機嫌になった。そのまま放っておくと体調を崩すのでそうなる前にカルディアがニーマからディナミを吸い出して適当に発散させていたのだが、その不機嫌な時のニーマのディナミと似ている部分があるように思う。
「お前ももしかしたらディナミを上手く外に出せないのかも知れないね。なまじ風読みが出来る分、天気の変化に不安になっちゃうんだ、きっと」
栗毛の頬を撫でて呟く。
「それはどういう意味だ?」
(び……っくりした……!)
不意打ちを食らって心臓がドキドキ鳴っている。
てっきりケスターネと二人きりだと思い込んでいたせいで驚くカルディアに更にケスターネまでもが驚きヒヒンと嘶いた。怒るケスターネをアスランが撫でて宥めてくれる。
眼前には一面の湖が広がり、よく晴れた太陽の光を反射して輝いていた。コル湖だ。移動している途中馬車の中で眠ってしまったのだが、馬の休憩に合わせて誰かが馬車の外に抱えてきてくれたようだ。まさかアスランかと思い隣を見上げようとして、ケスターネの鼻が視界いっぱいに広がった。
「ふふっ。今日はご機嫌だな、ケスターネ」
頬ずりを受け止め鼻先を撫でてやると暖かい風が流れていく。
フォトスは通年の気温変化が少ない国だが、それに対してシリオは春と秋の雨季と夏と冬の乾季にはっきり別れており間もなく夏の乾季に向かって暑くなってくる頃だ。馬車の窓は一方向にしか誂えていないせいで通気性が悪く日中は蒸していた。あのまま中で寝かされていたら気分が悪くなっていたかも知れないので、外に連れて来てくれた誰かには心の中で感謝する。
「俺には話せないか」
アスランの声の調子は初対面からあまり変わらない。だけど、今日の彼は少しだけ機嫌が良いような気がする。ケスターネを撫でているおかげで心が落ち着いているのかも知れない。
「考えてたんだ。どう話そうかなって」
ディナミを知らない人に、ディナミを言葉で説明するのは難しい。
「そうか」
思えばアスランとティキだけはずっとフォトス語で話してくれていた。おかげで知らない土地を行く孤独感も少しは和らいでいるような気がする。家族や故郷と離れる寂しさはあったが、それはもうずっと昔に覚悟をしたものだった。
「ディナミは誰の中にもあって、特に感情の影響を受けやすいんだ。感じ方はそれぞれ違う。ディナミを色で表す人もいれば、重いとか軽いとか重量で表す人もる」
「ケスターネにもあるのか?」
「うん、人間ほどはっきりとはしてないけど」
「俺にもか」
二人はケスターネを間に挟む形でぽつぽつと会話をしている。ケスターネはカルディアにぴっとりと寄り添うようにして立っているので地面に座り込んだカルディアからはケスターネの顔しか見えない。おかげで今のカルディアの呆れたような表情はアスランからも見えていないだろう。
「あるよ。すごいのが」
「すごいの……」
「すごい」を試しにシリオ語で言ってみた。聞き返される事もなく案外あっさり通じて、オウム返しに呟くアスランの声に何だか少しだけ気分が持ち上がる。
「もうしばらくしたら発つ。次に休憩を取るのは夜だ」
「うん、分かった」
アスランはケスターネを連れて去っていく。湖の辺りで涼を取っている兵士たちを呼びに行くのだろう。
一人残されたカルディアは、膝に手をつきゆっくりと立ち上がる。全身が怠く、重い。それから傷の痛みもあちこちにある。きっと昨晩の事は一生記憶に残り続けるだろう。忘れたくとも夢に見る。恐ろしいという言葉では説明出来ないほどの目に遭わされて、だけど、これを怪我の功名と呼ぶべきか、アスランとの初夜とは全く違う行為だったという事に気付く事が出来た。
カルディアはアスランに強引に暴かれたと思っていた。だけどきっとそれは少し違う。
