スキル『箱庭』を手にした男ののんびり救世冒険譚〜ハズレスキル? とんでもないアタリスキルでした〜

夜夢

文字の大きさ
55 / 81

第55話 箱庭に教会を求め

しおりを挟む
 現状箱庭の中において成人した者がスキルを授かる儀式を受ける事はできない。スキルを授かる儀式は神に仕える者の祈りでしか授かれないのである。

 そして問題はまだある。外界ではこの儀式で問題はないが、果たして外界とは理の異なる箱庭の中で儀式が可能であるか、それも未だ不明のままだ。検証するにも現在箱庭内に神官やシスター、司祭の類は存在していない。

 レイは箱庭で暮らす住民のために箱庭に永住してくれそうな教会関係者を探す事にした。

「ヴェルデ王、どうにかなりませんかね?」
「あぁ? いきなり何しに来たかと思ったら……。レイ、一つ教えてやろう」
「はい」
「無理だ」
「はい?」

 ヴェルデはレイに諭すように告げた。

「良いかレイ。教会にいる司祭や神官は海を渡った先にある国【教国エンフィールド】が全て管理し、他の国に派遣してんだ。そいつらはどんな土地だろうが教国の命令なしじゃその土地を離れられん事になってんだ。神官が欲しいなら教国に筋を通さにゃならん」
「けどそれだと教国に僕のスキルが露見してしまいます」
「おう。だからまぁ……諦めな。教国にバレても良いんなら行きゃあ良い」
「それはちょっと……」

 教国は唯一儀式を行える力を有するいわば世界の支配者だ。そんな国がレイの価値を知ればまず間違いなく利用する。ヴェルデもそれがわかっていたからこそレイに忠告した。

「やはり無理ですかね」
「どう考えても無理筋だ。なあオルス」

 オルスは片眼鏡の位置を直しレイを見た。

「いえ、全く無理ではありませんよ」
「「えっ!?」」

 オルスの言葉にレイとヴェルデは同時に驚きの声をあげた。オルスはヴェルデを無視し話を続ける。

「これは普段仕事をしないどこかのバカは知らない話でしてね」
「どこかのバカって誰だ? おぉん!?」
「貴様だ。役立たずは黙って働け!」
「上等じゃゴラァッ!」

 バカにされたヴェルデは机に向かい数枚の書類に印を押し寝た。

「なんですかアレ」
「ただの屍です。気にしなくて大丈夫ですよ。さて、では話を続けましょうか」

 オルスは解決策を提案した。

「実の所ですね、現在ハロルドに与していた貴族達の領地に新しい貴族を配置しているのですが」
「はい」
「その内の一つが貴族の裏金作りで疲弊し尽くしているのです」
「うわ、最悪ですね」
「はい。そこの教会に教国の帰還命令を無視してまで民を守ろうとしていたシスターがおりましてね」
「へぇ~」
「そのシスターは人助けこそ己の生き甲斐といった方でしてね。もし君がその領地に向かい困窮する人々を助けたとしたら……」

 レイはオルスの狙いが透けて見えた。

「あの、体よく僕を利用しようとしてません?」
「はははっ、まさか。ただ、君に任せた方が早く済みそうですし、上手く交渉すれば君の目的が果たせると思い提案したまでですよ」

 オルスはこう考えていた。

(レイ君に任せれば手っ取り早く難民を救済できよう。もしシスターがレイ君に味方せずとも難民は救われる。国はすぐには動けないが身軽なレイ君ならばすぐにでも解決できるだろう。仮に交渉を失敗しても国は獲られる物しかない)

 レイは少し考えオルスに尋ねた。

「そこは今どうなっているのですか?」
「陸の孤島になっています。全ての道が破壊され荷馬車では向かえません。今そこは自給自足生活を余儀なくされています」
「余裕はないんですね」
「はい。かなり」

 レイはソファーから立ち上がった。

「場所を教えて下さい。僕が行きます」
「わかった。では君に任せるとしよう。もしシスターが君の仲間になるようなら教国へは私から上手く説明しよう。必ず救ってくれ。場所は……」

