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きっとチャンスは何度もないから。

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 ようやく参加者のほとんどと挨拶を済ませた私たちは、お兄様、アルト様と合流した。

「――――セリーヌ。お前、何か感じたか?」

「お兄様……?」

 お兄様は、聖女と勇者の末裔であるリオーヌ公爵家の嫡男にふさわしく、光の魔力を持っている。
 一般的には、光の魔力を持っていれば聖騎士になることが多いが、「頭を使う方が性に合っている」と、文官の道に進んだお兄様。最近では宰相に一番近いとも言われている。

「あの瞳、お前はあまり見ないようにしろ? 明らかに何かがおかしかった」

 やっぱり、さっきの感覚。どう考えても何かの力でそう思わされたという方が納得がいく。
 でも、ウィルド伯爵は幼い。あんなに可愛い見た目をしているのに。

「――――誰かを疑ったりしないのはセリーヌのいいところだが、それは時と場合によるな」

「「同感だ……」」

 そんなことを言って、子ども扱いするお兄様と、それに同意する婚約者と幼馴染。
 こういう時だけ、意見を統一するのはやめて欲しいと思う。

「――――ところで、お兄様。ずっと気になっていたんですけれど」

「なんだ?」

「どうして、お兄様とアルト様はいつもお揃いなのですか?」

「……第二王女殿下の指示だ」

 ……なぜか、第二王女殿下が二人の衣装を手配しているらしい。
 アルト様とお兄様、二人の噂の出所を掴んでしまったかもしれない。

 今日の装い、二人は淡いグレーの盛装。紅い髪と青い髪を引き立てる色合い。
 第二王女殿下とは、話が合うのかもしれない。
 王太子の婚約者としての教育を受けている間、厳しい印象が強かったけれど、ぐっと親近感を感じてしまう。

「話を逸らすな……。あの目を見て……」

「お話のところ失礼します。リオーヌ公爵令嬢……少しお話の機会をいただけませんか」

 まるで、その会話を待っていたように再びウィルド伯爵が私たちに話しかけてきた。
 私は、念のためその瞳を注視しないように気を配る。

「――――申し訳ないのですが、そろそろ我々は」

 断ろうとしたベルン公爵の言葉を遮る。
 だって、チャンスはきっとそんなにたくさんないのだから。
 たとえ、危険が伴うのだとしても。

「わかりました」

 三人が揃って眉を寄せて私のことを見つめる。
 たしかに、微笑んでいる約束だったけど……。
 どう見ても、深刻な様子のウィルド伯爵。このままにしておくわけにはいかない。

 それに、ベルン公爵にはあまり時間がない。
 何でもないように過ごしているけれど、時々火花のような魔力が溢れだすのを抑え込んでいるのに私だって気がついている。

 それなら、少しでも核心に迫る必要がある。
 たぶん、ほかの乙女ゲームに比べても多様すぎた、悪役令嬢の断罪ルート。
 それが、現状を打開するためのヒントになっている気がするから。

「はー。予想通りか……。私も同席させていただきます。これは譲れない」

「もちろんです。ぜひ、フェンディス公爵とも話がしたいと思っていました」

 ウィルド伯爵は、まるでこうなるのが分かっていたかのように微笑む。

 会話が終わるのを待っていたかのように、家令のヴィルヘルムさんが私たちを別室へと案内する。

 まるで、以前のフェンディス公爵家みたいに、厚い暗幕みたいなカーテンが下がる廊下を通って、私とベルン公爵は重厚な作りの暗い部屋へと案内された。
 
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