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三年も外に出ていなかったなんて許しません。
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今日もベルン公爵と一緒に昼食をとる。
ベルン様はいわゆる引きこもりだ。しかし、仕事をしていないわけでもないらしい。
その証拠に、野獣公爵に治められた領土だといわれながらも、フェンディス公爵家の領土はとても栄えている。
屋敷には、定期的に王都からの使者や、ベルン公爵の手足として働く人間が訪れる。
その人たちに姿を見せることはないけれど、全ては書類だけの指示で事足りるらしい。
ベルン公爵の意見で成立した法案も多々ある。その他に、良く知っている建物の設計までしたらしい。
いくつか聞いてみたけれど画期的だと注目を集めたものばかりだった。
それらをすべて部屋の中にいながら作り出していたベルン公爵……天才は存在していたのだ。
「――――本当に外で食べる気か?」
そんな風に尊敬しかけていたのに、ベルン公爵がもう5度目の確認を私にしてきた。
なんていうか、そういうところですよ? でも、そういうところがむしろ可愛いのではないかと思ってしまう最近の自分が残念だ。
「だって建物の外にもう三年以上出ていないなんてありえますか?」
「――――バルコニーには時々日光浴のため出ていた」
「それは、私の中では屋内です。――――こんなに広いお庭があるんですから、一緒にここで食べましょう?」
「そう……だな」
同意してくれたにもかかわらず、正面玄関まできてベルン公爵は歩みを止めてしまった。
その手は小刻みに震えるほど強く握りしめられている。
もしかしたら、外に出ることに強い不安があるのかもしれない。
精神的ストレスは、毛並みに良くない。
「仕方がないですね。ほら、手をつなぎましょう」
「え?」
構わず私は、ベルン公爵の手を掴む。
相変わらず手の先までモフモフで好感が持てる。
「一緒に外で食べたいです。私が連れて行ってあげますよ」
すでに外には、食事の準備ができている。
セバスチャンに手伝ってもらって、テーブルも椅子も、敷物だって用意してある。
今日の料理は、この前ベルン公爵が好きだと言っていたフルーツとクリームをはじめとした色とりどりのサンドイッチ。
さらにはデザートもたくさん作ってある。完璧だ。完璧なピクニックだ。
「一緒に?」
少しだけベルン公爵が微笑んだように見えた。
毛並みは素敵だけれど、その表情が見れないのだけは少し不便だと思う。
「そうですよ? 私に一人で食事させる気ですか?」
「そうだな……。一人で食事するのは味気ないからな」
その瞬間、私の胸がズキリと痛んだ。
だって、私が来るまでベルン公爵はずっと……。
それじゃ、毛並みだって艶をなくしてしまうに決まっている。
暖かい日差しの中、ベルン公爵が屋敷の庭に踏み出した。
その歩みにはもう迷いがない。
私が差し出した手は、いつの間にか逆にエスコートされるみたいになっていた。
まるで貴公子のようにエスコートしたり、今だって私のために椅子を引いて座るのを手伝ってくれた。
そういうところ、ずるいと思う。いつもはただの至高のモフモフのくせに。
まあ、公爵家で育ったお方だった。正真正銘の貴公子だ。そういう教育を受けているのが当然と言えば当然なのかもしれないけれど。
前世の記憶がある私にとっては新鮮で、そして照れくさい。
そのことをごまかすように、私は今日の料理について語ることにした。
「腕によりをかけて作ったんですよ」
「そうか。なんだか、いつも以上に美味しそうに見えるな。それに、このあいだ美味しいと言ってたフルーツのサンドイッチ。覚えていてくれたんだな」
「覚えているに決まってます。それに、ピクニックで食べる食事はいつもよりおいしいに決まってますからね?」
私の手によって植えられた花々が咲き誇るまではあと少し時間が掛かるだろう。
でも、その時を待ち遠しく思いながら、こんな風に食事をするのも楽しみの一つだ。
私は、いつもよりおいしく感じるサンドイッチをかじりながら、ベルン公爵に微笑みかける。
たぶんベルン公爵も、私に微笑み返してくれた。
