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魔法の手紙と青い炎
しおりを挟むルナシェは一人、部屋のベッドに沈んだ。
天蓋付きのベッドは、もちろん高級で、肌触りのいいシーツで覆われている。
お行儀が悪く、淑女としては失格だと自覚しながらも、ルナシェはうつ伏せに突っ伏したまま、シーツの上を手のひらでなでた。
あの場所と違って、肌触りがいいシーツ。
(あの場所で、あの人と一緒に触れたシーツは、肌触りがざらざらしていて、少しひんやりしていて……)
ベリアスに会いたい。それだけが、胸の中全部を占めてしまう。
その時、扉がたたかれて、使用人の一人がたくさんの手紙の束を差し出した。
きらびやかな封書の数々。けれど、その一番上にのせられた手紙は、ごくシンプルな白い封筒だ。
けれど、ルナシェにはそれがだれから来た手紙か、すぐに分かってしまう。
ほかの手紙を一度ライティングデスクの上にのせ、その一通だけを手に取ったルナシェ。
震える手で、けれど宝物のように丁寧に封を開く。
そこにはたった一言、会いたいと綴られていた。
ルナシェが書いた長い手紙に対して、ベリアスの手紙はいつも短い。
けれど、必ず日を置かずに返事は届けられている。
それがうれしい。そして、ベリアスの不器用さを知っていくようで、今までのすれ違いにため息が漏れる。
「……ベリアス様、私もお会いしたいです」
たった三日間過ごしたあの日々から、ルナシェはいつだってベリアスに会いたかった。
けれど、思いを伝え合ってしまえば、もっと会いたい。
(そばにいたいです。ベリアス様)
普通の恋人同士であれば、そばにいることができるのだろうか。
少なくとも、ルナシェとベリアスは婚約者同士のはずだ。
でも、ルナシェのそばにベリアスはいない。
「会いに行ってしまおうかしら……」
思わずこぼれた言葉は、ルナシェの気持ちそのものだ。
けれど、すでにドランクの砦周辺は、再び激戦の地と化しているという。
ルナシェが行っても、ただ足手まといになるだけだと、分かってしまうから。
そっと、手紙に頬をすり寄せる。ベリアスの針葉樹のような香りだけが残されている気がする。
気を取り直したルナシェは、ほかの手紙を確認することにした。
ここのところ、毎日山のように届くのは、どれもルナシェを夜会やお茶会に誘う貴族令嬢からの手紙だ。
(前の人生とは、大違いだわ……)
一人で過ごしていることが多かった、やり直す前のルナシェは、だれともやりとりをしていなかった。
別に、ルナシェが引きこもっていることが好きだったわけではない。
元々、ルナシェはどちらかというと社交的な性格だ。
ただ、辺境伯家という微妙な立ち位置、王家や高位貴族とのバランスを崩さないために、目立たないように過ごしていただけだ。
その中の一通に目をとめる。それは、明らかにほかの手紙とは趣が異なっていた。
「黒い封筒に、金の封蝋…………。見たことがない紋章」
その時、扉がたたかれる。
ルナシェが許可を与える前に開かれた扉。
「――――ルナシェ様」
「どうしたの、グレイン……。まだ、入室の許可は」
いつも礼儀正しいグレインにしては、珍しいと思いながら振り返ったルナシェ。
けれど、いつもと違った雰囲気のまま歩み寄ってルナシェから手紙を取り上げたグレインの真剣な表情に、ルナシェは息をのんだ。
「グレイン?」
「開けてはいけません。魔力がこもっております」
「――――この手紙に覚えがあるの?」
「…………」
すでにルナシェの手から取り上げられた手紙は、封を開けることもないままにグレインの手のひらの上で、青い炎を上げながら燃え尽きた。
その不思議な光景を、瞬き一つすることができないまま、ルナシェは見つめていた。
「――――魔法」
そして、その言葉だけが、ルナシェの渇いた喉からようやく紡がれた。
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