快感を得られなかったのは初めてだったから。慣らしを受けても快感を引き出すための訓練はしていない。挿入が苦しくて痛かったのだって同じ理由だ。証拠に治療魔法を掛けられたのはうなじの噛み痕だけだった。
やめてほしいと言って懇願してもやめなかったのは、きっと彼が獅子族だからだ。体の作りがまるで違うから、獅子族の性交は回数が多く、その上射精が長く続く。
シリオに嫁ぐのを嫌がるあまり、何もかもを悪い方へと勝手に解釈してしまっていたような気がする。もちろん初対面のアスランの態度は最悪だったが。
では、とカルディアは思考を深める。
番になったのは何故だろう。国に帰ってからでも、それこそ互いの同意を確かめてからでも遅くなかったはずだ。
無意識のうちに首筋を撫でる。傷は消えてしまったが、まだ、牙が触れて皮膚を破く痛みは思い出せた。
休憩を切り上げて十分も馬車に揺られていると、再びカルディアは眠りに落ちていく。フォトスを出てからというもの移動中はずっと寝てばかりでもったいないと思うのに、瞼は勝手に下りてゆく。
次に目を覚ましたのは月がすっかり空の真ん中に昇った夜だった。ティキから食事を渡されて空腹が満たされるとまた眠る。
そうしてカルディアはシリオの国境に入るまでほとんどを眠って過ごした。まるで冬眠中のリスが時々目覚めては飢えや乾きを癒やしてまた眠るように、カルディアは日に二時間ほどしか起きていられなかった。
コル湖がすっかり遠ざかると、いよいよシリオ武獣国の国境が迫る。南西に向かって広がる砂漠とイーヴ大陸東に広がる内海に挟まれた乾燥地帯で、イーヴ大陸で最も広い国土を持つ国だ。
途中通過してきたオトゥラック草原と平原そしてコル湖は実のところシリオの領土ではない。その三つはフォトス大森林とシリオ武獣国の間に位置する無主地であり法の制限がなかった。カルディアを襲ったメガネザルたちは無主地である事を逆手に取ってあくどい商売を営んでいたのである。
しかし、裏を返せば無主地であることは、あの日に限ってはアスラン側にも味方していた。シリオでは犯罪集団として手配されていたメガネザルの一団を国内で発見したなら生きて捕らえなくてはならないが、無主地で発見した以上生死に制限は無い。そうして二人の男が死に、事と次第によっては宿の主人も残してきた兵士に殺される事になるだろう。
カルディアはその事実を知らされていなかった。自分を襲った男が死んだ事さえもはっきりと覚えてはいないかも知れない。それだけ消耗していたのも原因の一つだが、まるで日付や時間の感覚がなくなるほどに彼は眠り続け、国境の検問所にて十数時間ぶりの覚醒を迎えていた。
「ここ、どこだろう?」
呆然として辺りを見回す。
どこを見ても枯れたような草に覆われた野山と岩石ばかり。遠くに見える建物は砂で出来ているみたいに黄味がかっており、緑が禿げあがった土地は何だか侘しく見える。コル湖の濁った水面はどこにもなく、果てしなく広がる荒野を見て悟る。
(シリオに入ったんだ)
検問所には小屋が建てられていた。せいぜい四、五人くらいしかおさまらなさそうな大きさで、国境を守るための関所としては些か心許ない。フォトスの関所となる森の入り口には人を立たせない代わりに魔法で結界が施されているので、ひょっとするとフォトスよりも防衛意識が低いのではなかろうかなんて事を思ってしまう。
検問所の建物を終点に簡易的な木製の柵が国境線を描いているが、どうにかすれば簡単に壊せるだろうし高さもないので登って越える事も可能だろう。
小屋と柵の隙間からシリオの中を覗き込む。国境の町みたいなものがあるかと思ったが、どうやらそういった物さえこの付近にはないらしく、随分寂れた印象を覚えた。
馬車の窓から首を引っ込めて身形を整える。ここから先はいよいよ他国だ。フォトスの王子としてだらしない姿を見せたりはしたくない。
