盟約の花婿─魔法使いは黒獅子に嫁ぐ─

沖弉 えぬ

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「魔法使いは黒獅子に嫁ぐ」後編

17本能

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 思ったよりも歓迎されていない様子だ、というのは軟禁生活十日目にもなると否が応にも察するものである。Ωを寄越せと言ってきたのはシリオのくせにと文句を言ってやりたいところだが、そこには諸々の事情があるのだろう。国とはそう単純なものではない。ひたすらにフォトス魔法国とは見下されているのだなと残念に思うだけだ。
 だがしかしカルディアは全くもって飼い殺しにされるつもりはないので、現在どうにか外に出る口実を得られないかとケディを相談相手に考えているところだ。
「アスランって王太子だよね?」
 王太子とは王位継承第一位の王子を指す。
「まぁ一応アスラン様しか王子はいないって事になってる」
 気になる言い方だが話が逸れるので一旦脇に置いておく。
「じゃあ僕は王太子配でしょ? 歴代の王太子配って国政に関わったりとかしてた?」
「さぁ? そういう難しい事はオレの専門外」
 期待はしていなかったので落胆は無い。
「ケディは従者……見習い? でしょ? 僕が来る前は王宮で何してたの?」
「ティキの雑用係みたいな事してたけど、正式な仕事じゃないっていうか。アスラン様にお目溢ししてもらってここに居るから、実はそんなに威張れないんだよね」
 取り立ててもらったのではなくお目溢ししてもらったという口ぶりから、宮殿に勝手に住み着いた猫を想像してしまった。アスランではない別の人間がケディをここで働かせる事にしたのかも知れない。十中八九ティキだろう。
「本当はさー、オレみたいなのはアスラン様とかカルディア様の傍に居ない方がいいんだよ」
 突然何を言いだすかと思えば、言葉の割にはさほど自虐的な様子はない。なので「何で?」と率直に訊き返してみる。
「オレ孤児なんだよね。α孤児って言われたりする。しかも手癖悪いしがめついし」
 自分で言うのか。
「α孤児って?」
「えーと、Ω保護政策みたいなのがあって、Ωは保護するけどその他はしませんよーみたいな。産まれた子がΩだったら金貰えるんだよ。それが始まったのが二十年とか前かなぁ。その頃みんなΩを欲しがってベビーブームが起きて、でも子供って増え過ぎたら養ってけなくなる訳じゃん。で、孤児よ」
 ひょっとするとそういう経緯の孤児が多いのかも知れない。フォトスでは孤児なんて見た事も聞いた事もなかったが、シリオでは珍しくないとなると自分の生い立ちについて気にしなくなるのかも知れない。
「でもまぁ王宮ってさ、一応偉い人たちが住んだり集まったりして国動かしてく所だから、種族も怪しいような孤児を疎む輩は居るって話」
「種族、か」
 シリオ武獣国を語る上で種族は絶対に外せない。シリオは国としては国土も広く人口も多いが、よく纏まっているかというと少し違う。小さな集団が寄り集まって互いに協力する関係を国と呼んでいるような状況だ。
連合王国、と呼ぶのが一番国の体制を表しているかも知れない。
 交易路の合流地点であるアルタナ地区が特殊なだけで、大抵は種族単位で町や村を築いて暮らしているそうだ。そうやって聞くと、土地は広くて交易も盛んで開けているはずなのに、他種族に対しては閉じて狭いような気がしてくるから不思議だ。
「うーん……」
 取っ掛かりが見つからずカルディアは煩悶する。シリオについての知識が増えていく事は有難いが、部屋を出て行動をするための理由や目的はどうにも見つかりそうになかった。
 チャイの入ったカップの縁をくるりと指で撫でて、振動で揺れる白く柔らかいブラウンの水面を見つめる。
「そう言えばさっき『一応』って言ったのは?」
「どれの話?」
「アスランはって話」
「あー……」
 ケディはたちまち難しい顔になる。老眼の年寄りみたいな目付きになって首を左右に振った。
「ややこしいんだよね。すっ…………ごくややこしい」
「溜めたなぁ」
「だから、フォトス語が出来る人にちゃんと聞いた方が良いかも。っても侍女は駄目ね。あいつら噂好きである事ない事吹き込んでくるから」
