夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら

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第2章

仲間意識

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「さて……ベルアメール夫人は、濃いグリーンのドレスが似合わないと言うけれど」

 ランディス子爵令嬢の言うとおり、私には夫の色が実際似合わない……それは、何度も挑戦してわかっていることだ。
 けれど、ランディス子爵令嬢が手にしたのは、濃いグリーンの布地だった。

 彼女はバサリと布を広げ私の肩にかける。

「そうね、イメージは森の奥にたった一輪ひっそりと咲いた儚げな淡いピンクの薔薇かしら」
「ランディス子爵令嬢まで、アシェル様みたいなことを言い出した!?」
「は……? 普段の上司からあまりに乖離した愛妻像なんて知りたくもない」

 ランディス子爵令嬢は、一瞬だけゾッとしたように体を震わせた。
 私は普段のアシェル様を知らないのだ。
 古典恋愛の本から持ち出したような賛辞を並べる彼のことしか……。

「……仕事中はすまして冷徹宰相を装っているから、ほかの人間が知ったら驚くでしょうね」
「……」
「まあ良いわ。とにかく、今回は真っ正面から宰相殿の瞳の色に合わせるわよ」
「……っ! よろしくお願いします!!」

 そのあとは、デザイナーとも相談しながらひたすらお着替えと小物選びの時間が続いた。

 ――気がつけば日が傾いていた……。

「ここまでお付き合いいただいたけれど、お仕事は良かったのですか?」
「宰相殿と宰相補佐殿に任せておけば大丈夫よ。そもそも私は楽して最高の仕事をすることを目指しているから」

 フフンッと鼻で笑い、ランディス子爵令嬢はようやく決まったデザインと布、そして小物をテーブルに並べた。

「お茶会の飾り付けとコンセプトは、森に紛れ込んだ妖精姫の秘密のお茶会よ」
「……やっぱり、アシェル様が私を褒めるときみたい」

 ランディス子爵令嬢はため息を一つつくと、我が家の侍女たちを一堂に集めた。

「と、いうことでお茶会のイメージは森の中、そして淡いピンク色の薔薇で統一してもらうわ。ところどころに、白を入れて幻想的な雰囲気にすることを忘れずに」
「かしこまりました!!」

 いつの間に皆の心を掴んだのか。
 初めのうち侍女たちは自分たちの領分を侵されまいと少々とげとげした雰囲気だったのに、いつの間にか長年ともに戦った戦友みたいになっている。
 ランディス子爵令嬢と侍女長が固い握手を交わす。

(たぶん、ランディス子爵令嬢はこうやって周囲を巻き込みつつも最高の結果を残し、女性でありながら文官として出世してきたのね……)

 肩の上でバッサリ切られた黒髪に金色の鋭い瞳。彼女のことを悪く言う人は多いけれど、それと同時に熱烈に信奉する人も多い。

 ジョシュア様もその一人なのだろうか……。
 そんなことを思いつつ、私は仕事を終えたとばかり意気揚々と去って行くランディス子爵令嬢の背中を見送ったのだった。
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