この婚約は白い結婚に繋がっていたはずですが? 〜深窓の令嬢は赤獅子騎士団長に溺愛される〜

氷雨そら

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君の言葉だから

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(キスされたことも、宝物だと言われたことも、キスされたことも……)

 どんな顔で、ベリアスを見ていいのか分からなくなったルナシェは、両手で顔を覆ってしまう。
 あまりに不意打ちだった。確かに、ルナシェはベリアスが大好きで、決して嫌ではない。
 でも、ずっと義務で一緒にいてくれるだけだと思っていたし、一緒に過ごした三日間は、おいしいスイーツを食べて、おいしい夕食を食べて、おいしい朝ご飯を食べて…………。

(わ、私。三日間、食べてばかりだったわ!)

 二人の間に、そんな空気は一度だってなかったはずだ。
 それなのに、確かに今、ルナシェとベリアスの唇は触れあった。
 まるで、手が届かない氷の壁が、一瞬でとけてしまったかのように、二人の距離は近づいた。

「…………ふむ。と、いうことは当てが外れたな」
「え? なにがですか」
「三ヶ月耐えれば、ルナシェと一緒にしばらく過ごせると考えていたのだが……。残念だ」

 赤く染まってしまった頬を隠すのも忘れて、目を見開いたルナシェがまっすぐにベリアスを見つめた。

「そのまま、信じるのですか?」

 ルナシェだって、こんな話を聞いたところで、こんな風にまっすぐ信じるなんてできない。
 できないはずなのに、ベリアスはなぜか信じてしまったようだ。

「当たり前だろう?」
「なぜ…………」
「君の言葉だからだ」

 笑った顔が、幼く見えて、あまりに危うくて、ルナシェは心配になってしまう。
 鬼団長とか、冷酷団長とか、戦場の赤い悪魔とか、ベリアスに関して流れてくる噂は、物騒な内容が多かった。

 初対面の日、優雅に礼をして微笑んだベリアスの姿が焼き付いていなければ、婚約を打診されても、ルナシェが頷いたかどうか分からないくらいだ。

 そんな人が、ルナシェを前に、人生をやり直していることを素直に受け入れて無垢な笑顔を向けている。

(え? 私が、ベリアス様をだまそうとしていたら、どうするつもりなの?)

 もちろん、ルナシェがベリアスをだますなんてあるはずがない。
 でも、心配になってしまうのも仕方がない、とルナシェは思った。

 顔色を赤くしたり青くしたり、コロコロと表情を変えるルナシェ。
 辺境伯令嬢として過ごしているときには、ルナシェだってそんなにも表情を変えることなんてない。そんなことにも気がつかないまま、いつの間にかベリアスの前でだけは、ルナシェの仮面も剥がれてしまう。

「さて、そろそろ本当のことを話してくれるかな? 俺は、全部受け入れる用意ができている」

 そんなことを言われて、うそをならべたてるなんて、ルナシェにできるはずがない。
 だってもう、辺境伯令嬢として磨いてきたはずの淑女の仮面なんて、完全に剥がれてしまったのだから。

「――――う、うう。あの、ベリアス様が戦場で命を落とした原因も、砦が落ちた原因も、私が隣国と内通していたからだと」
「は?」
「――――それを理由に私、実は、処刑されてしまいまして……」

 目の前のベリアスの顔色が、あっという間に蒼白になった。
 そして、いつもは穏やかな風に吹かれる草原みたいな瞳が、あっという間に氷点下の氷に閉ざされていく。

「は? …………誰だ、ルナシェを貶めた人間は」
「え? そこに一番怒るのですか? 少しは疑いましょう?!」
「俺が君を疑うはずないだろう?」
「そ、そうなんですか?」

 あまりの殺気に動きを止めてしまったルナシェに気がついたベリアスは、瞑目する。
 数十秒のあまりに長く感じる時間のあと、瞳を開いたベリアスは、いつもの穏やかな微笑みでルナシェを見た。

「ルナシェは、何一つ心配することはない」
「あ、あの…………」
「ルナシェと一緒にいる時間をとれないことは、悔しいが」
「えっ、あの…………」

 味方にすれば頼もしいが、敵にすれば恐ろしい。
 ベリアスを形容する言葉には、そんなものもあったとルナシェは思い出してしまった。

(もっと早く、話した方がよかったのかもしれないわ?)

「全部俺に、任せておけばいい」

(し、刺激が強すぎる!)

 結局、真実を伝えたのにもかかわらず、抱きしめられルナシェはもう一度口づけされた。
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