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だ、旦那様、ですか?

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「それで、昨日の朝の胸焼けしそうな空気に比べ、今朝は一体どうしたんだ?」

 青い髪と瞳の、セルゲイ・リオーヌお兄様が、いぶかし気に私たちを見つめる。
 その隣には、ストロベリーブロンドのヒロイン。

「――――なっ、何でもないです!」

「どう考えても、何でもないという感じではないよな?」

 だって、出会ったばかりで、好きだと気が付いたばかりの王子様、あるいは至高のモフモフが、実は私の旦那様だったとか言われて、冷静でいられますか?

 私には、無理でした。そんな、究極の理想形が私の旦那様……。
 え? 本当に?

 なんだかもったいないような気がしてくる。
 だって、急に家族になってしまうなんて。

「もう少し黙っていればよかったかな? でも、ほかの人間に取られてしまったらと思うと、いてもたってもいられなかったんだ。ごめんね? セリーヌ」

 ほほ笑んでくるベルン公爵は、今日も、モフモフ姿のままだ。
 どうしよう。どうして、あんなふうに当たり前のように、その腕に飛び込むことが出来たのだろう。

「――――旦那様」

 ボフンッと音がした気がする。顔が赤く染まってしまったのを自覚する。

「ところで、ベルン。その姿のまま、過ごすのか?」

「――――ああ。後で話がある。エルディオ殿もいいだろうか」

 三人がそろって頷いているのを、赤くなった頬を何とか手のひらで冷やそうとしながら、見つめる。

「「ああ」」

 お兄様と、エルディオ様が当たり前のように「是」と答える姿をぼんやりと見つめているうちに、私の腕は、がっしりと、思いのほかに力強いヒロインの腕に絡み取られていた。

「――――アイリ様?」

「同郷だから。それだけよ……」

 ヒロインは、全ての登場人物を魅了する。
 それはもしかすると、悪役令嬢すら例外ではないのかもしれない。

「こっちに来なさい! 私、あなたに言いたいことがあるの!」

 なんだろう。
 アイリ様とは、ずっと一緒にいたような気がする。
 放課後の教室で、文化祭の日に夕日を背にして語り合ったような、感覚。

「アイリ様……」

「――――覚えていないくせに、どうして当たり前のように、シナリオに巻き込まれているの」

「え?」

「私だけなら、もしかしたら、ハードモードで済んだかもしれないのに……」

 いい子なのだ。どうして、彼女は表にそれを出そうとはしないのだろうか。
 そして、彼女のいいところを余すところなく知っているらしいお兄様、グッジョブ。

「――――なに、その目」

「友達に、なりたいなと思って」

 その瞬間、お兄様でない人に、ましてや私、相手に真っ赤になって「――――もう、友達だと思っていたのだけれど」と、いったアイリ様のことを、たぶん私は、今度こそ一生忘れることが出来ないだろうと思った。
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