 現在陸の孤島となっている場所はエスタから東に向かい険しい山と深い森に囲まれた場所にある【リーンウッド】という町だ。この町は林業が主産業であり、薪や木炭の加工も産業としている。

 このリーンウッドに向かうためには通常山をくり抜いたトンネルを抜けなければ荷馬車などは入れない。徒歩で荷物を抱え山を越えても焼け石に水だ。その場合多くの人員が必要になる。今はまだ新しい国が始まったばかりだ。国にそんな余裕はなかった。

「あれがリーンウッドか~。魔の森より深い森だし山は山林だけどドワーフの山より大きいんじゃないかな? よくこんな場所に町を作る気になったなぁ」

 どう考えても生活は困難だろう。レイは空に浮かびながら森にポッカリと開いた場所を眺めていた。

「行くか。まずは困っている人を助けようっ!」

 レイはあえて目立つように空からゆっくりと町の中心部に向かい下降していった。

「な、なんだぁっ!? 空から人が降ってくるぞ!?」
「ち、違う! ありゃ飛行魔法だ! 領主の仲間かもしれねぇっ! まだ動ける奴呼んできてくれっ!」
「急いでシスターを隠せっ! 彼女を失ったら俺達は終わりだ!」

 レイの姿を見たリーンウッドの住民達が中心部を囲むように武器を持ちレイを待ち構える。レイは住民達に声が聞こえる位置で叫んだ。

「皆さん! 僕は冒険者のレイと申します! オルス大臣の依頼を受け皆さんに食糧を届けに参りました! 僕に敵意はありません! 武器をおろして下さい!」
「し、食糧……? あんた食糧を運んできたのか!」
「はいっ! まずは食糧を配ります! その後崩れたトンネルも補修します!」

 それを見た住民の一人が斧を捨て膝から崩れ落ちた。

「た、助けだ……っ! 助けが来たんだっ! ありがてぇっ、ありがてぇっ!」
「わ、私二日前から何も食べてないのっ! なんでも良いから食べ物を下さいっ!」

 レイは地表に降り立ち住民達に言った。

「肉、野菜、魚介類、酒、お菓子……。今から皆さんに希望する物を配ります! 物資はいくらでもありますので慌てず一例に並んで下さい!」
「「「「「おぉぉぉぉぉっ!」」」」」

 住民達は一斉に武器を放り投げ、荷車や買い物カゴを持ちレイの前に並んでいくのだった。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

収奪の探索者(エクスプローラー)~魔物から奪ったスキルは優秀でした~

エルリア
ファンタジー
HOTランキング1位ありがとうございます! 2000年代初頭。 突如として出現したダンジョンと魔物によって人類は未曾有の危機へと陥った。 しかし、新たに獲得したスキルによって人類はその危機を乗り越え、なんならダンジョンや魔物を新たな素材、エネルギー資源として使うようになる。 人類とダンジョンが共存して数十年。 元ブラック企業勤務の主人公が一発逆転を賭け夢のタワマン生活を目指して挑んだ探索者研修。 なんとか手に入れたものの最初は外れスキルだと思われていた収奪スキルが実はものすごく優秀だと気付いたその瞬間から、彼の華々しくも生々しい日常が始まった。 これは魔物のスキルを駆使して夢と欲望を満たしつつ、そのついでに前人未到のダンジョンを攻略するある男の物語である。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

貴族に無茶苦茶なことを言われたのでやけくそな行動をしたら、戦争賠償として引き抜かれました。

詰んだ
ファンタジー
エルクス王国の魔法剣士で重鎮のキースは、うんざりしていた。 王国とは名ばかりで、元老院の貴族が好き勝手なこと言っている。 そしてついに国力、戦力、人材全てにおいて圧倒的な戦力を持つヴォルクス皇国に、戦争を仕掛けるという暴挙に出た。 勝てるわけのない戦争に、「何とか勝て!」と言われたが、何もできるはずもなく、あっという間に劣勢になった。 日を追うごとに悪くなる戦況に、キースへのあたりがひどくなった。 むしゃくしゃしたキースは、一つの案を思いついた。 その案を実行したことによって、あんなことになるなんて、誰も想像しなかった。

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。 故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。 一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。 「もう遅い」と。 これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

処理中です...