スキル『箱庭』を手にした男ののんびり救世冒険譚〜ハズレスキル? とんでもないアタリスキルでした〜

夜夢

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第06話 住人

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 世話になっていた夫婦の案内で集落の長と会い、箱庭の話を伝えた。最初は怪しんでいた長だったが、実際に中に入り意見が前向きなものに変わった。そして今集落の住人二十人全てが箱庭の世界を見学している。

「これがスキルでできた世界だって? 信じられんなぁ~」
「ほんとね~。太陽もあるし空気も風もあるし」
「見ろあのフォレストボア! まるで家畜のように転がってるぞ!?」

 レイは驚く集落の人達に詳細を説明していく。

「まず、住人になっていただけたら各家庭に新しい家を作ります」
「「「新しい家だとっ!?」」」
「はい。新築なのかな? えっと、家は様々なタイプが選べます。畑付きの家だったり庭だけだったり。後は小さな牧場付きの家もありますね。他にも……」

 説明書には様々な家屋タイプが記されていた。これはレイがこれまでの人生で見た記憶がある家屋タイプだった。

「これは実際に僕が見た事のあるタイプしか表示されない仕組みになっているので、世界を回れば回るだけ家屋のタイプが増やせるみたいです」

 すると長が期待に満ちた瞳でレイに問い掛けた。

「な、ならば貴族様が住むような豪邸も出せるんかいの?」
「可能……ですが家族が十人以上いないと作れないみたいですね」
「そ、そうか……」
「長の家庭は長夫婦に娘夫婦、孫が一人なので村の集会所付家屋までなら作れるみたいです」
「ふむ、それは後から家族が増えたら変更可能なのかな?」
「はい。ですが変更には住人の【満足度ポイント】を消費するみたいですね」
「「「【満足度ポイント】??」」」

 説明書にはこう記されていた。

 この世界で暮らす住人からは一日に一度満足度ポイントが入る。満足度ポイントは各人の満足度から算出され、物足りないと感じる住人からは0ポイント。まあまあ満足と感じる住人からは1ポイント。最高に満足だと感じる住人からは2ポイント入る。ポイントの使い道は様々あり、住人の満足度を得るために主が世界を作り変えるために使われる。

「例えば水汲みが面倒だと感じる住人のために満足度ポイントを使用して井戸を作ったり、浴場を作ったりできるみたいです。他には家の改装などですね」
「つ、つまり儂らが満足感を感じれば感じるほどこの世界は楽園に変わっていき、様々な要望が実現する……と?」
「はい」

 すると集落の人達は我先にと手を挙げた。

「お、俺は住人になるぞ! ここにいたら無理矢理戦に呼ばれる事もないし!」
「そ、そうね! それに盗賊から襲われる心配もないし!」
「何より新しい家に住めるなんて最高じゃないか! 今の家は雨漏りが酷くて……っ!」
「長! レイさんに世話になりましょう! 俺達は許可がなくてもここの住人になりやすぜ!」

 そこで長が杖を掲げた。

「何を言うか! ここの第一村人は儂じゃいっ! レイ殿っ、どうか住人として迎えてくれいっ!」
「あ、頭を上げて下さい! むしろ大歓迎ですよ! 僕からお願いします。どうかこの箱庭の住人になって下さいっ!」
「「「「喜んでっ!」」」」

 こうして箱庭の世界に二十人とフォレストボア二体が住む事になった。

「おぉぉぉぉっ!? これが俺の家っ!? すっげぇぇぇっ!」
「きゃ~っ、家具まで新しいわっ! それにこのキッチン! ピカピカで料理が捗るわぁ~」
「お父さんお父さんっ! 外で遊んで良いの!?」
「ああっ、ここは魔物がいないからなっ。好きなだけ外で遊べるぞ」
「やった~っ!」

 住人を得て箱庭の中が二キロ四方に拡大された。その中心部に家屋を五つ設置した。

「どうですか? 希望は汲んだつもりですが」
「「「もう最高っ!」」」
「ありがとうございますっ。暮らしていきながら要望があれば言って下さい。すぐに対応しますので」