 そうなると必然的にアスランかティキになる。自分の交流の狭さが気になるが、それを打開するための作戦会議だ。
「ねぇケディ。ケディもフォトス語覚えようよ」
 ほんの思い付きだったのだがケディはカエルの挽き肉でも間違って食べたみたいな顔をする。彼は表情筋だけで人を楽しませる才能がありそうだ。
「オレ勉強とか本当そういうの無理。孤児院居た頃もどんだけ逃げ出したか。計算くらいだなー、まともに出来るの」
「金勘定のため?」
「そ!」
「今ってさ、貰ってるの? お金」
「うん、ティキに。けど多分アスラン様が言ってティキに払わせてると思うから、出どころはアスラン様の懐かなぁ」
 ケディがカルディアの付き人をしているその背景にアスランの計らいがあると思うと喜びの後に同時に虚しさがやってくるので我ながら面倒臭い。自分が気遣われているのはΩだからだと思ってしまう。
「んー? もしかしてオレがカルディア様の相手してるのがビジネスだって分かって落ち込んじゃった?」
「いや、そんなには」
「えっ……」
 返り討ちにあって落ち込むケディをよそにカルディアは手元の本をめくる。シリオ語を学ぶための教科書にケディが持ってきた本だ。簡単な言葉で綴られた子供向けの童話で読みやすいが、この程度ならフォトスに居た頃から読んでいたので勉強の足しにはあまりならなさそうだ。
 万策尽きてしまうと途端に手持ち無沙汰になり、何気なく文字を目で追っていく。読もうとしていないので話の内容が全く頭に入って来ないのだが、それにしても何だかぼーっとするような感覚がある。
 体がフォトスの外に適応するための〈落果メイヴェ〉は終えたはずだ。旅の間に日に二十時間近くも眠り続けたカルディアだが、アルタナ地区を出た辺りから自然と元の睡眠時間に戻っていった。
 しかし今日は落果が起きていた時のようにやたらと頭の奥が重たくて、ふと気付くとぼんやりする事が多かった。落果と違うのは眠たいような感覚はあるのに実際には眠ってしまうような事はないという点だ。今ベッドに横になっても睡魔が来ないという確信がある。
「カルディア様、ベッド行ったら?」
 見かねたケディが促してくれるがカルディアは緩く首を振る。
「んー……。眠いのとは何か違ってて。あとちょっと暑いかも」
「考え過ぎてお熱出ちゃった?」
 ケディがからかうように言ってテーブルに身を乗り出してくる。額に触って熱を測ろうとしてくれたのかも知れない。行儀が悪いと注意しようとしたが、それより早くケディが「げっ」と呻いて遠ざかった。
「な、何? 何か失礼だなその態度」
 ケディはまるで匂いに味がするとでも言わんばかりに鼻から口から両手で塞いで仰け反っている。
「アスラン様の匂いがする。カルディア様が臭いとかじゃないの。本能的にうぇってなる感じ」
 猫の長い尻尾が股の間を通って体に巻き付いてしまっている。その反応は怯えたりする時のものだが、本能的に抗いがたい何かがカルディアから発せられているらしい。
「アスランの匂いか……」
 カルディアは自分の腕の辺りを鼻に近付けて嗅いでみるもよく分からない。石鹸の匂いがするくらいだ。第一アスランとはまた二日ほど会っていない。
「でもそんな反応になるって、普段困らないの? アスランともよく話してるのに」
「普段は気にならないけど、カルディア様からアスラン様の匂いが漂ってくるのが何か駄目って感じ」
「僕から……アスランの匂いが……」
 ──普通なら、他人のΩには手を出したくならないんだ。
 いつかのアスランの言葉を思い出していた。Ωは番を持つ事で匂いが変わるらしい。しかし、だとしてもケディの今更の反応には違和感を覚える。さっきだってケディは額に手を触れようとさせただけで結局触る前に逃げるようにして体を離した。あれくらいの距離感なら今まで何度もあったはずなのに。
 そうこうしているうちにも意識がぼんやり曖昧になる感じが強くなっていく。はぁ、と吐いた吐息も熱く、本格的に病気を疑った方が良いような気がしてくる。
「医者呼ぼっか?」
「そうしてもら、お……う?」
 ぴんと閃くものがあり、カルディアの言葉が止まる。
 気怠い感じに混ざる何か獰猛なような気配。そいつが睡魔を寄せ付けず、代わりに全身を火照らせて、身を持て余すような焦れったさを与えてくる。これは──。
発情期ヒートだ……!)
