魔力ゼロ令嬢ですが元ライバル魔術師に司書として雇われただけのはずなのに、なぜか溺愛されています。

氷雨そら

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図書室と魔法 2

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 フール様の横に立つ。キラキラと輝きながら本棚を見つめる瞳は少年のようだ。

「何が素晴らしいのですか?」
「わからないかぁ……。アルベルトはこれを予想していたのかなぁ」
「フール様」
「つまりこの本棚自体が、水の魔力を帯びているんだ」
「えっ!?」

 水魔法の本だからなのだろうか。青色の装丁が多い本が並んだ本棚は、さながら湖のようだ。
 フール様が近づいて比較的劣化が少ない1冊の本を手に取る。

「1冊1冊には、すべて水魔法に関連した魔法陣が描かれている。しかし、1冊だけではあまりに微弱すぎて魔力を感じ取るなんてできない。合わさったからなのか、それとも何かしらの相互作用が生じているのか」

 フール様は首をかしげたあと、「おっと、あまり長く触っていると本が傷んでしまう」と慌てたように本棚に戻す。

「さて、そちらの火魔法の本棚も火の魔力を帯びているな……。つまり、闇魔法の本をもっと集めたなら?」

 あまりに真剣な表情は、何かに妄執しているようにも見えて少し距離をとりたくなる。

「僕が唯一持たない時を司る闇の魔力を集めることができたなら」

 思考の海に沈んでしまったのだろう。いつもの明るくふざけた雰囲気こそが彼の仮面だったのかもしれない。

(これが筆頭魔術師フール様の素顔)

 その時、図書室の扉が開きカツカツという足音が近づいてくる。

(足音だけでわかってしまう)

 視線を向ければ、金色の瞳がこちらを見つめていた。そのまま近づいてきたアルベルトに私は抱き上げられる。

「あの……。フール様は急に現れて」
「わかっている。それよりも」

 もしかして、本棚の件はフール様に知られないほうが良かっただろうか。
 あまりに深刻なアルベルトの表情に息を呑む。

「一緒に来い」
「……怒っているの?」
「もちろん、怒っている」

 眉をひそめて、それなのに私を抱き上げる腕の力は強まる。
 何を怒っているのかわからずに慌てる私と歩みを早めて食堂に入ったアルベルト。

 食堂に着くなり、席に座らされる。

「あの……」
「ところで朝食は何を食べた?」
「カフェオレ?」
「はぁ、昼は」
「ビスケット少しとカフェオレ?」
「なんで疑問形なんだ! それでは夕食は!?」
「……えっ、もうそんな時間!?」

 目の前には湯気を立てたスープとパン。
 ソテーされた魚に添えられた色とりどりの野菜のグリル。

 ブスッと少々乱暴にアルベルトが野菜にフォークを突き立てた。

「ちゃんと食事をしろ。これは命令だ!」
「むぐっ!?」

 フォークに刺したニンジンが口に押し込まれる。
 私がニンジンが苦手なことを知っているのにひどい。

「……ほら」

 涙目になりながらニンジンを咀嚼して何とか呑み込むと少し表情を和らげたアルベルトが、今度はスープを掬って差し出した。

「自分で食べれるぅ……」
「放っておいたら、何も食べずに本に向き合ってしまう人間が何をえらそうに」

 押し込まれたスープ。今度は私好みの味でとても美味しい。
 結局アルベルトは、私が完食するまですべて手ずから食べさせてくれた。
 途中ジルベルト様が扉からこちらをのぞいて親指を立て、ミラベル様が首根っこを掴んで引きずっていくのがチラリと見えた。

(ちゃんと食事をとろう……)

 私は、今度からキチンと食事をとろうと心に誓ったのだった。
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