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攫われたシュナイダー
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「みなさん!慌てずに…!脱出後は領民を守るのです!いざという時はクローバー王国へ避難を!受け入れの用意はできています!」
「騎士団よ、民を守らずとして騎士とは呼べぬ、民を守れずとして貴族や王族と呼べようや、アレは人間ではない、我が国に巣食っていた『悪魔』である!安全に誘導をするのだ!」
「ブレーキ、陛下、私は侍女と先にクローバー王国へ向かいます。民が向こうに行った際の炊き出しや住居の確保をしてまいりますわ。」
城の外では貴族たちの避難が進む。
ブレーキ王子と陛下は騎士団や近衛騎士団を動かし、混乱を未然に防ぐよう細心の注意を払った。
ライティア妃は自らの魔法でクローバー王国に仮設住宅を作り、炊き出しをすると息巻く。
徒労に終わるかもしれないが、相手が相手である。
準備をしておくに越したことはない。
(みなさん……。ハピネス様…。何事もなく、済みますように…。)
ブレーキは城にまだ残って黒い男と対峙しているアミュレットたちの無事を願いながら、自分のやるべきことを頑張るしかなかった。
目の前の男は、もう嬲っていたゴウマン侯爵やアクセルには目もくれず、会場にいた貴族も気にも留めず、粘着質な視線でアミュレット様だけを見つめている。
アクセルは床に這いつくばり、吊り下げられた檻の中でゴウマンは気を失っている。
シュッ。
その手が伸びるのを、私は見逃さなかった。
身を入れ、剣で男の腕を斬り落とし、アミュレットの周りに結界を重ねる。
「シュナイダー!」
「アミュレット様は下がってください…!」
「お前もだ、シュナイダー、みんなでこの場を離れるんだ!」
ミルクティー色の懐かしい。ルシェルお兄様。
「私はアシェル様の騎士。大切な方をお守りするのが私の…ッ!アミュレット様は渡さない!」
「意気やよし。だが、大局を見落とすな。」
ルシェルお兄様は私の隣でまた『銃』を撃って援護する。
ハピネス様は、結界の重ねがけを続けている、だが瞬時にそれは壊れていく。
背に隠したアミュレット様がどんな表情をしているか私には見えない。
だが、その表情を見ているモルヒネの顔は歪み、私を睨みつけた。
「また兄さんは人間を選ぶのか!ならば忌々しいこの男を始末してやる!」
斬り落とした腕の切断面から、腕が黒い霧を纏いながら再生する。
拘束するために伸びた蔦が、ぴちぴちと音を立ててちぎれ、圧によってその身から得体も知れぬ何かが吹き荒れる。
「う……!!!」
「ふはははははははははは!!!!!!!」
―ねえ、そんなにこの男が好き?じゃあ、僕がこの男になれば、愛してくれる?―
脳内に直接響くかのような、不思議な声色。
ぞわわと身の毛がよだつ。
「シュナイダー引いて!」
アミュレットの召喚した蔦が、10本を超え、緑色の龍を形作り、モルヒネの喉元を狙う。
「ふふふっ」
モルヒネの白目が黒くなり、目が赤くなる。
肌色から血の気は失せ、真っ黒な蝶の羽が背中から生え、その足元からアミュレットが召喚した蔦以上の物量の鋼の蔦が、アミュレットのそれに巻き付いて主導権を奪った。
そして――――――――
「……ッ!!!!」
アミュレットたちは押し負け、それぞればらばらに吹き飛ばされる。
「まだ目覚めたばかりだものね、僕だってアヴァロンお兄様の片割れ。『悪魔』に堕ちたと言っても、君たち程度が止められるとでも?」
カツカツ、と靴音が冷たく響く。
「さぁ、その身を僕に渡すんだ、人間なんて我慢ならないからね。僕が乗っ取った後で、至高の存在にしてあげる。君も少しばかりはお兄様の血を引いているようだし…。その遺伝子をメインに書き換えれば――――――
咄嗟に一番前に出てダメージを引き受けたシュナイダーは、頭から血を流し、気を失っている。
その体に再び、モルヒネの指が触れる。
「や………、やだぁああ!シュナイダー、おきて、おきてぇえええええ!!!」
ちりっ。
「………、なるほど。」
モルヒネは指を引くと、シュナイダーの体を肩に担いだ。
「この男はもらっていくよ。好みの男になって帰ってくるから、待っていてね、お兄様。」
「………や、」
バサバサと羽の音を立てて、モルヒネは消えた。
シュナイダーを攫って。
がれきになった城。
月明りだけが照らすそこで、愛しい彼がいなくなった。
「あぁああ、あぁああああああっ。シュナイダー!!!!」
ガラっとがれきを押しのけて、ハピネスお兄様が僕の肩を抱いた。
そして、僕の側に、足を引きずってルシェル殿下が。
「大丈夫。しばらくは、シュナイダーには手出しはできないはず。彼が好んでいた煙草の葉は、神葉樹の葉です。浄化や魔除けの力を持つ。(欲を発散するために)彼はヘビースモーカーでしたから、体内にかなり浸透しているでしょう。それが抜けるまでは、あいつは手出しできません。」
ルシェル殿下の足を回復しながら、お兄様が教えてくれたこと。
「大事な弟を絶対に無事な姿で取り戻す。僕も一緒に戦わせてくれ。」
「馬鹿。王太子の身で言うことではないでしょう。無責任ですよ。」
「もう、見ているだけは嫌なんだよ…。」