 気付いた瞬間体が肯定するようにどくんと脈打った。
「医者はやっぱりいいかも」
 発情期が来たらどうするんだったか。ぼうっとする頭で考えても思い出せない。
「でも」
「ケディ、多分僕、発情期だと思う」
 ふう、と熱っぽい吐息をこぼしながらひとまず可能性として伝えておかなくてはという意識は働いた。しかしそこから先に思考が進んでくれない。
「発情期? 今発情期って言った?」
 首肯する。
「アスラン様に報告してくる! カルディア様は寝てて!!」
「あ……」
 今の状態で一人にされるのは心細くて引き留めようとしたが、ケディは気付かず慌てて出ていってしまう。
 テーブルの上に突っ伏して、無意識に両手を股の間に挟んだ。
 そこは、驚くことに緩く芯を持っていた。ぎょっとして腕を引くと擦れる感触に腰が小さく跳ねて反応する。
「発情期って、こんな……っ」
 もはや足を閉じる事さえ怖くなって、腕に顔をうずめてケディが帰ってくるのをひたすら待った。
 再びノックの音がするまでに五分くらい過ぎただろうか。「開いてるから」と答えてから気付く。ケディなら鍵は閉まっていないと知っているはずだと。何故なら最後に扉を開けたのはケディだ。
「ああやっぱりここでしたか。物凄い匂いが廊下の方まで漂っていましたよ? はしたない」
 予想は的中し、扉の向こうには見知らぬ男が立っていた。
「誰……?」
 手に持った丸くて薄くて透明の何かを目に当てて、入り口に立っていた男は取り澄ました態度で中に入ってくる。
 逃げようとしたカルディアの椅子がガタッと音を立て、絨毯に引っ掛かってつんのめった。
「まったく、窓を開けようともしないではないですか。失礼な人だ」
 一見すると髪のように見えていたものは耳らしい。ふわっと持ち上がって降りていくと風が起こって壁掛けの旗が揺れた。
 男は手にしていた物をシリオでは珍しい洋服のポケットに仕舞い更にカルディアに近付いてくる。
「あ、あの、失礼があったらごめんなさい」
 男の言い分はめちゃくちゃで、仮にカルディアの体調が万全だったとしても男の言いたい事は半分も理解出来たかどうか甚だ怪しい。理不尽な事を言われている事だけは理解しつつ奇妙な男を刺激しないよう言葉を探す。そして働かない頭でどうにか時間稼ぎをしようと試みた。もう少し待てばケディが戻ってくるはずなのだ。
「お茶を出したいけど、今侍女も誰も居ないから、少し待ってくれるかな?」
 呼吸が早く脈も上がっているのが自分で分かるが、どうにか平静を取り繕ってみる。
 男はふ、と馬鹿にするようして笑った。
「お茶ですって? こんな怪しい男が侵入してきているのに、頭の中に綿でも詰まっているのでしょうか?」
 その顔付きと物言いにカチンとくるがもはや立ち上がるのさえ億劫なカルディアは、背筋を伸ばすだけで精一杯だ。
「じゃあ出てってもらえる?」
 刺激するべきではないと思っていたのもあっという間に忘れてただただ頭に浮かんだ言葉を口にしてからすぐに後悔した。が、しかし。
「はい、そうします」
(え?)
 くるん、と踵を返した男は悠然と歩いて本当に部屋を出て行く。最後、扉を閉めながら「では」と小さく笑い、音を立てて扉が閉まる。
 男は本当に出て行ってしまった。一体何をしに現れたのだろうか。訳が分からず気味が悪くなって扉をじっと凝視していたが、驚くべき早さで発情期の熱が全身に回っていき、男の事はすぐに頭から抜けていった。
 緊張したせいで発情期の症状が加速したような気がする。胸の辺りを鷲掴みにしてもう何も考えたくない頭でひたすらに誰かが来てくれるのを待ち続けた。
「カルディア様!」
 ケディの叫びが聞こえて顔を上げる。ケディは案の定ノックもせずに飛び込んでくるとテーブルに突っ伏していたカルディアを見つけて駆け寄ってくるが、今度は手も届かないような距離で立ち止まって「駄目だぁ」と情けない声を上げる。
「アスラン様、お願いー……」
 ケディから少し遅れて入ってきたアスランがケディを追い越しカルディアの傍に寄る。背中と背もたれの隙間に腕を差し込まれ、次に膝下に手を差し込まれると軽々と持ち上げられてベッドに降ろされる。
「ケディ」
 アスランが何かをケディに向かって投げる。鍵だ。
「それで閉めて出て行け」
「はい~……」
 ぶるぶると猫がそうするように頭を小刻みに振って立ち上がるとケディは言われた通りにする。鍵の閉まる音に合わせて、カルディアの中でどうにもならないくらい期待が膨らんでいた。
「アスラン、僕……」
「初めてか?」
「うん……っ」
 アスランの姿が見えた辺りから理性は消失していた。アスランの匂いがいつも以上に強く感じられてその事でいっぱいになって、とにかく欲しくてたまらない。
(欲しいって、何が?)
