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第三章:ドミナント「瑛斗」視点
支配したい、従わせたい、涙を見たい、幸せにしたい
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首筋に当たる陸久の頬は涙で濡れ、背中に回された腕が小刻みに震えている。
陸久の痛みが自分にまで流れ込んでくるようだ。
「陸久、きっと難しいと思う。陸久に、無理をさせることになる。」
「無理じゃない!」
「……もし……陸久にとってプレイが苦痛じゃなくて、陸久がプレイに付きあってくれることで陸久と別れなくて済むのなら……俺も本当はその方がいい……」
「先輩……」
「でも、きっと陸久を苦しめてしまう。あの夜みたいなことを、俺はまたお前にしてしまうと思う」
「そんなのいくらでもする。先輩と別れる方が、よっぽど苦しいから……」
瑛斗の中で、あの夜から三日間かけて強固にしたはずの決別の覚悟がいとも簡単に崩れ落ちていく。
「陸久……好きだ…。俺も、別れたくない……」
「先輩、コマンド、出して。教科書に載ってたような簡単なやつなら憶えてるから」
瑛斗の胸から顔をあげた陸久が、真剣な顔でそう強請った。
愛する人に向けてコマンドを発する喜びと緊張に、全身の血が沸騰しているようだった。
瑛斗は一度瞬きをして、それからゆっくりと息を吸い、最初の命令を口にした。
「陸久……Kneel」
瑛斗がそう発すると、涙に濡れた顔のまま、陸久が尻をぺたんとつけて正座を崩したようなお座りの姿勢を取った。その姿勢のまま潤んだ瞳で見上げられ、瑛斗の心臓が跳ねた。本能的な歓びが血流を早くさせる。
「Kiss」
普段、恥ずかしがり屋の陸久からキスしてくれることはあまりない。
そんな恋人を、コマンドでコントロールしようとしている罪悪感と背徳的な快感を覚えてしまう。
瑛斗が座ったまま待っていると、陸久はおずおずと顔を近づけ、そっと唇を重ねてくれた。
サブミッシブではない陸久にこれ以上のプレイを求めてはいけないと思うのに、あと少しだけあと少しだけとコマンドを重ねてしまう。
「陸久、Strip……」
「っ……」
照明を落としていない明るい部屋で裸を晒すことを、普段の陸久は好まない。それでも、少しの躊躇ったあと、陸久は着ていたTシャツを脱いでくれた。
しかし、数秒後、陸久はジーンズのボタンに手をかけたまま固まってしまった。
それを見て瑛斗はハッと我に返った。大切な人に、無理をさせてしまったのは確かだった。
「陸久、ごめん……」
「先輩、謝らないで」
瑛斗は陸久の身体を抱き寄せて、小さな後頭部を何度も撫でた。
「陸久、ありがとう……。すごく満たされた……」
「先輩、俺、もっとうまくできるように頑張るから…」
「ありがとう、俺は幸せだよ」
「……先輩、大好き」
胸の中で陸久がそう言った。
愛する人とのプレイで満たされた。コマンドを発し、陸久がそれに従ってくれたとき、まるで喉の渇きが癒されたように、カサついた心に歓びが染み渡った。
それなのに、瑛斗は虚しさを感じないわけにはいかなかった。
陸久はプレイには応えてはくれたけれど、このコミュニケーションで陸久の心が満たされていないことは明らかだった。
ドミナントは確かにサブを支配したいと望む。従わせたいし、涙を見たい。
けれど、その行為を通してサブミッシブに満たされてほしいとも望んでいる。ドミナントは相手を苦しめたいわけではなく、自分の庇護の元で幸せにしたい強く願う性だから。
ーーー
週に一、二回、陸久の部屋に泊まるときにに短いプレイをするようになった。
とは言え、使うコマンドは四つか五つ。
けれど、瑛斗の中では歓びよりも「滑稽だな」と自分を蔑む気持ちが膨らむ一方だった。
自分は、陸久が望みもしない行為を強いている。
少しも楽しくないであろうプレイを、文句も言わずに受け入れてくれる陸久が愛しくて、辛かった。辛いのに止められない。
それどころか、ドミナントとしての欲求はどんどん深くなっていく。
陸久が身に着けるものを自分で選びたい。陸久の血肉になる食事を自分の手で与えたい。拘束してコマンドだけで感じ入る陸久を見たい。動けない陸久を泣き出すまで愛撫してそのまま貫きたい。
それを望まない相手からしたら、狂気としか思えない欲求が高まっていく。
そして、もしそれを瑛斗が望んだとしたなら、きっと陸久はそれを受け入れるだろうという確信があった。どれほど苦痛でも、どれほど屈辱的でも。
そしてそんなことを続けているうちに、きっと陸久の心は自分から離れていくことだろう。
