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引き剥がされた魔術
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私の護衛をしてくださるのは、サーベラス侯爵家の騎士、ルエダ卿だ。
まっすぐな性格だという彼は、ディル様の信頼も厚い。
「あの、本当にすぐそこの神殿に行くだけなんですよ? しかも、友人と会うから、少し時間がかかるかも……」
「構いません。必ず奥様をお守りするように命を受けております」
「……誰から」
「我が主、ディル・サーベラス様以外に誰が?」
それはそうなのかもしれない。
でも、どうしてこんなにも厳重に守られているのか不思議で仕方がない。
「……どうして?」
「我が主には、敵も多いですから」
「敵?」
「不安にさせてしまったでしょうか。……余計なことを申しました」
それは、もしかしたらディル様が呪われたことと関係あるのではないだろうか。
半年しかないのだ、出来る限りの情報を集めなくては。
「ディル様の敵なら、私の敵ですね」
「え……?」
驚いたように私を見下ろす、焦げ茶色の瞳。癖の強い茶色い髪。そして、褐色の肌。
砂漠の多い隣国の北にいる民族の特徴が強い彼は、祖父の代からサーベラス侯爵家に仕えているという。
その瞳は、まっすぐで透明感がある。
確かに信頼できる人なのだろう。ほとんどこれが初めての会話だけれど、なんとなく分かる。
「私は、ディル様のためなら……」
「…………なるほど。我が主が、心配される理由が分かりました」
なぜか、私を守るように距離を詰めてきたルエダ卿。
驚いていると、ルエダ卿は笑顔になった。
「ところで、どうして魔力を封じられているのですか?」
「え?」
驚いて顔を上げる。
魔力が封じられている?
確かに、私は子どもの頃から使えた光魔法が、王立学園二年の終わり頃から使えなくなった。
けれど、お父様が方々手を尽くして調べてくれたけれど、その原因は分からなかった。
それなのに、どうしてルエダ卿は……。
「なぜ、そう思われたのですか?」
首を傾げて、こちらを見つめてくるルエダ卿の瞳は、なぜか金の星が瞬いているように見える。
「……俺の故郷に伝わる魔術の気配がしたもので。けれど、ずいぶん強く掛けられているのに、ほころび掛けている。まるで、ほかの魔術も一緒に掛けたのに、無理に引き剥がされたみたいです」
それは、もしかして私がやり直していることと関係しているのだろうか。
「それって……」
「それに、我が主の……。あっ、しまった。奥様に余計なことを言わないように厳命されているのでした」
「え、ええ……?」
すでに、結構たくさん話してしまったルエダ卿は、そう言って私に笑いかけた。
なんとなくだけれど、命令に逆らって私に教えてくれたような気がする。
(二重に掛けられた魔術。無理に引き剥がされた……?)
私に魔術がかかっているなんて、王立学園の魔法講師すら気がつくことが出来なかったのに。
ニコニコしているルエダ卿は、きっとただ者ではないに違いない。
(もしかしたら、ディル様は、私が光魔法を使えなくなった理由に行き着いているのだろうか)
心の中に湧いた疑問。けれど、それは神殿の前で手を振っている聖女、ローザリア様の姿を見たときに霧散してしまったのだった。
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