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第55話 箱庭に教会を求め
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現状箱庭の中において成人した者がスキルを授かる儀式を受ける事はできない。スキルを授かる儀式は神に仕える者の祈りでしか授かれないのである。
そして問題はまだある。外界ではこの儀式で問題はないが、果たして外界とは理の異なる箱庭の中で儀式が可能であるか、それも未だ不明のままだ。検証するにも現在箱庭内に神官やシスター、司祭の類は存在していない。
レイは箱庭で暮らす住民のために箱庭に永住してくれそうな教会関係者を探す事にした。
「ヴェルデ王、どうにかなりませんかね?」
「あぁ? いきなり何しに来たかと思ったら……。レイ、一つ教えてやろう」
「はい」
「無理だ」
「はい?」
ヴェルデはレイに諭すように告げた。
「良いかレイ。教会にいる司祭や神官は海を渡った先にある国【教国エンフィールド】が全て管理し、他の国に派遣してんだ。そいつらはどんな土地だろうが教国の命令なしじゃその土地を離れられん事になってんだ。神官が欲しいなら教国に筋を通さにゃならん」
「けどそれだと教国に僕のスキルが露見してしまいます」
「おう。だからまぁ……諦めな。教国にバレても良いんなら行きゃあ良い」
「それはちょっと……」
教国は唯一儀式を行える力を有するいわば世界の支配者だ。そんな国がレイの価値を知ればまず間違いなく利用する。ヴェルデもそれがわかっていたからこそレイに忠告した。
「やはり無理ですかね」
「どう考えても無理筋だ。なあオルス」
オルスは片眼鏡の位置を直しレイを見た。
「いえ、全く無理ではありませんよ」
「「えっ!?」」
オルスの言葉にレイとヴェルデは同時に驚きの声をあげた。オルスはヴェルデを無視し話を続ける。
「これは普段仕事をしないどこかのバカは知らない話でしてね」
「どこかのバカって誰だ? おぉん!?」
「貴様だ。役立たずは黙って働け!」
「上等じゃゴラァッ!」
バカにされたヴェルデは机に向かい数枚の書類に印を押し寝た。
「なんですかアレ」
「ただの屍です。気にしなくて大丈夫ですよ。さて、では話を続けましょうか」
オルスは解決策を提案した。
「実の所ですね、現在ハロルドに与していた貴族達の領地に新しい貴族を配置しているのですが」
「はい」
「その内の一つが貴族の裏金作りで疲弊し尽くしているのです」
「うわ、最悪ですね」
「はい。そこの教会に教国の帰還命令を無視してまで民を守ろうとしていたシスターがおりましてね」
「へぇ~」
「そのシスターは人助けこそ己の生き甲斐といった方でしてね。もし君がその領地に向かい困窮する人々を助けたとしたら……」
レイはオルスの狙いが透けて見えた。
「あの、体よく僕を利用しようとしてません?」
「はははっ、まさか。ただ、君に任せた方が早く済みそうですし、上手く交渉すれば君の目的が果たせると思い提案したまでですよ」
オルスはこう考えていた。
(レイ君に任せれば手っ取り早く難民を救済できよう。もしシスターがレイ君に味方せずとも難民は救われる。国はすぐには動けないが身軽なレイ君ならばすぐにでも解決できるだろう。仮に交渉を失敗しても国は獲られる物しかない)
レイは少し考えオルスに尋ねた。
「そこは今どうなっているのですか?」
「陸の孤島になっています。全ての道が破壊され荷馬車では向かえません。今そこは自給自足生活を余儀なくされています」
「余裕はないんですね」
「はい。かなり」
レイはソファーから立ち上がった。
「場所を教えて下さい。僕が行きます」
「わかった。では君に任せるとしよう。もしシスターが君の仲間になるようなら教国へは私から上手く説明しよう。必ず救ってくれ。場所は……」
