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幼馴染と元婚約者と魔道具

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 すっかり、疲れ切って私が眠りこけている真夜中。
 イースランド領主の館の応接室には、まだ魔道具の明かりが灯っていた。

「どういうおつもりですか?」

「アルトが、そんな怖い顔するなんて、珍しいね?」

「冗談はやめてください」

 そこにいるのは、真っ赤な髪に困惑と少しの苛立ちを黒い瞳に宿した美丈夫と、足を組んで王者の貫禄を醸し出す金髪碧眼の麗しい美男子。
 向き合った二人は、知らない者が見たら険悪な雰囲気にも見えるし、二人の関係をよく知っている人間が見ればお互いの本音を言い合えるような気を許した中にも見えただろう。

「気持ちの整理もつかないうちに、無自覚のまま押しかけてきたんだ。少しぐらい意地悪してもいいだろう?」

「幼馴染は、真っすぐな性格で、つつくと直ぐにあらぬ事件を引き起こします。お気持ちは分かりますが、お控えいただきますよう」

「事実か。気を付けるよ。でも、相変わらず、過保護だよね。そんなに幼馴染が大事?」

「命に代えても守り抜くと決めている、大事な人なのは間違いないですね」

 しかし、アルト様のそれは、忠義や敬愛、そして幼馴染への行き過ぎた庇護欲から来るもので、愛と呼ぶのは違うのかもしれない。少なくとも私は、アルト様との関係は、きっと死ぬまで大事な幼馴染として、お互いを助け合うのだと信じている。

「それにしても……応接室の鏡は、魔道具だったんだな」

「フェンディス公爵が作成されたものだと言っていました。先代の領主とは親交があったとか」

「あの天才は、魔道具作成も手掛けているのか……。遠方と会話ができる魔道具とか、戦況が反転するぞ。……この建物の設計も彼が手掛けていたらしいな。脱出経路も、隠し部屋もすべて手の内というわけか。むしろ、俺のまだ知らない抜け道や、隠し部屋、それに仕掛けがあってもおかしくないな」

「ま、あるでしょうね。ベルン・フェンディスですから」

「そうだな。手の上で踊らされている気がして癪だが」

『俺が、この場にいないと思って、言いたい放題だな? あと、セリーヌにかけた言葉、全部聞こえていましたよ? 我妻を奪おうとするなら、フェンディス公爵家と、イースランド領で戦争になりますが、よろしいですか?』

 呆れたような、ため息をついた直後のような、それでいて本気を感じるブリザードのようなベルン公爵の声が、この館に到着した直後の私と、エルディオ様が会話をしていた応接室に響いていた。

「はは、勘弁してくれないか」

 ここまでの会話を聞いていたわけではない私は、知らなかったけれど、ベルン公爵が自分を置いてイースランド領に行くことを許した理由の一つに、イースランド領主の館を自身が設計し作り上げていることがあったらしい。後日、種明かしされた時には、驚愕を通り越して呆れてしまった。

 この場所は、様々な仕掛けが眠っている。国防の要としてベルン公爵が依頼を受けて作成した。
 その起動方法を知るのは、今はベルン公爵ただ一人……。

 あとからその話を聞いた時には、エルディオ様のことを二度見した。どうして、ベルン公爵や私が裏切ったら、自身のことを追い詰めるような屋敷に平然と住み続けているのだと、詰め寄りかけたのは、悪くないと思う。

「セリーヌを信じているから。いざとなったら、フェンディス公爵を止めてね?」

 平然と言ってのけるエルディオ様の言葉に、私は「くぅ。誰かからの信頼が、ここまで重いと感じたのは、初めてです」と、肩を落とすしかなかった。
 ベルン公爵が、引きこもっていた十年間に、王都の建物を多数設計していることは知っていたけれど、まさかイースランド領主の館まで手掛けていたとは。

 けれど、この時の私は、その事実を知ることもなく、ベルン公爵の声を聴くこともできずに、ぐっすりと眠っていた。そして、いよいよ続編は動き出すのだ。ヒロインたちの手によって。
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