 分からない。でも、欲しい。
 赤子のようにアスランに手を伸ばすとその手を掴んだアスランがぎゅっと指を絡めてくる。そのままシーツに縫い付けられて、アスランはカルディアの耳の辺りに顔を埋める。
「……加減が、きかなくなるかも知れない」
 苦しげな声だった。しかしアスランのディナミは驚くほど開放的になっている。苦痛なんてとんでもない。
「いい、いいから、これどうにかして、アスラン」
 腹の奥がもうずっと飢えを訴えているのが分かる。空腹に似ているようで全く違う欲求がそこで渦巻いている。
 アスランの手がカルディアの服にかかる。脱がせようとする手付きも雑で、服が裂けるような音もする。下着一枚になると肩から襟を落とされて、平らな胸が晒された。
「あんっ」
 いつもは触らないそこにアスランの爪が触れる。甘い疼きが下腹部に走って、今までなら信じられないくらい蕩けた声がカルディアの鼻を抜けていった。
 これが何なのか頭では理解しても体に起こる反応が予測を超えていく。
 カルディアの反応に目を細め、アスランは胸に顔を埋めて乳首を吸い始める。
「んんんっ、やぁっ、そ……っ、んーっ」
 器用な事に吸いながら尖端を舌が抉るように動いている。そうされると弄られているのは胸なのにどうしてか下腹部に熱が集中していくのだ。ペニスは既に下着を押し上げて勃起している。両脇の紐が解けそうで解けないのが苦しくて、股をもどかしげにすり合わせる。
「し、下も、アスランッ」
「……ああ」
 アスランの熱い吐息が腹にかかって気付く。アスランもまたいつになく興奮していると。カルディアの発情期に中てられているのだ。
 アスランは言われた通りカルディアのペニスを下着の上から撫でた。声もなくカルディアの背が反って、軽く射精してしまった事に遅れて驚く。
「すごいな……」
「や、言わないでぇ……っ」
 自分でもこんな淫らな状態になっている事が信じられないし恥ずかしい。じっくりとその様子を観察するようにアスランに見られると、羞恥で全身が焼かれているように熱くなる。
 下着の紐を引っ張られると結んでいた意味などまるでなかったかのように抵抗なく解けていき、すぐに硬さを取り戻したそこが少し楽になる。しかし奥の疼きは治まらないどころか強くなる一方だ。欲しいと思ってしまう衝動がカルディアの腰をゆらめかせた。
「……指、入れるぞ」
「う、ん……んんっ、あっ」
 声が勝手に抜けていく。たまらず片手で口を覆うと、アスランに両手をまとめて握られ胸の上で押さえつけられた。「何で?」腕が使えなくなる不自由さより、アスランの行動の理由が気になった。しかしアスランは何故か気まずそうに目を逸らすだけで答えず、誤魔化すように指を動かし始める。
「っあ、ん……んんっ、い、つもと、ちがう」
 違うのはアスランではない。カルディアの方だ。尻を弄られるのなんて毎度ただ苦しいだけだった。狭い入り口をどうにか解してやっとの思いで受け入れる。その後も中から突かれるほどに苦しくなって、二回目を求められるのがとても億劫だった。
 だけど今日は違うのだ。気持ち良い。そうはっきりと言葉に出来るだけの確かなものが尻の内側からこみ上げてくる。
「アスランッ、あ、あんっ」
 初めて知る快感に怖くなってアスランを呼ぶと拘束している手にぎゅっと力が入る。
「ね、これ外して」
 しかしアスランは渋るように目を細めるだけで頷かない。寧ろ更に力が強くなり、骨が小さく軋んだ。
「何で? お願い、ねぇ、アスラン」
「我慢、するだろお前」
 答える代わりに指の動きが止まっていた。そうすると中が疼いて焦れったくて早く触って欲しいという感覚が強くなる。
「し、しないから」
「今日は本当に、歯止めがきかなくなる。必ず言え、嫌な事は」
 分かったという思いを込めてこくこく首を縦に振ると漸く手が解放される。納得して放してくれたのにアスランはしかめっ面のままなので、離れていく手を取り指を絡めた。
「最初みたいに、こうしてて」