現在陸の孤島となっている場所はエスタから東に向かい険しい山と深い森に囲まれた場所にある【リーンウッド】という町だ。この町は林業が主産業であり、薪や木炭の加工も産業としている。
このリーンウッドに向かうためには通常山をくり抜いたトンネルを抜けなければ荷馬車などは入れない。徒歩で荷物を抱え山を越えても焼け石に水だ。その場合多くの人員が必要になる。今はまだ新しい国が始まったばかりだ。国にそんな余裕はなかった。
「あれがリーンウッドか~。魔の森より深い森だし山は山林だけどドワーフの山より大きいんじゃないかな? よくこんな場所に町を作る気になったなぁ」
どう考えても生活は困難だろう。レイは空に浮かびながら森にポッカリと開いた場所を眺めていた。
「行くか。まずは困っている人を助けようっ!」
レイはあえて目立つように空からゆっくりと町の中心部に向かい下降していった。
「な、なんだぁっ!? 空から人が降ってくるぞ!?」
「ち、違う! ありゃ飛行魔法だ! 領主の仲間かもしれねぇっ! まだ動ける奴呼んできてくれっ!」
「急いでシスターを隠せっ! 彼女を失ったら俺達は終わりだ!」
レイの姿を見たリーンウッドの住民達が中心部を囲むように武器を持ちレイを待ち構える。レイは住民達に声が聞こえる位置で叫んだ。
「皆さん! 僕は冒険者のレイと申します! オルス大臣の依頼を受け皆さんに食糧を届けに参りました! 僕に敵意はありません! 武器をおろして下さい!」
「し、食糧……? あんた食糧を運んできたのか!」
「はいっ! まずは食糧を配ります! その後崩れたトンネルも補修します!」
それを見た住民の一人が斧を捨て膝から崩れ落ちた。
「た、助けだ……っ! 助けが来たんだっ! ありがてぇっ、ありがてぇっ!」
「わ、私二日前から何も食べてないのっ! なんでも良いから食べ物を下さいっ!」
レイは地表に降り立ち住民達に言った。
「肉、野菜、魚介類、酒、お菓子……。今から皆さんに希望する物を配ります! 物資はいくらでもありますので慌てず一例に並んで下さい!」
「「「「「おぉぉぉぉぉっ!」」」」」
住民達は一斉に武器を放り投げ、荷車や買い物カゴを持ちレイの前に並んでいくのだった。
そして問題はまだある。外界ではこの儀式で問題はないが、果たして外界とは理の異なる箱庭の中で儀式が可能であるか、それも未だ不明のままだ。検証するにも現在箱庭内に神官やシスター、司祭の類は存在していない。
レイは箱庭で暮らす住民のために箱庭に永住してくれそうな教会関係者を探す事にした。
「ヴェルデ王、どうにかなりませんかね?」
「あぁ? いきなり何しに来たかと思ったら……。レイ、一つ教えてやろう」
「はい」
「無理だ」
「はい?」
ヴェルデはレイに諭すように告げた。
「良いかレイ。教会にいる司祭や神官は海を渡った先にある国【教国エンフィールド】が全て管理し、他の国に派遣してんだ。そいつらはどんな土地だろうが教国の命令なしじゃその土地を離れられん事になってんだ。神官が欲しいなら教国に筋を通さにゃならん」
「けどそれだと教国に僕のスキルが露見してしまいます」
「おう。だからまぁ……諦めな。教国にバレても良いんなら行きゃあ良い」
「それはちょっと……」
教国は唯一儀式を行える力を有するいわば世界の支配者だ。そんな国がレイの価値を知ればまず間違いなく利用する。ヴェルデもそれがわかっていたからこそレイに忠告した。
「やはり無理ですかね」
「どう考えても無理筋だ。なあオルス」
オルスは片眼鏡の位置を直しレイを見た。
「いえ、全く無理ではありませんよ」
「「えっ!?」」
オルスの言葉にレイとヴェルデは同時に驚きの声をあげた。オルスはヴェルデを無視し話を続ける。
「これは普段仕事をしないどこかのバカは知らない話でしてね」
「どこかのバカって誰だ? おぉん!?」
「貴様だ。役立たずは黙って働け!」
「上等じゃゴラァッ!」
バカにされたヴェルデは机に向かい数枚の書類に印を押し寝た。
