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第3章
王命と乱入
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「あの、やっぱり会議中なのに部外者が」
「部外者だって言い切れる?」
「うっ……」
なんということだろう、言いきれないではないか。今回の問題はロイ・レザボア殿下からの婚約の申し込みをお断りしたのが始まりなのだ。
「陛下からのお言葉を伝えます。この国の平和はあなたにかかっているわ!」
「なぜ陛下が!?」
「陛下はそういうお方だし、アシェル様のことを便利な駒だと思ってる節があるわ。――アシェル・ベルアメールの妻になったのだもの、覚悟なさい」
「……アシェル様の妻」
「何よ、私だってあなたを呼んで来いなんて陛下の命を受けてびっくりしたわよ……って、何で唐突にドアを開けるのよ!!」
ランディス子爵令嬢の悲鳴のような声が聞こえてくる。
けれど、覚悟を決めた瞬間開けなければ、一生悩み続けてしまいそうだ。
「……こちらから先に流通経路を塞ぐべきです」
「ふむ、フォルス辺境伯領の協力があるならそれも」
「平和的解決が」
「先にこちらに難癖を付けてきたのは……」
カツンッと、いつもなら鳴らない靴音がした。
意見をいうでもなく会議の様子を静観していた陛下の口の端がつり上がるのを私は見た。
私の行動すら、陛下の手の上だったというわけだ。
会議の参加者全員の視線が私に向けられる。もう、後には引けない。
高いヒールの靴を履いていると、いつもと見える景色が違う。
ランディス子爵令嬢の言っていた『武装』とはこんな意味だったのかと思いながら歩み出る。
「――っもう! 秘書官、ユリア・ランディスが王命により参考人としてフィリア・ベルアメール伯爵夫人をお連れしました」
「赦す」
陛下が鷹揚に許しを与える。
「行くわよ」
「ええ」
「私に話を合わせなさいよ?」
「……もちろん」
「うう、心配だわ」
カツカツカツ靴音が響く。
会議の参加者は全員私を見つめ、瞠目していた。
けれど、1番驚いているのは、アシェル様と下の兄だろう。
二人は普段の冷徹な表情も、高貴な印象も全て剥がれ落ちてしまっている。
私が身につけているのはいつもは着ない黒いドレス。装飾はなくて、スカートの裾も広がっていない、ランディス子爵令嬢が仕事のとき着ている制服のようなジャケット付きだ。
大粒のパールのネックレスにいつもよりちょっと濃いめのメイク。
もちろん姿形が全てだなんて思わない。
でもきっと、ランディス子爵令嬢が選んでくれたこの格好でなければ、気後れしてしまっただろう。
「国の重要問題に夫人を連れてくるとは!」
声を荒げた貴族にランディス子爵令嬢が冷たい視線を向けた。
「――そもそも、手紙の受取人はベルアメール伯爵夫人です。本人の意向を聞きたいというのが、陛下のご意向です。王命に逆らうおつもりですか?」
会場が静まり返る。今度は全員の視線は陛下へと向けられた。
「ベルアメール伯爵夫人」
「――はい」
「君は我が国のために重要な人間だ。隣国に渡すことはできないというのが、私自身の意向だ」
「……恐れながら、私も夫とともにこの国のお役に立ちたいと存じます」
「良かろう」
これで私まで陛下に巻き込まれることが確定した。
しかし、陛下の下でこの国の誰よりも忙しく働く宰相、アシェル様の妻でいたいのなら、これは避けて通れないことなのだ。
――だって、陛下はいつでも人材を欲している。
続いて先ほどまで怒りをあらわにしていたアシェル様のそばへ行く。
「アシェル様と一緒にこの国のお役に立ってみせます」
「……フィリア」
「ただし、平和のためにですよ?」
「……君と平和のために最良の結果を出そう」
私はニッコリと微笑み、陛下に完璧で優雅な礼をした。そして陛下がひとつ頷いたのを見ると、静まり返った会議室から去った。
――あとからランディス子爵令嬢に聞いたところによると、アシェル・ベルアメールに勝てるのは、イディアル・フォルス辺境伯令息でもなく、陛下ですらなく、ベルアメール夫人なのだ、というのが参加者たちの大半の意見だったらしい。
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