今日も今日とて誰も呼びに来てくれない──眠っていると思われているのだ──ので扉を自分で開けて降りると、近くに兵士が馬に跨ったままでいた。何かを待っている様子である。アスランとティキの姿も見え、彼らは揃って検問所の小屋を見つめている。
「うわっ! ちょ、ちょ、ちょっとー!!」
突然上がったその焦ったような声は検問所の方から聞こえてきた。馬車側からは見えない方向に扉があるのか、小屋の反対側から複数の足音も聞こえてくる。
「待っ、転ける、転ける!!」
ズザザザーッ、と宣言通り盛大に転んで砂で滑っていく音と共に、検問所の影から一人の男が現れた。可哀想に顔面から転んでしまったようで、地面にうつ伏せになったままピクリともしなくなった。
助けるべきだろうか。カルディアが逡巡したのも束の間、転がった男のすぐ傍を砂を踏みつけ一定のリズムで複数の足音が通り過ぎて行く。
ザ、ザ、ザ、とざらついた足音の正体は、人間。一瞬子供かと思ったが骨格のバランスを見る限りはどうも大人だ。しかし、遠目なので分かりにくいが恐らく彼らの背丈はカルディアの胸か腹くらいの高さしかない。
小さい大人たちは全部で五人。ザ、ザ、とそういう機械のように決まったリズムと動きで列を作って歩いて来て、アスランの前で停止すると一斉にシリオ式の挨拶をした。
「アスラン様お待ちしておりました!」
代表者らしい男が手指を組んだまま大きくはっきりとした声で言う。端的に言ってうるさい。
「国境警備に異常はありません!」
アスランが馬上から頷く。
馬に跨っているおかげで恐らくそれぞれの高さは三倍近く違っていた。おかげで見上げる小人たちも見下ろすアスランも共に首を痛めそうな角度になっている。
アスランが引き続き小人たちから報告を受けていると叫び声が上がった。
「まーったくもう、うるさーい!!」
声の主はその存在を忘れかけていた先程転んだ男だ。鼻から血が出ている。誰より大声で叫んで全員の注目を集めさせると、男はアスランを見てニパッと笑った。
「アスラン様お帰りなさい!」
鼻血を豪快に手の甲で拭い、飛びつかんばかりの勢いでアスランに駆け寄った。まるで犬だと思ったが違う。猫だ。耳の形や尻尾の形が猫のそれだ。どっちかと言えば犬はフェネックのティキだろう。
声を下げろと言われたか、アスランのもとまで駆けていった後は会話する声も聞こえてこなくなった。カルディアは人見知りする性質ではないが、そこはかとなく漂う身内同士の空気感には遠慮の気持ちが生まれてしまい、遠くから彼らのやり取りを眺めるしかない。
声が掛かるまで大人しく馬車で待っていようと扉に手を掛けると、「おーい!」とカルディアを呼ぶ声がした。あの犬のような猫族の男だ。
「ねぇあんたがアスラン様の従兄弟って人ー?」
のらりくらりと歩きながらこちらにやってくる猫族の男が何かを叫ぶ。シリオ語なので理解するのに少し遅れた。
「従兄弟?」
従兄弟とは、従兄弟か。カルディアとニーマの関係と同じ言葉の意味だろうか。
首を傾げたカルディアに対し猫族の男はキョトンと呆けた顔をする。「違うの?」
互いにとぼけた顔のまま見つめ合っていると馬を降りて追い付いてきたアスランが、猫族の男に向かって一言放つ。
「番だ」
猫族はカルディアを指差して更に阿呆みたいな顔になる。「番?」「そうだと言ってる。しつこい」
「えー!? ちっさ! 番!? アスラン様のぉ!?」
簡単な単語の羅列とオーバーなリアクションのおかげで驚いている事がよく分かる。もしかしたら馬鹿にもされているかも知れない。
「ええと、カルディア・フォトスだよ。よろしく」
シリオ式の挨拶をしようかと迷ったが、何となく面映いようで握手のために手を差し出す。彼はフォトスの文化は知らないようで手を出しても「ん?」とカルディアの手を見つめるだけだった。