「なんですかアレ」
「ただの屍です。気にしなくて大丈夫ですよ。さて、では話を続けましょうか」
オルスは解決策を提案した。
「実の所ですね、現在ハロルドに与していた貴族達の領地に新しい貴族を配置しているのですが」
「はい」
「その内の一つが貴族の裏金作りで疲弊し尽くしているのです」
「うわ、最悪ですね」
「はい。そこの教会に教国の帰還命令を無視してまで民を守ろうとしていたシスターがおりましてね」
「へぇ~」
「そのシスターは人助けこそ己の生き甲斐といった方でしてね。もし君がその領地に向かい困窮する人々を助けたとしたら……」
レイはオルスの狙いが透けて見えた。
「あの、体よく僕を利用しようとしてません?」
「はははっ、まさか。ただ、君に任せた方が早く済みそうですし、上手く交渉すれば君の目的が果たせると思い提案したまでですよ」
オルスはこう考えていた。
(レイ君に任せれば手っ取り早く難民を救済できよう。もしシスターがレイ君に味方せずとも難民は救われる。国はすぐには動けないが身軽なレイ君ならばすぐにでも解決できるだろう。仮に交渉を失敗しても国は獲られる物しかない)
レイは少し考えオルスに尋ねた。
「そこは今どうなっているのですか?」
「陸の孤島になっています。全ての道が破壊され荷馬車では向かえません。今そこは自給自足生活を余儀なくされています」
「余裕はないんですね」
「はい。かなり」
レイはソファーから立ち上がった。
「場所を教えて下さい。僕が行きます」
「わかった。では君に任せるとしよう。もしシスターが君の仲間になるようなら教国へは私から上手く説明しよう。必ず救ってくれ。場所は……」
現在陸の孤島となっている場所はエスタから東に向かい険しい山と深い森に囲まれた場所にある【リーンウッド】という町だ。この町は林業が主産業であり、薪や木炭の加工も産業としている。
このリーンウッドに向かうためには通常山をくり抜いたトンネルを抜けなければ荷馬車などは入れない。徒歩で荷物を抱え山を越えても焼け石に水だ。その場合多くの人員が必要になる。今はまだ新しい国が始まったばかりだ。国にそんな余裕はなかった。
「あれがリーンウッドか~。魔の森より深い森だし山は山林だけどドワーフの山より大きいんじゃないかな? よくこんな場所に町を作る気になったなぁ」
どう考えても生活は困難だろう。レイは空に浮かびながら森にポッカリと開いた場所を眺めていた。
「行くか。まずは困っている人を助けようっ!」
レイはあえて目立つように空からゆっくりと町の中心部に向かい下降していった。
「な、なんだぁっ!? 空から人が降ってくるぞ!?」
「ち、違う! ありゃ飛行魔法だ! 領主の仲間かもしれねぇっ! まだ動ける奴呼んできてくれっ!」
「急いでシスターを隠せっ! 彼女を失ったら俺達は終わりだ!」
レイの姿を見たリーンウッドの住民達が中心部を囲むように武器を持ちレイを待ち構える。レイは住民達に声が聞こえる位置で叫んだ。
「皆さん! 僕は冒険者のレイと申します! オルス大臣の依頼を受け皆さんに食糧を届けに参りました! 僕に敵意はありません! 武器をおろして下さい!」
「し、食糧……? あんた食糧を運んできたのか!」
「はいっ! まずは食糧を配ります! その後崩れたトンネルも補修します!」
それを見た住民の一人が斧を捨て膝から崩れ落ちた。
「た、助けだ……っ! 助けが来たんだっ! ありがてぇっ、ありがてぇっ!」
「わ、私二日前から何も食べてないのっ! なんでも良いから食べ物を下さいっ!」
レイは地表に降り立ち住民達に言った。
「肉、野菜、魚介類、酒、お菓子……。今から皆さんに希望する物を配ります! 物資はいくらでもありますので慌てず一例に並んで下さい!」
「「「「「おぉぉぉぉぉっ!」」」」」
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