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第3章
隣国の王太子と辺境伯領
しおりを挟むさて、今後の方針は平和的解決となったけれど、相手のあることだ。
「ここからよ、問題は」
「ランディス子爵令嬢……」
会議室を後にした私たちは、作戦会議をしていた。
隣国から届いた手紙には、約1カ月後、王太子であるロイ・レザボア殿下がフォルス辺境伯領を訪れると書かれていた。
「隣国は辺境伯領と繋がらなくても強いのに、なぜ……ここまで」
「貴女のことが好きだからでしょう?」
私はその意外な言葉に、空色の目を大きく見開いた。
「え? だって、ロイ殿下は私のことがお嫌いで……」
「……どうしてここまでされているのに、好かれていないと思うのよ」
「会う度に嫌がらせされましたし、私のことなど好きではないと」
「はあ、宰相殿にしても王太子殿下にしても貴女のことが好きな男は皆拗らせているわねぇ」
ランディス子爵令嬢の言葉に、私は衝撃を受けた。そう言われれば、ロイ殿下からは確かに『嫌い』と言われたことはない。
「まさか」
「そう、明らかに好きな子をいじめてしまう心理……でも、いつまでも子どもというわけではないわ。……あら、王族と結婚するほうが良かった?」
「いいえ、私が愛しているのはアシェル様だけ。私の夫は生涯アシェル様ただ一人です!」
ランディス子爵令嬢の金色の目が細められて、私の肩越しに遠くへと向いた。
「……ですって、良かったですねぇ?」
「え?」
振り返ると、ここまで走ってきたのか息も絶え絶えなアシェル様が立っていた。
「……っ!」
好き、大好き、とは言えても、愛してるは恥ずかしいし、夫だと思えるのはアシェル様だけというのはなぜかもっと照れくさい。
ランディス子爵令嬢相手だから言えたのに、まさか本人に聞かれてしまうなんて。
私の頬が熱を持つ。けれど、視線を逸らすその前に、アシェル様の腕の中に閉じ込められていた。
「……俺こそ、生涯君だけだ。だから嫌わないでくれ」
「嫌いになるはずないでしょう?」
「本当に?」
「本当に」
その声は少し震えていた。
出過ぎたことをしてしまったから、嫌われてしまうかもしれないと怯えていたのは私だったはずなのに。
「では、方針は決まったわね」
抱き合って愛を確かめ合っていたところを冷静な相手に見られることは、想像以上に恥ずかしい。
真っ赤になりながらアシェル様を押しのけようとしたのに、彼の腕の力は強くてますます密着するばかり。
「方法とは?」
「――今あなたたちが、私の前で繰り広げていることを歓迎の夜会ですれば良いわ」
「えー」
「それはそれは……フィリアが希望していた平和的解決ではないか」
「悪い顔してますよ、宰相殿」
こうして、ランディス子爵令嬢主導の下、ロイ殿下を歓迎する夜会の計画が練られることになった。
さて、ミラバス王国の平和は守ることができるのだろうか――私の羞恥心と引き換えに。
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