軽蔑され、楽しかった思い出もすべて忘れたい過去にされてしまうのだろう。
そんな想像をしたら、胸が張り裂けてしまいそうだった。
陸久の痛みが自分にまで流れ込んでくるようだ。
「陸久、きっと難しいと思う。陸久に、無理をさせることになる。」
「無理じゃない!」
「……もし……陸久にとってプレイが苦痛じゃなくて、陸久がプレイに付きあってくれることで陸久と別れなくて済むのなら……俺も本当はその方がいい……」
「先輩……」
「でも、きっと陸久を苦しめてしまう。あの夜みたいなことを、俺はまたお前にしてしまうと思う」
「そんなのいくらでもする。先輩と別れる方が、よっぽど苦しいから……」
瑛斗の中で、あの夜から三日間かけて強固にしたはずの決別の覚悟がいとも簡単に崩れ落ちていく。
「陸久……好きだ…。俺も、別れたくない……」
「先輩、コマンド、出して。教科書に載ってたような簡単なやつなら憶えてるから」
瑛斗の胸から顔をあげた陸久が、真剣な顔でそう強請った。
愛する人に向けてコマンドを発する喜びと緊張に、全身の血が沸騰しているようだった。
瑛斗は一度瞬きをして、それからゆっくりと息を吸い、最初の命令を口にした。
「陸久……Kneel」
瑛斗がそう発すると、涙に濡れた顔のまま、陸久が尻をぺたんとつけて正座を崩したようなお座りの姿勢を取った。その姿勢のまま潤んだ瞳で見上げられ、瑛斗の心臓が跳ねた。本能的な歓びが血流を早くさせる。
「Kiss」
普段、恥ずかしがり屋の陸久からキスしてくれることはあまりない。
そんな恋人を、コマンドでコントロールしようとしている罪悪感と背徳的な快感を覚えてしまう。
瑛斗が座ったまま待っていると、陸久はおずおずと顔を近づけ、そっと唇を重ねてくれた。
サブミッシブではない陸久にこれ以上のプレイを求めてはいけないと思うのに、あと少しだけあと少しだけとコマンドを重ねてしまう。
「陸久、Strip……」
「っ……」
照明を落としていない明るい部屋で裸を晒すことを、普段の陸久は好まない。それでも、少しの躊躇ったあと、陸久は着ていたTシャツを脱いでくれた。
しかし、数秒後、陸久はジーンズのボタンに手をかけたまま固まってしまった。
それを見て瑛斗はハッと我に返った。大切な人に、無理をさせてしまったのは確かだった。
「陸久、ごめん……」
「先輩、謝らないで」
瑛斗は陸久の身体を抱き寄せて、小さな後頭部を何度も撫でた。
「陸久、ありがとう……。すごく満たされた……」
「先輩、俺、もっとうまくできるように頑張るから…」
「ありがとう、俺は幸せだよ」
「……先輩、大好き」
胸の中で陸久がそう言った。
愛する人とのプレイで満たされた。コマンドを発し、陸久がそれに従ってくれたとき、まるで喉の渇きが癒されたように、カサついた心に歓びが染み渡った。
それなのに、瑛斗は虚しさを感じないわけにはいかなかった。
陸久はプレイには応えてはくれたけれど、このコミュニケーションで陸久の心が満たされていないことは明らかだった。
ドミナントは確かにサブを支配したいと望む。従わせたいし、涙を見たい。
けれど、その行為を通してサブミッシブに満たされてほしいとも望んでいる。ドミナントは相手を苦しめたいわけではなく、自分の庇護の元で幸せにしたい強く願う性だから。
ーーー
週に一、二回、陸久の部屋に泊まるときにに短いプレイをするようになった。
とは言え、使うコマンドは四つか五つ。
けれど、瑛斗の中では歓びよりも「滑稽だな」と自分を蔑む気持ちが膨らむ一方だった。
自分は、陸久が望みもしない行為を強いている。
少しも楽しくないであろうプレイを、文句も言わずに受け入れてくれる陸久が愛しくて、辛かった。辛いのに止められない。
それどころか、ドミナントとしての欲求はどんどん深くなっていく。
陸久が身に着けるものを自分で選びたい。陸久の血肉になる食事を自分の手で与えたい。拘束してコマンドだけで感じ入る陸久を見たい。動けない陸久を泣き出すまで愛撫してそのまま貫きたい。
それを望まない相手からしたら、狂気としか思えない欲求が高まっていく。
そして、もしそれを瑛斗が望んだとしたなら、きっと陸久はそれを受け入れるだろうという確信があった。どれほど苦痛でも、どれほど屈辱的でも。
そしてそんなことを続けているうちに、きっと陸久の心は自分から離れていくことだろう。
軽蔑され、楽しかった思い出もすべて忘れたい過去にされてしまうのだろう。
そんな想像をしたら、胸が張り裂けてしまいそうだった。
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