「オレはケディね。見て分かると思うけど猫族。にしてもあんたのシリオ語へったくそだなー」
歯に絹着せない物言いをしているようだが言語の壁のおかげで怒る気にはなれない。彼の笑う声に悪意のようなものを感じなかったのも理由の一つだろう。口の端にソースをつけている人を見て笑っている。そんな他愛ない感じだ。
ケディはすぐにカルディアから興味をなくし、尻尾をゆらんとさせながらティキたちの方へと行ってしまった。実に自由だ。
アスランと二人きりになると『番』だと紹介された事が今更になって思い出され、言葉にし難いむず痒いような妙な気持ちになる。決して嬉しくはないのだが、そう悪い気分でもない。
「あの小さい人たちは何の種族なの?」
心に生まれた小さな戸惑いを誤魔化すようにして、カルディアはあの小柄な大人たちに話題を向けてみる。
この所ずっと眠ってばかりだったのだが、短い時間目を覚ました時にアスランが傍に居るという事が度々あった。そういう時は決まってケスターネが間に挟まっており、ケスターネがカルディアの頭や頬を撫で回していたが。とにかく今ならこちらから質問をしても答えてくれるような気がした。
「鼠族だ」
端的で素っ気ない声。それでも最初の頃無駄にいがみ合っていた事を思えば多少は進歩したのかも知れない。
「だから小さいんだ。みんな大人なんだよね?」
「ああ」
「でもネズミがライオンに従ってるのは、不思議な感じ」
「鼠族の中のハダカデバネズミだ。奴らは社会性が高く、上下の関係もきっちりとしている。国境や国を守る兵隊にするのに奴らほどうってつけの種族はない」
「そうなんだ」
「ああ」
会話がそこで終わってしまうと、後はどちらからも話し掛ける事はない。この数日間もそうだった。そうして二人の間には沈黙が降りるのだが、これがまたさほど気にならないのである。
何かが少しずつ変化している。でもどうして変わったのか、何がきっかけだったのかカルディアには分からない。気付けばアスランへの苦手意識は、普通に会話が出来る程度には薄れていた。
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これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
婚約破棄された令息の華麗なる逆転劇 ~偽りの番に捨てられたΩは、氷血公爵に愛される~
なの
BL
希少な治癒能力と、大地に生命を呼び戻す「恵みの魔法」を持つ公爵家のΩ令息、エリアス・フォン・ラティス。
傾きかけた家を救うため、彼は大国アルビオンの第二王子、ジークフリート殿下(α)との「政略的な番契約」を受け入れた。
家のため、領民のため、そして――
少しでも自分を必要としてくれる人がいるのなら、それでいいと信じて。
だが、運命の番だと信じていた相手は、彼の想いを最初から踏みにじっていた。
「Ωの魔力さえ手に入れば、あんな奴はもう要らない」
その冷たい声が、彼の世界を壊した。
すべてを失い、偽りの罪を着せられ追放されたエリアスがたどり着いたのは、隣国ルミナスの地。
そこで出会ったのは、「氷血公爵」と呼ばれる孤高のα、アレクシス・ヴァン・レイヴンだった。
人を寄せつけないほど冷ややかな瞳の奥に、誰よりも深い孤独を抱えた男。
アレクシスは、心に傷を抱えながらも懸命に生きようとするエリアスに惹かれ、次第にその凍てついた心を溶かしていく。
失われた誇りを取り戻すため、そして真実の愛を掴むため。
今、令息の華麗なる逆転劇が始まる。
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