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第2章

青い鳥と第三王子 1

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 * * *


 人魚姫は、人間になって幸せに暮らしました。

 そんな物語のエンディングなんてもの、人生にはめったに訪れない。
 だって、そのあとも人生という物語は続いていくのだから。

 だから、ドレスに身を包んだ私は、前を向いて…………。

「ところで…………どうしてこうなった?」
『それは、必然だ』

 華やかな王宮に、一人潜入している私。厳密にいうと一人と一羽で。
 どうして、王宮などに来ることになったのかといえば、クラウス様が、窮地に立たされているという情報を得てしまったからだ。

 クラウス様が出かけたとたん、することがなくなってしまった私は、大人しく本を読んで過ごしていた。その時だ、窓をコツコツくちばしで叩いて、青い鳥ラックが私の前に現れたのは。

 窓を開けると、「ピピッ」と嬉しそうな鳴き声を上げてラックが部屋の中に入ってくる。

「お久しぶりね? ラック、先日は助けてくれてありがとう」
『お安い御用というか、どちらかといえばレイラの魔法を少し補助しただけだ。褒美には程遠いだろう』
「ところで、今日はどうしてここに?」
『――――クラウスが、また無謀なことをしているから、知らせようと思って』

 ラックによると、私のことを連れて王宮にはせ参じるように、クラウス様に王命が下ったという。
 どうして、屋敷の外に一歩も出ていない私のことが、国王陛下の耳に入ったのかは不明だけれど、王命と聞いて、背中を冷たい汗が伝う。
 クラウス様は、王家に仕える筆頭魔術師様だ。王命に逆らうなんて、断罪されてしまったらどうするつもりなのだろうか。

 今朝、いつも通りほほ笑んだクラウス様は、「行ってくる。好きなことをして過ごしていてくれ」と言っていた。そのあとに、行ってらっしゃいの口づけを……。ボボボッと頬が熱くなってしまったので、思い出すのはやめようと思う。
 とにかく、そんなそぶりは少しも見せなかった。油断も隙もない。

「どうして、私に一緒に来るように言わなかったのかしら?」
『それくらいわかってやれ』
「……どうすればいいと思う?」
『レイラが王宮に行かない限り、クラウスは帰って来られないだろうな』

 その一言で、私の王宮行きが決定したのだった。
 ラックが髪と瞳の色を変えてくれたので、ドレスに身を包んだ私が、あの日の人魚姫だということに気が付く人はいないようだ。
 それに、青い鳥ラックは、なぜか王宮では顔パスらしい。
 むしろ、すれ違う人たちが恭しく頭を下げているところを見ると、もしかしたら、偉いのかもしれない。

「あの、もしかしてラックは、偉いの? えっと、今後はラック様とお呼びしたほうがよろしいでしょうか?」
『今さらやめてくれ。気持ち悪い』

 否定しなかったところを見ると、様をつけて呼ぶのが正解だったようだ。
 けれど、私としても今さら言葉遣いを改めて、距離を取るのも嫌なので、お言葉に甘えることにする。

 宮殿は、海の中の人魚のお城なんて比べ物にならないくらい大きい。
 かかとの高い靴のせいで、靴擦れの痛みが耐えがたくなったころ、ようやく大きな扉の前についたのだった。

 
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