上 下
16 / 29
第2章

青い鳥と第三王子 2

しおりを挟む


 大きな扉は、魔術が施されているのだろうか。
 私の手が触れたとたん、小さな魔法陣が現れて、音もせずに軽やかに扉が開いた。

 そこにいたのは、淡い金の髪の毛に青い瞳をした「王子様」だった。
 これは良くない。人魚姫と王子様は天敵だと教わって来たし、私もそう思っている。
 大きな瞳に、優しげに見える微笑み。白い作りこまれた服と深い海の色みたいなマント。

「はじめまして。第三王子ルクス・ミディアムだ」
「…………レイラと申します」
「人魚姫と聞いて、王命を使って呼び出してもらったけれど、ナティアじゃないんだ」
「え?」

 ナティアは、私のお姉様の名前だ。
 どうして、第三王子殿下が、お姉様の名前を知っているのだろうか。
 私は、じりじりと後ずさりたい気持ちを教え込み、頭を下げたまま黙り込む。

「――――それでも、似ているね。その髪色は、桜貝のようだけれど、顔立ちはナティアと本当によく似ている。……もしかして、妹かな?」

 なんて答えるのが正解なのだろうか。
 お姉様のことを知っているらしい、ルクス殿下。
 敵なのか味方なのか分からない以上、余計なことも言えない。

「どうして、人魚を探していたのですか……」
「――――恋をしてしまったからかな?」
「こ、恋……」

 なぜ、どうして、王子様が恋に落ているのだろう。お姉様に。
 筆頭魔術師様と恋に落ちた人魚の私が、言えることではないかもしれないけれど……。

「ずっと探しているんだけど、あと少しのところでいつも逃げられてしまうんだ。地上には、時々来ているってことまでは、掴んでいるんだけどね?」

 にっこり笑いながら、そんなことをいうルクス王子。

『絶対に! 絶対に、溺れている王子様なんて、助けたらだめ。もし、見つけたとしても、絶対に見捨てるのよ!』

 私が、成人を迎えて海面に顔を出す日、どこまでも追いかけてきては、必死になって私にそう言っていたお姉様。
 物語とか、伝説のせいで神経質になっているのかな? くらいに思っていたのだけれど……まさか。

「まさか、カイル・ルクス第三王子殿下は、人魚におぼれているところを助けられたりしていませんよね?」
「うん? 助けられたね。あと、君はナティアの関係者だろう? 俺のこと、ルクスと呼ぶことを許すよ」

 まさか、実体験に基づいていたとは!

「……ルクス殿下は、どうして、海でおぼれたりしたんですか」
「飛行船で隣国に行こうとしたところ、墜落してね? とっさに魔術を使って、なんとか一命はとりとめたんだけど、漂流してしまって力尽きて溺れかけたところを助けられたんだ」

 ――――何という確率だろう。姉妹揃って、溺れかけていた王子様や筆頭魔術師様をお助けしてしまうなんて……。しかも、お姉様の場合は、まごうことなき王子様をお助けしてしまったんだ。

「愛していると告げても、逃げられてしまうんだよね。俺の愛は変わりはしないのに」

 うん。この王子様から逃げ切るのは、なかなか難しそうだ。 
 ずっと笑顔だけれど、その表情の下には何かが隠されていそうだもの。

 これが、第三王子殿下と私の出会いだった。
 もちろん、お姉様も含めて、運命の物語に巻き込まれていくのだけれど、それはもう少し先の話になるのだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ヤクザと犬

BL / 連載中 24h.ポイント:702pt お気に入り:387

ある日王女になって嫁いだのですが、妾らしいです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:305pt お気に入り:2,658

姫プレイがやりたくてトップランカー辞めました!

BL / 連載中 24h.ポイント:2,279pt お気に入り:397

婚約破棄された王女は暗殺者に攫われる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:967

AMEFURASHI 召喚された異世界で俺様祭司に溺愛されています

BL / 完結 24h.ポイント:3,273pt お気に入り:162

すきだよ私の人魚姫

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:589pt お気に入り:0

【R18】お飾り皇后のやり直し初夜【完結】

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:262pt お気に入り:1,424

【完結】何度出会ってもやっぱり超絶腹黒聖職者

恋愛 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:591

処理中です...