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パーティーのお誘い 4

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 ***

 パーティー会場は、人であふれかえっていた。
 いくら国内で有数の軍事力と広大な領土を持つリーフ辺境伯領に、新たな領主が誕生したからといっても、想像以上だ。

(国内の有力貴族のほとんどが集まっているわ……)

 私が嫁いだ三年前までは、リーフ辺境伯は、王都のしきたりや流行など知らない田舎貴族だと言われていたはず……。

「すごいですね」
「ええ、本当に……」
「いったい何があったのでしょう」

 私の問いに答えることなく、レザール様の思いのほかたくましい腕に掴まっていた手が、そっと引き寄せられる。

「ほら、会場中の注目を浴びていますよ」
「…………覚悟の上です」

 王太子との婚約を破棄されて、五十歳年上の辺境伯と結婚し、今は年下の王子からエスコートを受けている。

「……悪役令嬢を卒業して、悪女になってしまったらしいわ」
「悪女? ……フィアーナが?」

 クスッと、笑い声がして見上げると、すでにレザール様は王族として感情が読めない表情に戻っていた。
 でも聞き間違いなどではない、確かに今のはレザール様の口元からこぼれた笑い声だ。

「さ、行きましょうか」
「はい……」

 会場の中心には、初めてお会いするリーフ前辺境伯の息子。

「初めまして。フィアーナ・リーフです」
「こちらこそ初めまして。バラード・リーフです。父や息子からの手紙にいつも書かれていたので、初めてという気が致しません」

 そして、私よりもずいぶん年が上だけれど、義理の息子。
 笑った顔は、リーフ前辺境伯にそっくりで、目頭がツンとしてしまう。
 けれど、今は泣いている場合ではないし、それよりも気になることがある。

「手紙?」
「ええ。恥ずかしながら、愛する人と添い遂げるために駆け落ちしましてね。父とは疎遠になっていたのですが……。あなたがリーフ辺境伯領に来てくださってから、父から手紙が届くようになったのです」
「そうだったのですね」
「しかし……。その髪に、その瞳。よく似ている」

 私を見下ろす瞳は、金色でどこか懐かしいものを見るように細められている。
 その視線は、私を見つめるリーフ前辺境伯が時々していたものだ。

「誰に、似ているのですか……?」
「ああ、父はあなたに言っていなかったのですね。とても、母によく似ていると」
「…………奥様に」

 初めのうちは、縁もゆかりもないはずの私をあんなにも助けてくれたことを不思議に思っていた。

 亡くなった奥様に似ていたからなのだろうか。
 確かに、ゲームの設定にはのっていなかったけれど、私の母は隣国の姫君で、リーフ前辺境伯の奥様は、隣国の王族、母の伯母だ。
 私と奥様は血が繋がっているし、隣国の王族を現わす髪と瞳を持っている。

(そうだったのですね。だから時々、私に誰かを重ねるように……)

 どうして、こんなによくしてくれたのか戸惑っていたけれど、その理由が分かって少し安心する。
 違う世界の記憶を取り戻した途端に、悪役令嬢として断罪された私は、何も持っていなかったから、濡れ衣を晴らしとても大切にしてくれることが不安でもあったから……。

「…………愛する人と」
「ところで、王都で一つの恋物語が話題になっていますね。父からの手紙に書いてありましたから、全ての力を注いで応援したいと思っています」
「え? 恋物語!?」

 そんな噂、耳にしたことがなかったけれど、ものすごく興味がある。
 いったいどんな話なのかと、一歩前に出てしまった私は、衝撃の事実を知ることになるのだった。
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