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第2章
ドレス選び
しおりを挟む「そういえば、お茶会用のドレスはどうなった? 気に入ったものはあったか」
「あっ……」
アシェル様の顔を見ると、いつも幸せいっぱいでついつい彼のことばかり考えてしまう。
(そういえば、ランディス子爵令嬢とジョルシュ様のことを話していなかったわ)
一緒にドレスを買いに行くくらいなのだ。直属の上司であるアシェル様なら、二人の関係も耳にしていることだろう。
けれど、もし隠しているのだとすれば、私が勝手に話していいことでもない。
「実はまだ注文できていないのです。それとお店でランディス子爵令嬢とお会いして……」
「ああ、なるほど。ジョルシュと一緒に行くと言っていたな」
「……!!」
やはり二人の仲はアシェル様公認らしい。それなら話が早い。
「実はドレスについてはランディス子爵令嬢にご相談してまして……」
「……? いつの間にそのような仲に。いや、先日も彼女の世話になったと言っていたな」
「はい!! 今度のお茶会にもご招待させていただいているのですが……」
「確かに第三王女殿下や公爵夫人を招いたお茶会に子爵令嬢が参加というのは些か……だが、それと同時に高位貴族や王族と面識があるということは仕事上での強みともなる……か」
アシェル様は、あごに手を当てて考え込んでいるようだ。どんなことも仕事に関連付ける姿勢は宰相としては素晴らしいのかもしれないけれど、心安まる暇がない。
「ランディス子爵令嬢をお招きして、相談しながらドレスを作っても良いですか?」
「ん、珍しいな。屋敷にデザイナーを招くのか? いつもそこまでの贅沢はできないと勧めても断るのに」
「ええ、私、今回のお茶会のドレスには気合いを入れたいのです!!」
「そうか……それでは王都最高のデザイナーを呼び寄せるとしよう」
「ありがとうございます!」
この話は終わりにして、食後のデザートと紅茶を楽しむ。アシェル様はブラックコーヒーを飲んでいる。
コーヒーを飲む姿すら、目のやり場に困るほど格好いい。
目が合うとアシェル様の濃いグリーンの目が細められた。
それだけで心臓がドキドキと音を立て始める。夫婦になって日が経つのに、アシェル様のことが好きになる一方で困る。
食事を終えるとアシェル様に手を引かれて二人の部屋へと向かう。
今日も幸せな一日はこうして終わるのだ。
* * *
「それで……業務の一環として呼び寄せられたはずなのに、なぜ注文が殺到しすぎて一年待ちというデザイナーに頼むドレスを一緒に考えさせられているのかしら?」
翌日、ランディス子爵令嬢が我が家を訪れた。アシェル様が声をかけてくださったらしい。しかも、一年以上待ちというデザイナーまで招かれていた。
「えっと……今度のお茶会は、令嬢やご夫人方と新たなパイプラインを作るための重要ミッションということです」
「こじつけのようでしゃくだけど、滅多に王女殿下や公爵夫人とお話しする機会なんてないもの。悔しいけど今後の改革の際にも役立つかもしれないわ! それに、大人気デザイナーのドレスを私まで作っていいなんて太っ腹すぎるわよ!!」
ベルアメール伯爵夫人としてお茶会を開催するのは今回が初めてだ。
というよりも、辺境伯領は王都から遠く離れていて近くに高位貴族の令嬢がいないのでお茶会開催が初めてだ。
一方、ランディス子爵令嬢はお茶会開催の経験がもちろんあるし、文官として働いていて作法にも詳しいらしい。
「さあ、時間は有限。さっさと選ぶわよ!」
そう言うと、ランディス子爵令嬢はデザイン片手に布地を選び始めた。私もドレスに使う布地を選び始めたのだった。
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