 そう告げると長が問い掛けてきた。

「レイ殿、つかぬ事を尋ねるが……税金はあるのかの?」
「「「あ」」」

 長の放った税金というセリフに一同がピタリと固まった。

「税金……いや、ないですね」
「「「えっ!?」」」
「えっと、いわば満足度ポイントが税金と言いますか」
「ふむふむ」

 満足度ポイントは住人の満足度を得るために主が世界を作り変えるために使われるポイントだと説明したが、満足度を得るためには主であるレイがより世界を知らなければならない。その世界を知るためには世界を回らなければならない。つまり、満足度ポイントは現実世界の金銭にも変えられるのである。

「なるほどのう。つまり儂らが満足した生活を送ればレイ殿も潤うのだな?」
「はい。あ、ですがほとんど自分のために使う気はありません。なるべく皆さんのために使います」
「いや、それはならぬ」
「え?」

 長は白くなった髭を擦りながらニカッと笑った。

「これでも儂らは与えられ過ぎておる。必要な時は遠慮なく金銭に変えて構わぬよ。のう、皆の者」
「「「「はいっ」」」」
「み、皆さん……。ありがとうございますっ!」

 レイは人々の優しさに触れ感動していた。これまでのレイは尊敬や嫉妬、追放されてからは苦難しかなかった。リリーを除けば初めて人々に優しくされ認められた瞬間である。

「レイ殿……いや、主よ。末永く儂らを頼む」
「は、はいっ!」

 それから数日箱庭の世界で暮らしてもらい、中での暮らしに順応してもらった。

「主様! この畑どうなってるんですか!? 収穫しても減らないんですけど!?」
「あ、はい。それは芋畑で概念が固定されてますから牧草と同じで減らないし、最初から最後まで収穫に適した状態で固定されるみたいなんです」
「い、いや。しかし……。これだと我々の仕事がてすな……」
「空いた時間は好きに使って構いませんよ。何か新しい趣味を増やしたりとか。あ、そうだ! 沢山収穫しても保存は可能ですよ」
「保存?」

 レイは農家の男に収納箱の説明をする。

「はい。木の麓に黒い箱があるのですが、それは収納箱といって時間経過なしで無限に保存しておけるんですよ。ただし皆さんは入れる事しかてきず、僕しか取り出せないんですよ」
「なるほど。俺らはいつでも収穫して食べられる。ただし主様は外にいるから箱の中に入ってなきゃ困るわけだな」
「そうなりますね。食べたくなったら箱庭に来れば良いだけなんですけどね」

 農家の男は豪快に笑った。

「はっはっは。主様はこれから忙しくなるんだろ? 食糧くらいたんまり用意しておくさ。それを使って俺達のような貧しい者や不遇扱いされている者達を助けてやってくれ」
「はいっ! 皆さんの力、お借りします!」

 数日暮らしても住人に異常がない事を確認し、レイは箱庭から元の世界に戻った。そして自分のステータスを確認する。

「わっ、スキルが増えてる! 住人の力が自分の力になるってこういうか~」

 レイのステータスには儀式を受けた住人のスキルが表示されていた。

「【料理】、【裁縫】、【釣り】、【突進】? あ、フォレストボアのスキルか! え? 魔獣のスキルも使えるの!? こ、これは凄いぞ!」

 魔獣や魔物のスキルは人間には使えない。さらに神獣といわれる者や竜種は凄まじい力を持つ。

「もし……神獣や竜種が住人になったら……僕人外になっちゃう?」

 不遇スキルではあるがすでにいくつものスキルを持つレイはもう人外に片足を突っ込んでいるのだが、本人はまだ知る由もなかった。

「よし、そろそろ出発しよう。目指すはフロストン男爵領にある町ミーレスだ!」

 レイはやる気に満ち溢れながら新たなる一歩を踏み出したのだった。
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