 アスランの考えている事が今一つ掴めない。何も言わなかったが手を握り合うとアスランの眉間の皺は和らいでいった。同時にカルディアの胸に起こりかけていた不安も和らいでいく。
 そうして再開された指の動きに翻弄されて、香油も使っていないのに尻はぐちゃぐちゃに濡れていた。自分の秘部からいやらしい音が鳴るのが恥ずかしかったのなんて始めのうちだけで、指が増えて手前と奥とをトントンと叩くように刺激されるとカルディアは呆気なく精を放った。触れてもいないそこで射精してしまった事に驚くよりも、果てても尚、奥の熱がくすぶり続けている事に身震いする。
 射精で上がった息を整えている間にアスランが服を寛げる。アスランのペニスはもうすっかりと勃起していた。いつもは萎えていて、取り出してから自分で軽く扱かなくては挿入に辿り着かないのに、今日はもうその必要はなさそうだ。
「入れるぞ」
 頷くカルディアの喉が鳴る。嫌でたまらないはずなのに、固くて太い陰茎を前にして欲求がここ一番で高まっていた。
「──っは、んんぅ、んんっ」
 入ってきた瞬間、その質量に思わず息を詰めた。大きい。いつもよりずっと硬くて熱い。それなのに苦しさはなく、カルディアの中は淫靡に蠢きアスランのペニスを奥へ奥へと誘っていく。
「っく……そ……」
 たまらずアスランの口から苦鳴が漏れる。額から汗を流して懸命にゆっくりと腰を押し進めようとしている。何度か制御がきかなくなると言われた。それでもアスランは発情して昂る性衝動を抑えてカルディアを傷つけまいと必死だ。
 たまらなくなる。ひょっとすると彼の中には親愛の情でさえ今後湧く事はないのかも知れない。それでも、それでも──。
「アスラン、動いて」
 彼と繋いだ手をぎゅっと握りしめる。手の中で大きなアスランの手が小さく跳ねた。
「あっ! あんっ、ひあっ、あぁッ」
 最奥を熱い楔が穿つ。カルディアは頭を振り乱して喘いだ。
 気持ち良い、欲しい、熱いのが、もっと欲しい。
「あ、ぅ……らぁんっ」
 天も地も分からなくなるような激しい快感の波に押し流されながら、懸命にアスランの名を呼ぶ。アスランは片手でカルディアの細い腰を掴み夢中で腰を振っていたが、名前を呼ばれると律動を緩めて顔を下ろしてくる。トルマリンとオレンジの瞳が近づいて、青の中に頬を上気させ善がる自分を見つけた時、アスランはカルディアの耳元に顔を埋めた。
(キス、してくれないんだ)
 ただそれだけの事で胸がぎゅっと締め付けられて切なくなる。しかしすぐにそんな繊細な情緒は快感の波に押し流されていった。
 アスランはカルディアの耳元で鼻を鳴らしている。彼はよくそうしてカルディアの匂いを嗅いだ。今もまたすん、と鼻がひくつくような音と共に、熱くてしっとりとした呼吸の音がすぐ傍でする。
「は……っ」
「あ、おっきぃ、奥、いいっ……いぁっ、ああッ」
 余った手を水の中でもがくようにアスランの背に回した。バラバラだった快感がひとところに集まって、何かがくるような感覚。それはアスランが腰を動かすごとに腹の中で大きくはっきりとしていき、喘いでも首を振ってもいなせない強い性感に爪を立て背中を引っ掻いた。
「くる……くるぅっ、やらぁあっ、なんか……ああァッ、んああぁあっ」
「きっつ……っ」
 目の前がチカチカと明滅する。何が起きたのか分からない。全身で大きく呼吸して、射精後のような余韻に腰を痙攣させる。
 しかしカルディアは射精していなかった。射精よりずっと長く続く余韻に眩暈さえしているというのにペニスは下腹で勃起を保っている。
「はぁ……す、ごかった……今の、何……」
 思わず素直な感想が口から出ると、腹に収まったままだったアスランがズンと質量が増した。
「え、嘘……」
「歯止めきかないって言ったろ」
「あ、待っ」
 待ってと言う割にはカルディアの声はだらしなく溶けている。とてもではないがそこに拒絶の意思は籠っていない。
 結局二回、三回とアスランに付き合わされて、その日は一日行為に没頭する事になった。
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