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瑠璃色の宝石のおつり
しおりを挟む室内は、静かで、あまりに何もない。
先日、飲み慣れない葡萄酒に酔ってしまったときと違って、妙に冷静で、心臓の音だけが響き渡っているようにすら思える。
「濡らしてしまってすまなかった」
「いえ、ほんの少しですから。それより風邪を引いたら大変です。着替えてください」
「……ルナシェは」
「すぐに乾きますよ」
確かに、びしょ濡れのベリアスに抱き上げられたせいで、服は湿っているけれど、ルナシェは着替えもないから仕方がない。
「……とりあえず、届くまでこれを」
バサリと投げてよこされたのは、ベリアスのマントだった。儀礼用ではないそれは、いざという時、多目的に使えるようにだろう。分厚くて重い素材で出来ている。
(何でこんなに安心できるのかしら……)
不思議に思いながらも、マントを引き寄せてスッポリと包まるルナシェ。
温かさ包まれてホッと息を吐く。思っていたよりも、体は冷えていたらしい。
(でも、乾くではなくて届く?)
その時、扉を叩く音がした。
ベリアスが、細く開けた隙間から何かを受け取っている。
ルナシェの角度からは、それしか見えない。
バタンと閉まった扉。
振り返ったベリアスは、淡い水色の布を手に持っていた。
ベリアスが近づいてくるのを、マントに包まったままルナシェは、どこか人ごとのように眺めていた。
緊張しすぎると、逆にそんな風に状況を他人事のように見てしまうものなのかもしれない。
「ほら、ルナシェこそ風邪を引いてほしくない。着替えてくれ」
「どうなさったのですか、これ」
明らかに、砦のある激戦地では、手に入らないだろうエンパイアラインの優美なドレス。
淡い水色は、丁寧に染め上げられていることがわかる。
「瑠璃色の宝石のおつりで手に入れた」
「おつり?」
サラサラと柔らかくて、手触りの良い布地のドレス。
(こんな上質なものが、おつりで手に入るはずないと思うのだけれど)
ルナシェは知らないが、実際にこのドレスは、瑠璃色の宝石を買い戻したおつりで手に入れたものの一つだ。
そして、今回、ベリアスが手に入れたものの中では、最もかわいらしい価値しかないだろう。
「ほら、早く着替えなさい」
「はい……。ベリアス様も着替えてくださいね?」
「ああ」
湿ったままの髪を邪魔そうにかき上げたベリアスは、ルナシェにとって今日も余裕のある大人に見えた。
(……やっぱり、あの頃と同じで、子ども扱いは、変わらないのね)
ルナシェは、促され別室で着替えた。
まるで誂えたように、ルナシェの体にぴったりだ。
まるで初夏の風のように軽やかなドレスをまとったルナシェ。
部屋に戻ると、まだ髪は湿っているものの、スッキリとしたシャツにトラウザーズ姿のベリアスが、ベッドに座ってこちらを見ていた。
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