魔力ゼロ令嬢ですが元ライバル魔術師に司書として雇われただけのはずなのに、なぜか溺愛されています。

氷雨そら

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時の魔法 3

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 普通の転移魔法は学生時代に使ったことがある。
 浮遊感を感じてそのあと深い深い穴に落ちていく感覚には、慣れることがどうしてもできなかった。

(でもこれはその比じゃない)

 いったん体がすべて粒子のようにバラバラになって再構成される感覚。
 もし一度、命を失ってから生き返るとしたら、きっとこんな感覚だろう。

(……だけど、間に合った)

 振り返ったフール様がその漆黒の瞳を見開いた。
 魔法陣の中心に倒れているレイラ様。
 けれど魔法はまだ何も発動していない。

「転移魔法を駆使したから、君もアルベルトも間に合わない計算だったんだけど」
「……レイラ様をどうする気ですか!?」
「……はは、闇の魔力を手に入れて時を遡ったのか。僕があんなに願って探し続けても手に入れることができなかった魔法をいとも簡単に。嫉妬してしまいそうだ」

 フール様からはいつもの軽い雰囲気が消えてしまっている。
 後ずさりたくなる気持ちを叱咤してまっすぐ見つめ返す。
 
「でも、それももうどうでも良い。この魔力があれば、僕の願いは叶うんだ」
「闇の魔力は、他の魔力に打ち消されてしまいます。フール様のように強大な魔力を持っているならなおさら」
「そうだね。……でも、方法はあるのだと君が証明してくれた」

 フール様が指先を天井に向けて小さく精巧な魔法陣を描き出した。
 すると魔法陣から生み出されるように、真っ白な剣が一本現れる。

 その剣はたった1点を目指すようにまっすぐ落ちて、定められたようにフール様の胸に剣が吸い込まれていった。

「はは、はははははは!」

 乾いた笑いが室内に響き渡る。
 血が飛び散ることはなかった。
 それでも消えてしまった魔力の流れに、その剣がフール様の魔臓を貫いたのだと思い至る。

「君が乱入してきたから予定よりもずいぶん時間が経過してしまったよ……。邪魔が入ったら大変だ、急がなくては」

 高い音を立ててフール様が手にした魔石が割れる。漆黒の魔力が禍々しさすら感じる魔法陣を描き出す。


「ねえ、僕の魔力を全て捧げたんだ。どうか帰ってきて」
「ダメッ!!」
「ああ、邪魔をしてはダメだよ。僕の悲願は誰にも邪魔させない」

 フール様に手首を強く掴まれる。ギシギシと骨がきしむ音がして振り払うことができない。

 魔法陣が暗く輝き、完全に発動する様を私は見つめていることしかできない。

「レイラ様!!」
「……魔力が足りない。これでは不完全だ」
「え?」

 ドンッと背中を押されて魔法陣の中に倒れ込む。
 急速に魔法陣に魔力が奪われていく。

(いったい何の魔法を発動しようとしているの)

 魔力が枯渇していく脱力感に身動きがとれなくなる。そのとき不意に脇の下に手が差し込まれ足下が浮いた

「恐ろしいほど複雑だが、繊細て脆い魔法陣だな」
「っ……」
「それでも完全に破壊するには、魔力が足りないか……」
「や、やめろ! やめてくれ!!」

 淡いグリーンに色づいた美しい風が、魔法陣の中心を通り抜けていった。
 その風は、あまりに微かで弱い。

 それでも私から魔力を奪っていた魔法陣は機能を停止し、自由を取り戻す。
 息も荒く今にも倒れそうなのに、私を離さないアルベルトに抱き上げられながら、ことの成り行きを見守る。

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