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第2章
青い鳥と第三王子 1
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人魚姫は、人間になって幸せに暮らしました。
そんな物語のエンディングなんてもの、人生にはめったに訪れない。
だって、そのあとも人生という物語は続いていくのだから。
だから、ドレスに身を包んだ私は、前を向いて…………。
「ところで…………どうしてこうなった?」
『それは、必然だ』
華やかな王宮に、一人潜入している私。厳密にいうと一人と一羽で。
どうして、王宮などに来ることになったのかといえば、クラウス様が、窮地に立たされているという情報を得てしまったからだ。
クラウス様が出かけたとたん、することがなくなってしまった私は、大人しく本を読んで過ごしていた。その時だ、窓をコツコツくちばしで叩いて、青い鳥ラックが私の前に現れたのは。
窓を開けると、「ピピッ」と嬉しそうな鳴き声を上げてラックが部屋の中に入ってくる。
「お久しぶりね? ラック、先日は助けてくれてありがとう」
『お安い御用というか、どちらかといえばレイラの魔法を少し補助しただけだ。褒美には程遠いだろう』
「ところで、今日はどうしてここに?」
『――――クラウスが、また無謀なことをしているから、知らせようと思って』
ラックによると、私のことを連れて王宮にはせ参じるように、クラウス様に王命が下ったという。
どうして、屋敷の外に一歩も出ていない私のことが、国王陛下の耳に入ったのかは不明だけれど、王命と聞いて、背中を冷たい汗が伝う。
クラウス様は、王家に仕える筆頭魔術師様だ。王命に逆らうなんて、断罪されてしまったらどうするつもりなのだろうか。
今朝、いつも通りほほ笑んだクラウス様は、「行ってくる。好きなことをして過ごしていてくれ」と言っていた。そのあとに、行ってらっしゃいの口づけを……。ボボボッと頬が熱くなってしまったので、思い出すのはやめようと思う。
とにかく、そんなそぶりは少しも見せなかった。油断も隙もない。
「どうして、私に一緒に来るように言わなかったのかしら?」
『それくらいわかってやれ』
「……どうすればいいと思う?」
『レイラが王宮に行かない限り、クラウスは帰って来られないだろうな』
その一言で、私の王宮行きが決定したのだった。
ラックが髪と瞳の色を変えてくれたので、ドレスに身を包んだ私が、あの日の人魚姫だということに気が付く人はいないようだ。
それに、青い鳥ラックは、なぜか王宮では顔パスらしい。
むしろ、すれ違う人たちが恭しく頭を下げているところを見ると、もしかしたら、偉いのかもしれない。
「あの、もしかしてラックは、偉いの? えっと、今後はラック様とお呼びしたほうがよろしいでしょうか?」
『今さらやめてくれ。気持ち悪い』
否定しなかったところを見ると、様をつけて呼ぶのが正解だったようだ。
けれど、私としても今さら言葉遣いを改めて、距離を取るのも嫌なので、お言葉に甘えることにする。
宮殿は、海の中の人魚のお城なんて比べ物にならないくらい大きい。
かかとの高い靴のせいで、靴擦れの痛みが耐えがたくなったころ、ようやく大きな扉の前についたのだった。
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