やっぱり大好きなモフモフだけど、ベルン公爵の表情が見えないことだけはとても残念だと思った。
今日もベルン公爵と一緒に昼食をとる。
ベルン様はいわゆる引きこもりだ。しかし、仕事をしていないわけでもないらしい。
その証拠に、野獣公爵に治められた領土だといわれながらも、フェンディス公爵家の領土はとても栄えている。
屋敷には、定期的に王都からの使者や、ベルン公爵の手足として働く人間が訪れる。
その人たちに姿を見せることはないけれど、全ては書類だけの指示で事足りるらしい。
ベルン公爵の意見で成立した法案も多々ある。その他に、良く知っている建物の設計までしたらしい。
いくつか聞いてみたけれど画期的だと注目を集めたものばかりだった。
それらをすべて部屋の中にいながら作り出していたベルン公爵……天才は存在していたのだ。
「――――本当に外で食べる気か?」
そんな風に尊敬しかけていたのに、ベルン公爵がもう5度目の確認を私にしてきた。
なんていうか、そういうところですよ? でも、そういうところがむしろ可愛いのではないかと思ってしまう最近の自分が残念だ。
「だって建物の外にもう三年以上出ていないなんてありえますか?」
「――――バルコニーには時々日光浴のため出ていた」
「それは、私の中では屋内です。――――こんなに広いお庭があるんですから、一緒にここで食べましょう?」
「そう……だな」
同意してくれたにもかかわらず、正面玄関まできてベルン公爵は歩みを止めてしまった。
その手は小刻みに震えるほど強く握りしめられている。
もしかしたら、外に出ることに強い不安があるのかもしれない。
精神的ストレスは、毛並みに良くない。
「仕方がないですね。ほら、手をつなぎましょう」
「え?」
構わず私は、ベルン公爵の手を掴む。
相変わらず手の先までモフモフで好感が持てる。
「一緒に外で食べたいです。私が連れて行ってあげますよ」
すでに外には、食事の準備ができている。
セバスチャンに手伝ってもらって、テーブルも椅子も、敷物だって用意してある。
今日の料理は、この前ベルン公爵が好きだと言っていたフルーツとクリームをはじめとした色とりどりのサンドイッチ。
さらにはデザートもたくさん作ってある。完璧だ。完璧なピクニックだ。
「一緒に?」
少しだけベルン公爵が微笑んだように見えた。
毛並みは素敵だけれど、その表情が見れないのだけは少し不便だと思う。
「そうですよ? 私に一人で食事させる気ですか?」
「そうだな……。一人で食事するのは味気ないからな」
その瞬間、私の胸がズキリと痛んだ。
だって、私が来るまでベルン公爵はずっと……。
それじゃ、毛並みだって艶をなくしてしまうに決まっている。
暖かい日差しの中、ベルン公爵が屋敷の庭に踏み出した。
その歩みにはもう迷いがない。
私が差し出した手は、いつの間にか逆にエスコートされるみたいになっていた。
まるで貴公子のようにエスコートしたり、今だって私のために椅子を引いて座るのを手伝ってくれた。
そういうところ、ずるいと思う。いつもはただの至高のモフモフのくせに。
まあ、公爵家で育ったお方だった。正真正銘の貴公子だ。そういう教育を受けているのが当然と言えば当然なのかもしれないけれど。
前世の記憶がある私にとっては新鮮で、そして照れくさい。
そのことをごまかすように、私は今日の料理について語ることにした。
「腕によりをかけて作ったんですよ」
「そうか。なんだか、いつも以上に美味しそうに見えるな。それに、このあいだ美味しいと言ってたフルーツのサンドイッチ。覚えていてくれたんだな」
「覚えているに決まってます。それに、ピクニックで食べる食事はいつもよりおいしいに決まってますからね?」
私の手によって植えられた花々が咲き誇るまではあと少し時間が掛かるだろう。
でも、その時を待ち遠しく思いながら、こんな風に食事をするのも楽しみの一つだ。
私は、いつもよりおいしく感じるサンドイッチをかじりながら、ベルン公爵に微笑みかける。
たぶんベルン公爵も、私に微笑み返してくれた。
やっぱり大好きなモフモフだけど、ベルン公爵の表情が見えないことだけはとても残念だと思った。
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