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第2章

人魚姫と筆頭魔術師の幸せ 1

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 * * *


 その夜、「肉を用意した」という、色気のない言葉に、私は飛び上がった。喜びのあまり。

「そんなに喜ぶか?」
「な、何年振りのお肉だと思っているんですか?!」
「何年振りだ」
「十六年振りですよ!」

 クラウス様が、怪訝そうな表情になる。
 そのことに、浮かれている私は、気がつかない。

「……十六歳ではなかったか?」
「そうですよ?」

 つまり生まれて初めてということになる。
 一瞬だけ、クラウス様は、何か言いたそうにしていたけれど、早くお肉が食べたい私はその腕を引く。

 初めて部屋の外に出れば、長い長い廊下の端の部屋だったことがわかる。疲れてしまうほど長い廊下。お掃除も大変そうだ。

「食堂だ」
「うわぁ。海の中みたいな広さですね」
「ふっ、大袈裟だな」

 そうだろうか? 
 こんな広い食堂で食べるなんて初めてだ。
 私は、いそいそと、クラウス様が引いてくれた椅子に座る。

「ありがとうございます」
「……ああ」

 そっけない態度の時は、照れているということに、先ほど気がついた。だから、そんな態度すら逆にうれしく思ってしまう。重症だ。

 運ばれてきたお肉は、豚に鶏、牛肉、そして何かの赤身肉。

「なにが何の肉かわかるか?」
「うふふ。豚と鶏と、牛肉ですよ。常識問題です。そして、もしや、これが」
「……ああ、約束のドラゴンだ」

 とりあえず、端から食べてみる。
 うん、素晴らしい焼き加減、素晴らしきドラゴン肉。ドラゴン肉は、ジューシーで、臭みがなくて、硬いのかと思いきや、柔らかい。

「おいしいです」
「…………そうか」

 口の端を歪めて笑ったクラウス様が、なぜか思案顔なのが気になるけれど、まずお肉。
 あと、ふわふわの白パン。海の中では、ふやけてしまうものね。

 それに、人魚の時は、そんなにお腹が空かなかった。魔力の影響なのだろうか。

「たくさん食べてくれ」
「クラウス様は? 一緒に食べましょう」
「ああ、そうだな?」

 美味しくて、楽しくて、幸せな時間。
 あとから、魔法薬の材料や、触媒としてのドラゴン肉の価値を知ってしまった時には、そのあまりのお値段に、殺到しかけたけれど。

「俺が仕留めたんだから、実質タダだ」

 うん、そうですよね。タダですよね。

 たぶん、クラウス様は、仕留めてなくても買ってくれた気がしたけれど、そのことには気がつかないことにしておいた。
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