12 / 29
第2章
人魚姫と筆頭魔術師の幸せ 1
しおりを挟む* * *
その夜、「肉を用意した」という、色気のない言葉に、私は飛び上がった。喜びのあまり。
「そんなに喜ぶか?」
「な、何年振りのお肉だと思っているんですか?!」
「何年振りだ」
「十六年振りですよ!」
クラウス様が、怪訝そうな表情になる。
そのことに、浮かれている私は、気がつかない。
「……十六歳ではなかったか?」
「そうですよ?」
つまり生まれて初めてということになる。
一瞬だけ、クラウス様は、何か言いたそうにしていたけれど、早くお肉が食べたい私はその腕を引く。
初めて部屋の外に出れば、長い長い廊下の端の部屋だったことがわかる。疲れてしまうほど長い廊下。お掃除も大変そうだ。
「食堂だ」
「うわぁ。海の中みたいな広さですね」
「ふっ、大袈裟だな」
そうだろうか?
こんな広い食堂で食べるなんて初めてだ。
私は、いそいそと、クラウス様が引いてくれた椅子に座る。
「ありがとうございます」
「……ああ」
そっけない態度の時は、照れているということに、先ほど気がついた。だから、そんな態度すら逆にうれしく思ってしまう。重症だ。
運ばれてきたお肉は、豚に鶏、牛肉、そして何かの赤身肉。
「なにが何の肉かわかるか?」
「うふふ。豚と鶏と、牛肉ですよ。常識問題です。そして、もしや、これが」
「……ああ、約束のドラゴンだ」
とりあえず、端から食べてみる。
うん、素晴らしい焼き加減、素晴らしきドラゴン肉。ドラゴン肉は、ジューシーで、臭みがなくて、硬いのかと思いきや、柔らかい。
「おいしいです」
「…………そうか」
口の端を歪めて笑ったクラウス様が、なぜか思案顔なのが気になるけれど、まずお肉。
あと、ふわふわの白パン。海の中では、ふやけてしまうものね。
それに、人魚の時は、そんなにお腹が空かなかった。魔力の影響なのだろうか。
「たくさん食べてくれ」
「クラウス様は? 一緒に食べましょう」
「ああ、そうだな?」
美味しくて、楽しくて、幸せな時間。
あとから、魔法薬の材料や、触媒としてのドラゴン肉の価値を知ってしまった時には、そのあまりのお値段に、殺到しかけたけれど。
「俺が仕留めたんだから、実質タダだ」
うん、そうですよね。タダですよね。
たぶん、クラウス様は、仕留めてなくても買ってくれた気がしたけれど、そのことには気がつかないことにしておいた。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
362
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる