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第2章
青い鳥と第三王子 2
しおりを挟む大きな扉は、魔術が施されているのだろうか。
私の手が触れたとたん、小さな魔法陣が現れて、音もせずに軽やかに扉が開いた。
そこにいたのは、淡い金の髪の毛に青い瞳をした「王子様」だった。
これは良くない。人魚姫と王子様は天敵だと教わって来たし、私もそう思っている。
大きな瞳に、優しげに見える微笑み。白い作りこまれた服と深い海の色みたいなマント。
「はじめまして。第三王子ルクス・ミディアムだ」
「…………レイラと申します」
「人魚姫と聞いて、王命を使って呼び出してもらったけれど、ナティアじゃないんだ」
「え?」
ナティアは、私のお姉様の名前だ。
どうして、第三王子殿下が、お姉様の名前を知っているのだろうか。
私は、じりじりと後ずさりたい気持ちを教え込み、頭を下げたまま黙り込む。
「――――それでも、似ているね。その髪色は、桜貝のようだけれど、顔立ちはナティアと本当によく似ている。……もしかして、妹かな?」
なんて答えるのが正解なのだろうか。
お姉様のことを知っているらしい、ルクス殿下。
敵なのか味方なのか分からない以上、余計なことも言えない。
「どうして、人魚を探していたのですか……」
「――――恋をしてしまったからかな?」
「こ、恋……」
なぜ、どうして、王子様が恋に落ているのだろう。お姉様に。
筆頭魔術師様と恋に落ちた人魚の私が、言えることではないかもしれないけれど……。
「ずっと探しているんだけど、あと少しのところでいつも逃げられてしまうんだ。地上には、時々来ているってことまでは、掴んでいるんだけどね?」
にっこり笑いながら、そんなことをいうルクス王子。
『絶対に! 絶対に、溺れている王子様なんて、助けたらだめ。もし、見つけたとしても、絶対に見捨てるのよ!』
私が、成人を迎えて海面に顔を出す日、どこまでも追いかけてきては、必死になって私にそう言っていたお姉様。
物語とか、伝説のせいで神経質になっているのかな? くらいに思っていたのだけれど……まさか。
「まさか、カイル・ルクス第三王子殿下は、人魚におぼれているところを助けられたりしていませんよね?」
「うん? 助けられたね。あと、君はナティアの関係者だろう? 俺のこと、ルクスと呼ぶことを許すよ」
まさか、実体験に基づいていたとは!
「……ルクス殿下は、どうして、海でおぼれたりしたんですか」
「飛行船で隣国に行こうとしたところ、墜落してね? とっさに魔術を使って、なんとか一命はとりとめたんだけど、漂流してしまって力尽きて溺れかけたところを助けられたんだ」
――――何という確率だろう。姉妹揃って、溺れかけていた王子様や筆頭魔術師様をお助けしてしまうなんて……。しかも、お姉様の場合は、まごうことなき王子様をお助けしてしまったんだ。
「愛していると告げても、逃げられてしまうんだよね。俺の愛は変わりはしないのに」
うん。この王子様から逃げ切るのは、なかなか難しそうだ。
ずっと笑顔だけれど、その表情の下には何かが隠されていそうだもの。
これが、第三王子殿下と私の出会いだった。
もちろん、お姉様も含めて、運命の物語に巻き込まれていくのだけれど、それはもう少し先の話になるのだった。
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