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第2章
夫の色のドレス
しおりを挟むお茶会を開催するにあたり、頭を悩ませることのひとつ、それは当日何を着るかということだ。
アシェル様が贈ってくださるドレスは、どれもピンクや水色、パステルカラーで可愛らしい。
『妖精のようなフィリアには、こういう淡い色合いがよく似合う』
最近、アシェル様の言葉を聞いていると、実家の兄たちを思い出す。
兄たちは幼い頃から私のことを『妖精のように可愛い』と言っていた。
おそらくアシェル様も兄たちの影響を受けてしまったのだ。
「でも、もう少し大人びたドレスを……」
アシェル様に愛しいと言われてから早三ヶ月。お茶会の準備はあとはドレスを選ぶだけ。
王室御用達というお店には、色とりどりのドレスが並んでいる。
それらのドレスはすべて色事に順番に並べられている。
それはそうだろう、この国では正式な場では夫や婚約者、恋人の髪や瞳の色のドレスを身につけるのが慣例なのだ。
(最近は必ずしもそうだとは言えないけれど)
濃い緑色のドレスが並んだ一角。
一人の女性が真剣にドレスを物色していた。
その女性は黒髪を肩より上でバッサリと切っている。
(まさか、こんな場所でお会いするなんて……)
カチャリ、とドレスを戻してその女性が金色の瞳を私に向ける。
「……ベルアメール伯爵夫人、お久しぶりです」
「えっ、ええ……。ランディス子爵令嬢、先日はどうもありがとうございました」
「……」
ランディス子爵令嬢は、金色の目をスッと細めた。
その仕草はどこか私のことを非難しているようにも思える。
「あの……」
「単刀直入に聞きます。宰相殿のことどう思われているのですか?」
「えっ」
もちろんアシェル様は私の初恋の人で、大好きな旦那様だ。
「世界で一番好きな人、でしょうか……」
「……はあああ」
なぜかランディス子爵令嬢が、大きなため息をついた。
「なるほど……でも、宰相殿にはその気持ち、伝わっていませんよ」
「……それはいったい」
「毎日、ため息を聞かされる身にもなってください。どうして、公の場で宰相殿の色のドレスを着ないのです?」
「それは」
ランディス子爵令嬢の言うことは最もだ。
私だって婚約式の後、アシェル様の色のドレスを着ようとした。
でも、似合わないしアシェル様が贈ってくるのはパステルカラーのドレスばかりなのだ。
(妖精のような私が好きだというのなら、アシェル様がお好みの色を身につけたほうが……)
そんなことを思いながら、つい俯いてしまう。
「また、宰相殿の好みがとか言い訳がましいことを考えているのですか?」
「……なぜ、私の考えていることがわかるのですか」
「……かつて私もそうでしたから」
驚いて顔を上げると、ランディス子爵令嬢は少し不機嫌な顔で私を見ていた。
「周りを変えることはできないのだから、いつだって自分だけは自分のために行動したっていいと思うんです。つまり、着たい色があるなら自分に似合う方法を探せばいいのでは」
「……っ」
「まあ、これも私の考えでしかないの、で? わわっ!?」
次の瞬間、私はランディス子爵令嬢の腕をがっしりと掴んでいた。
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