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第五章:ドミナント「瑛斗」視点
近づきたくて、だからこそ遠ざけた
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瑛斗が大学を卒業するその日は、少し肌寒いものの、雲一つない巣立ちに相応しい晴天だった。
大手商社に就職を決めていた瑛斗は、仕事のためにと何着か揃えたスーツの中から紺色のスーツを選び、卒業式に出席した。
瑛斗は元々精悍な顔立ちと大きな体躯で人目をひく男ではあったが、ドミナントとして覚醒して以来、少し威圧的ともとれる力強さが加わって、どこにいても人々の視線を集めた。
陸久と別れて半年が経とうとしていたが、瑛斗はそんな自身の変化を静かに受け止めていた。
最初は拒否したくてたまらなかったドミナントという血が、自分の全細胞にまで染み入り、どうしようもなく馴染んでいることを感じていた。
式典が終わり、講堂の前で友人たちと喋っていた瑛斗の携帯が鳴った。
別れて以来、一度も表示されることのなかった陸久の名前がそこにはあった。
瑛斗は仲間たちの輪から外れ、通話ボタンをタップした。
「もしもし、陸久?」
「先輩……」
「どうした?」
「卒業、おめでとう」
「……ありがとう」
「あの……五分だけ……逢えないかな。今、学校に来てる」
「どこにいる?」
「カフェテリアに」
「分かった。すぐに行くよ」
電話を切ると、瑛斗はカフェテリアへと急ぎ足で向かった。
別れてから、構内で陸久を見かけるたびに敢えて距離をとった。近づきたくて、だからこそ遠ざけた。
触れることはなくなっても、喋らなくなっても、陸久への気持ちが薄れることはなかった。
陸久への変わらない気持ちを抱えながら、プレイのためだけにアプリで見つけたサブミッシブと関係を持った。
食欲を満たさなければやがて餓死してしまうように、ダイナミクスを持つ人間はプレイで欲求を満たさない限り、精神状態が危うくなる。
プレイへの飢餓感から犯罪を犯してしまうドムサブ向けの隔離病棟があることも知った。
ただ、プレイやセックスに近い行為はしても、最後の挿入だけはしていなかった。まったく気持ちのない相手と、避妊具越しにでも粘膜を触れ合わせる行為をする気にはなれなかった。
それは瑛斗なりの誠意であり、礼儀でもあった。
また、そうすることで相手との間にいつも線を引いていた。その線を越えようと相手が望み始めると、瑛斗はいつも関係を解消した。瑛斗が求めているのは心を癒しくれる恋人ではなく、ドミナントとしての渇きを癒してくれるプレイのための相手だったから。
虚しい関係なのに、その虚しい関係を続けない限りまともな日常生活を送れない自分は滑稽だった。
いつか、何年後かに自分の心から陸久がいなくなり、二人の間にあったことがすべて優しい思い出に変わったら、そのときは愛することのできるサブミッシブを見つけて、心の通ったプレイとセックスができるようになるだろう。
自然にそんな時が訪れるまでは、陸久を愛し続けようと決めていた。
それが、苦しみながらも別れを受け入れてくれた陸久への、せめてもの感謝の表し方だった。
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最初は拒否したくてたまらなかったドミナントという血が、自分の全細胞にまで染み入り、どうしようもなく馴染んでいることを感じていた。
式典が終わり、講堂の前で友人たちと喋っていた瑛斗の携帯が鳴った。
別れて以来、一度も表示されることのなかった陸久の名前がそこにはあった。
瑛斗は仲間たちの輪から外れ、通話ボタンをタップした。
「もしもし、陸久?」
「先輩……」
「どうした?」
「卒業、おめでとう」
「……ありがとう」
「あの……五分だけ……逢えないかな。今、学校に来てる」
「どこにいる?」
「カフェテリアに」
「分かった。すぐに行くよ」
電話を切ると、瑛斗はカフェテリアへと急ぎ足で向かった。
別れてから、構内で陸久を見かけるたびに敢えて距離をとった。近づきたくて、だからこそ遠ざけた。
触れることはなくなっても、喋らなくなっても、陸久への気持ちが薄れることはなかった。
陸久への変わらない気持ちを抱えながら、プレイのためだけにアプリで見つけたサブミッシブと関係を持った。
食欲を満たさなければやがて餓死してしまうように、ダイナミクスを持つ人間はプレイで欲求を満たさない限り、精神状態が危うくなる。
プレイへの飢餓感から犯罪を犯してしまうドムサブ向けの隔離病棟があることも知った。
ただ、プレイやセックスに近い行為はしても、最後の挿入だけはしていなかった。まったく気持ちのない相手と、避妊具越しにでも粘膜を触れ合わせる行為をする気にはなれなかった。
それは瑛斗なりの誠意であり、礼儀でもあった。
また、そうすることで相手との間にいつも線を引いていた。その線を越えようと相手が望み始めると、瑛斗はいつも関係を解消した。瑛斗が求めているのは心を癒しくれる恋人ではなく、ドミナントとしての渇きを癒してくれるプレイのための相手だったから。
虚しい関係なのに、その虚しい関係を続けない限りまともな日常生活を送れない自分は滑稽だった。
いつか、何年後かに自分の心から陸久がいなくなり、二人の間にあったことがすべて優しい思い出に変わったら、そのときは愛することのできるサブミッシブを見つけて、心の通ったプレイとセックスができるようになるだろう。
自然にそんな時が訪れるまでは、陸久を愛し続けようと決めていた。
それが、苦しみながらも別れを受け入れてくれた陸久への、せめてもの感謝の表し方だった。
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