「俺、俺がっ。いえ、お兄様、殿下。助けてください。みんなでシュナイダーを、」
「もちろんです!」
まってて、シュナイダー。
必ず助けるから。
「騎士団よ、民を守らずとして騎士とは呼べぬ、民を守れずとして貴族や王族と呼べようや、アレは人間ではない、我が国に巣食っていた『悪魔』である!安全に誘導をするのだ!」
「ブレーキ、陛下、私は侍女と先にクローバー王国へ向かいます。民が向こうに行った際の炊き出しや住居の確保をしてまいりますわ。」
城の外では貴族たちの避難が進む。
ブレーキ王子と陛下は騎士団や近衛騎士団を動かし、混乱を未然に防ぐよう細心の注意を払った。
ライティア妃は自らの魔法でクローバー王国に仮設住宅を作り、炊き出しをすると息巻く。
徒労に終わるかもしれないが、相手が相手である。
準備をしておくに越したことはない。
(みなさん……。ハピネス様…。何事もなく、済みますように…。)
ブレーキは城にまだ残って黒い男と対峙しているアミュレットたちの無事を願いながら、自分のやるべきことを頑張るしかなかった。
目の前の男は、もう嬲っていたゴウマン侯爵やアクセルには目もくれず、会場にいた貴族も気にも留めず、粘着質な視線でアミュレット様だけを見つめている。
アクセルは床に這いつくばり、吊り下げられた檻の中でゴウマンは気を失っている。
シュッ。
その手が伸びるのを、私は見逃さなかった。
身を入れ、剣で男の腕を斬り落とし、アミュレットの周りに結界を重ねる。
「シュナイダー!」
「アミュレット様は下がってください…!」
「お前もだ、シュナイダー、みんなでこの場を離れるんだ!」
ミルクティー色の懐かしい。ルシェルお兄様。
「私はアシェル様の騎士。大切な方をお守りするのが私の…ッ!アミュレット様は渡さない!」
「意気やよし。だが、大局を見落とすな。」
ルシェルお兄様は私の隣でまた『銃』を撃って援護する。
ハピネス様は、結界の重ねがけを続けている、だが瞬時にそれは壊れていく。
背に隠したアミュレット様がどんな表情をしているか私には見えない。
だが、その表情を見ているモルヒネの顔は歪み、私を睨みつけた。
「また兄さんは人間を選ぶのか!ならば忌々しいこの男を始末してやる!」
斬り落とした腕の切断面から、腕が黒い霧を纏いながら再生する。
拘束するために伸びた蔦が、ぴちぴちと音を立ててちぎれ、圧によってその身から得体も知れぬ何かが吹き荒れる。
「う……!!!」
「ふはははははははははは!!!!!!!」
―ねえ、そんなにこの男が好き?じゃあ、僕がこの男になれば、愛してくれる?―
脳内に直接響くかのような、不思議な声色。
ぞわわと身の毛がよだつ。
「シュナイダー引いて!」
アミュレットの召喚した蔦が、10本を超え、緑色の龍を形作り、モルヒネの喉元を狙う。
「ふふふっ」
モルヒネの白目が黒くなり、目が赤くなる。
肌色から血の気は失せ、真っ黒な蝶の羽が背中から生え、その足元からアミュレットが召喚した蔦以上の物量の鋼の蔦が、アミュレットのそれに巻き付いて主導権を奪った。
そして――――――――
「……ッ!!!!」
アミュレットたちは押し負け、それぞればらばらに吹き飛ばされる。
「まだ目覚めたばかりだものね、僕だってアヴァロンお兄様の片割れ。『悪魔』に堕ちたと言っても、君たち程度が止められるとでも?」
カツカツ、と靴音が冷たく響く。
「さぁ、その身を僕に渡すんだ、人間なんて我慢ならないからね。僕が乗っ取った後で、至高の存在にしてあげる。君も少しばかりはお兄様の血を引いているようだし…。その遺伝子をメインに書き換えれば――――――
咄嗟に一番前に出てダメージを引き受けたシュナイダーは、頭から血を流し、気を失っている。
その体に再び、モルヒネの指が触れる。
「や………、やだぁああ!シュナイダー、おきて、おきてぇえええええ!!!」
ちりっ。
「………、なるほど。」
モルヒネは指を引くと、シュナイダーの体を肩に担いだ。
「この男はもらっていくよ。好みの男になって帰ってくるから、待っていてね、お兄様。」
「………や、」
バサバサと羽の音を立てて、モルヒネは消えた。
シュナイダーを攫って。
がれきになった城。
月明りだけが照らすそこで、愛しい彼がいなくなった。
「あぁああ、あぁああああああっ。シュナイダー!!!!」
ガラっとがれきを押しのけて、ハピネスお兄様が僕の肩を抱いた。
そして、僕の側に、足を引きずってルシェル殿下が。
「大丈夫。しばらくは、シュナイダーには手出しはできないはず。彼が好んでいた煙草の葉は、神葉樹の葉です。浄化や魔除けの力を持つ。(欲を発散するために)彼はヘビースモーカーでしたから、体内にかなり浸透しているでしょう。それが抜けるまでは、あいつは手出しできません。」
ルシェル殿下の足を回復しながら、お兄様が教えてくれたこと。
「大事な弟を絶対に無事な姿で取り戻す。僕も一緒に戦わせてくれ。」
「馬鹿。王太子の身で言うことではないでしょう。無責任ですよ。」
「もう、見ているだけは嫌なんだよ…。」
「俺、俺がっ。いえ、お兄様、殿下。助けてください。みんなでシュナイダーを、」
「もちろんです!」
まってて、シュナイダー。
必ず助けるから。
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